2025年6月30日(月)

 李在明政権は「魔物」と称されている韓国の検察を改革できるか?

李在明大統領(「共に民主党」のHPから)

 韓国の絶対的権力者は勿論、大統領である。大統領秘書室長を筆頭に政務首席秘書官から民情首席秘書官、安全保障室長、大統領警護室長ら権力者らが側近として大統領をサポートしている。

 大統領の次の権力者は昔ならば軍であった。

 国民の軍隊を指す「国軍」は2度クーデターで政権を奪取したほど圧倒的な力を有していた。

 軍のレゾンデートルは軍事境界線を挟んで北朝鮮と対峙している限り、揺ることはなかったが、1987年の民主化の到来と共に軍人出身の盧泰愚(ノ・テウ)大統領を最後に軍は後方に下がってしまった。

 加えて1993年に誕生した金泳三(キム・ヨンサム)文民政府が1979年に「粛軍クーデター」を起こし、権力の座に着いた全斗煥(チョン・ドゥファン)、盧泰愚の元大統領らを逮捕し、軍の秘密組織「ハナフェ」を壊滅し、軍の政治介入を禁じた。軍の中立化を実現させたことで軍は今日では権力の座から遠ざけられている。

 軍と並ぶ権力機関は情報機関であったが、韓国中央情報部(KCIA)から改名を重ね、今では「国家情報院」(国情院)と呼ばれている情報機関もまた、金大中(キム・デジュン)民主化政権によって軍同様に国内政治への介入を禁じられ、その役割も権限も大幅に削られてしまった。

 1973年の「金大中拉致事件」に見られるように野党政治家や反体制、民主化人士らを取り締まる「泣く子も黙る」組織として恐れられていたが、金大中政権からは南北対話や南北首脳会談の「窓口」に衣替えしていた。

 軍や情報機関に取って代わり、第4の権力機関として君臨しているのが他ならぬ検察である。というのも、進歩から保守に、あるいはその逆の保守から進歩に政権が変わっても検察は常に裁く側にいるからである。

 韓国の検察は「アンタッチャブルの怪物」と称されるほど絶大な権力を持っている。誰であれ、思いのまま逮捕、起訴できる。政治家も、官僚も、財閥も検察の前では誰も楯突くことができなかった。「泣く子も黙る」はいつの間にか検察のフレーズとなった。

 黒を白に、あるいは白を黒にすることのできる第4の権力機関と呼ばれている検察の改革に挑んだのが金大中大統領の後を引き継いだ弁護士出身の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領であった。しかし、盧大統領は検察の激しい抵抗にあい、改革を成し遂げられないまま退任した。

 検察に挑戦した結果が、側近の相次ぐ逮捕、兄の逮捕、そして子供と夫人の事情聴取であった。いずれも収賄容疑である。そして追い詰められた盧大統領は自宅の裏山から飛び降り自殺してしまった。

 当時大統領秘書室長だった同じ弁護士出身の文在寅(ムン・ジェイン)大統領もまた、盧大統領の意思を引き継ぎ、検察に改革に着手したが、検察総長に尹錫悦(ユン・ソクヨル)ソウル中央地検長を起用したことが裏目に出てこれまた失敗に帰した。

 検察を改革するためソウル大法学部教授だった曹国(チョグック)氏を民情首席秘書官、さらには法務大臣に据え、尹錫悦検察総長と二人三脚で検察改革を企図したが、所詮、組織防御の尹総長と「検察をぶっ壊す」と気勢を上げていた曹法相とは水と油だった。検察は曹法相の娘の不正入学を暴き、曹法相を失脚させ、挙句の果てに天下(政権)を取ってしまった。

 その尹政権下で文在寅元大統領は検察から▲釜山副市長の金融委員会在職当時の収賄容疑調査隠蔽疑惑▲蔚山市長選挙介入疑惑▲原発データー改ざん疑惑から娘婿の不法就職斡旋疑惑を徹底的に追及され、すでに起訴もされている。

 尹錫悦大統領の罷免により大統領の座を手にした、これまた弁護士出身の李在明大統領自身も検察から5つの疑惑を追及され、公職選挙法違反事件ではすでに有罪を宣告されているが、大統領になったことで裁判が停止し、難を逃れている。

 李大統領は自身の問題もあって3度目の正直で検察の改革に大々的に乗り出す構えだ。

 すでに検察改革を進める法相候補には側近の与党「共に民主党」の鄭成湖(チョン・ソンホ)国会議員を起用するが、問題は政府高官の不正の監視や法務などを担う大統領室の民情首席秘書官に元最高検察庁次長だった奉旭(ボン・ウク)弁護士を、また、法務次官に最高検察庁のイ・ジンス刑事部長を任命していることだ。

 ところが、この人事に思わぬところで反対の声が上がっている。

 与党内部からだけでなく友党である第2野党の「祖国革新党」からも奉旭弁護士については「検察改革に消極的人物である」こと、またイ・ジンス刑事部長については「尹錫悦系列の検事である」という理由で反対されている。

 反対派は「文大統領の二の舞になる」と叫んでいるが、李大統領は意に介さないようだ。吉と出るのか、凶と出るのか、興味深い。