2025年6月3日(火)
凄まじい韓国大統領の絶対的権限
与党の金文洙候補(左)と野党の李在明候補(韓国中央選挙管理委員会から)
罷免された尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領に代わる韓国の新大統領が間もなく誕生する。
韓国の大統領は憲法に基づき国政の最高責任者として絶対的な権限を付与されている。何よりも国民の代表機関としての地位を有している。
人事権だけでも首相及び国防相ら閣僚の任命権を含み軍統合参謀本部議長や陸軍参謀総長ら軍幹部の任命、情報機関「国家情報院」院長及び公共機関や公企業など延べ約2万人の幹部級の人事権を持っている。
日本にとって最大の関心事である外交部門をみると、大統領は外国と条約を締結、批准し、外交使節の信任、受理そして派遣する。国家防衛のため外国に対して宣戦布告もできる。また、外国との講和の権限も与えられている。さらに、軍の外国への派遣、外国軍隊の韓国領土内の駐屯問題に関する決定権も持っている。
但し、こうした権限を行使する場合は必ず国務会議の審議を経て、国務総理と関係国務委員(閣僚)が署名し、文書化しなければならない。
※大統領の宣戦布告権、軍隊派遣権、外国軍駐留決定権の行使は国会の同意を必要とし、条約締結や批准、相互援助、安全保障、講和など国家や国民に重大な財政負担を強いる場合と立法事項に関わるような重要な事項に対する外交権行使には国会の同意が必要となる。
次に国防部門をみると、大統領は国軍を統帥する権限を有している。国軍統帥権を持っているので大統領は国軍の最高司令官としての地位を有する。従って、国軍に対して最高指揮・命令者としての役割を担う。
財政部門では大統領は国家の財政に関するあらゆる権限を有している。予算案の編成歳出権、準予算執行権、予備費支出権や起債権や予算外の国家負担契約締結権、緊急財政や決算検査権等々だ。政府は会計年度ごとに予算案を編成し、会計年度開始90日までに国会に提出しなければならない。
また、行政部門に関しては憲法第66条第4項に「行政府は大統領を首班とする政府に属する」と定められている。これは大統領が行政府の責任者であることを明白にしたものである。大統領が外務、国防、財政以外に人事、内務、保険、環境などすべての行政に関する権限を持っていることは疑問の余地はない。
憲法によると、総理は行政を総括し、国務会議の副議長として大統領を補佐するよう定められている。
※国務会議は議決機構でなく、単に審議機構に過ぎない。これに比べて大統領は直接国民が選出したので国家元首、行政首班、軍総司令官、国務会議議長として国家管理の主要権限と責任が付与されている。総理は大統領に責任を負うが、大統領は国民に責任を負う。
立法部門でも大統領は大きな権限を有している。
大統領は法律設定の過程で法案提出権と法案公布権、法案拒否権を行使できるだけでなく、大統領令を自ら出せる行政立法権を持っている。大統領は政府を代表して国会議員のように国会で法案も提出できる。
大統領は国会で議決された法案に対して異議がある場合、政府に法案が移送された時から15日以内に異議書を付与し、国会に還付してその提議を求めることもできる。大統領から異議申し立てがあった場合、国会は在籍議員の過半数の出席と出席議員の3分の2以上の賛成で国会が定めた法案は法律として確定される。
司法部門では大統領は赦免、減刑、復権を命じる恩赦権と違憲政党の解散提訴権を持っている。
※赦免権とは犯罪人に対する訴追権や裁判権の効力を制限することである。
憲法機関部門では大統領は憲法裁判所長と裁判官と大法院長(最高裁長官)、監査院長と監査委員を任命できる。特に憲法裁判所裁判官の9人のうち3人は大統領が直接指名することができる。但し、憲法裁判所長と監査院長の任命には国会の同意を必要とする。
また、中央選挙管理委員会の構成でも大統領は委員9人のうち3人を任命することができる。
最後に今回問題となった戒厳令宣布権だが、大統領は戦時、事変またはそれに準ずる国家非常事態において軍事力で応じることができる。公共の安寧秩序の維持のため必要な場合、法律の定めるところによって戒厳を宣布できる(第77条第1項)。
非常戒厳が宣布された場合、大統領から指名された戒厳軍司令官は令状制度、言論、出版、集会、結社の自由、政府や法院の権限に関する特別措置を取ることができる。
但し、特定政権の維持の次元での戒厳令は行使できない。国家非常事態が警察力の動員で克服可能な場合は、戒厳は許可されない。
また、国会が在籍議員の過半数で戒厳令の解除を要求した場合、大統領は国務会議の審議を経て、戒厳を解除しなければならない。仮に大統領が戒厳解除の要求に応じない場合は、弾劾訴追の理由となる。
尹前大統領は結局のところ、政権の維持の次元では戒厳令を行使したため国会で弾劾、そして憲法裁判所で罷免される末路を辿ることになった。