2025年6月29日(日)
共通点の少ない李大統領と金総書記は馬が合うのか?
李在明大統領(右)と金正恩総書記(「共に民主党」と「労働新聞」からキャプチャー)
韓国は保守から進歩への政権交代により北朝鮮政策も強硬路線から融和路線にシフトした。約3年ぶりの路線変更である。
李在明(イ・ジェミョン)大統領は大統領就任式での国民へのメッセージで「北朝鮮との意思疎通を図る窓口を開き、対話と協力を通じて朝鮮半島の平和を構築する」と意気込んでいた。
しかし、独り相撲はできない。相手があってのことである。従って、カギを握っているのは金正恩(キム・ジョンウン)総書記である。
金総書記がゴーサイン出せば、膠着状態にある南北関係は直ぐにでも動く。逆に言うと、両首脳の反りが合わなければ、何年経っても関係は改善されない。従って、対話と協力を復活させることができるかは、金総書記の胸三寸である。
前任者の尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領と金正恩総書記は強面という点では共通していたが、それ以外は何一つ馬が合わなかった。
金総書記は尹前大統領が文在寅(ムン・ジェイン)前政権下で消えていた「北朝鮮主敵論」を復活させたこともあって「歴代のどの保守政権をも凌ぐ極悪非道な政権」との烙印を押し、80年間続いていた南北関係をあっという間に断絶させてしまった。
「挑発すれば報復する」とか「叩き潰す」と脅しあい、挙句の果てに「政権を消滅させる」と怒鳴りあう始末で、まるで縄張りを争うヤクザのような間柄だった。それもドン(親分)が共に忍耐強くなく、ワンマンで気性が激しいことが禍したようだ。
しかし、短気で、感情の起伏が激しい点ではトランプ大統領も同類である。ましてトランプ大統領は今年79歳、一方の金正恩総書記は41歳と、親子ほどの年齢の差がある。
それがどういう訳か金総書記とトランプ大統領は馬が合うようだ。トランプ大統領自身が「金正恩とはケミストリー(相性)が合う」と言っており、金総書記もハノイ会談が決裂してもなお「貴方を尊敬する気持ちは絶対に変わることはない」と言っていたことから確かなのだろう。
荒唐無稽な言葉が時には現実になると言う点での共通点だけでなく▲世襲の苦労知らずの凡々育ち▲自己中心的で自信過剰▲トップダウン方式のワンマン統治スタイル▲予測不能の政治手法▲側近を頻繁に解任するなど忍耐強くない点に加えて▲独特のヘアスタイルに至るまで意外と共通点が多いせいかもしれない。
では、李在明大統領と金総書記とは相性が合うのだろうか?
北朝鮮は李在明政権が発足(6月4日)して3週間以上経っても無反応である。当局者もメディアも一言も論評していない。人物評価もない。
両者を比較してみると、弁護士出身の李大統領と金総書記の共通点は生い立ちを含めほぼゼロである。
年齢では61歳の李大統領と41歳の金総書記は20歳も離れている。最高指導者としてのキャリアでは李大統領は金総書記よりも13年も遅い。この点に限って言えば、38歳違いで、最高指導者の座に4年先に就いた金総書記とトランプ大統領との関係とさほど変わらない。
何よりも決定的な違いは世襲の金総書記とは異なり、李大統領は苦労に苦労を重ね自らの力で大統領の座を手にしたことだ。
それでもあえて共通点を1点挙げるとすれば、両人とも「国益第1主義」「実用主義」を掲げていることだ。ということは、実利を求め現実的な政策を取るという点では考えを同じくしている。
但し、李大統領が金総書記同様に現実主義に立脚し、統一を断念し、二つの国家の存在を認め、「南北関係」を「韓朝関係」に改めてアプローチするならば、在任中の関係改善は可能かもしれないが、文在寅政権の時のあの良き「南北関係」の復元を追求するならば、いつまで経っても朝鮮半島の平和構築は容易ではないであろう。
北朝鮮が李大統領の呼びかけに応じるのか、それとも無視し続けるのか、北朝鮮の対応が注目される。
(参考資料:北朝鮮から冷水を浴びせられた李在明大統領の「就任演説」)