2025年6月5日(木)
北朝鮮から冷水を浴びせられた李在明大統領の「就任演説」
李在明大統領(右)と金正恩総書記(「共に民主党」と「労働新聞」からキャプチャー)
北朝鮮の国営通信「朝鮮中央通信」が今朝、韓国の大統領選挙の結果を以下のように伝えていた。
「韓国で昨年の『非常戒厳事態』で大統領が弾劾されてから2か月後に大統領選挙が行われた。選挙では共に民主党の候補、李在明が21代大統領に当選した」
大統領が4日未明に決まってから1日経っての報道だ。
予想通り、外国のニュースを扱う国際面で取り上げられていた。それもたった2行のベタ記事扱いだ。北朝鮮の国民が目にする党機関紙「労働新聞」でも本日付けの6面に同様の記事が載っていた。
記事には「共に民主党」についても李在明大統領について何も触れていなかった。因みに前回の大統領選挙では「保守与党の国民の力の尹錫悦が当選した」と、文在寅(文・ジェイン)政権から保守政権への政権交代を知らせていた。
筆者は5月27日付のこの欄で「北朝鮮 韓国大統領選に無関心の理由 『誰が当選しても同じ』」の見出し記事ですでに北朝鮮が韓国の大統領選挙にも国内政治にも関心を払っていないことを以下のように予告していた。
「昨年12月3日に尹錫悦前大統領が戒厳令を宣布しても長い間沈黙し、また『歴代最も邪悪な政権』と評していた尹前大統領が弾劾、憲法裁判所で罷免され、事実上政権が崩壊しても外電を引用し、国際面でベタ記事扱いにしていたことからも読みとることができた」
無関心の理由については何よりも韓国はもはや同族でも同胞でもなく、外国扱いにしているからに過ぎない。
金正恩(キム・ジョンウン)総書記は2023年12月末に開かれた労働党中央委員総会での報告で「韓国を和解と統一の相手に見なすのはこれ以上、我々が犯してはならない錯誤と思う」と総括し、1か月後の2024年1月15日に開催された最高人民会議での施政演説では「南北関係がこれ以上同族関係、同質関係ではない敵対的な二国家関係、戦争中にある完全な二つの交戦国関係である」ことを強調した上で「我が共和国の民族史で『統一』『和解』『同族』という概念自体を完全に除去する」と宣言していた。
韓国内には「敵対的な尹錫悦政権だから断絶を宣言したまでで李在明政権になれば、また以前の関係に戻るのでは」との期待や楽観論があるが、韓国で保守から進歩への政権交代があっても北朝鮮の「韓国相手にせず」の政策が変わることはなさそうだ。
李在明大統領は昨日、大統領就任式で憲法に則り「朝鮮半島の統一」を宣誓し、国民へのメッセージでは「北朝鮮との意思疎通を図る窓口を開き、対話と協力を通じて朝鮮半島の平和を構築する」との決意を語ったが、北朝鮮は僅か1日で冷水を浴びせたことになる。
李大統領は北朝鮮にはこれまでも「アメとムチの両方が必要」と発言したり、あるいは今回の国民向けメッセージでも「北朝鮮の軍事挑発に備える」とか、北朝鮮が最も嫌っている言葉を使っていたが、北朝鮮は前回も李大統領が大統領選で「大統領に当選すれば、真っ先に北朝鮮に特使を送る」と秋波を送っていても北朝鮮のミサイル発射を何度も「挑発」と厳しく批判していたことから李大統領を見限っていた。大統領選挙の結果が出る前に金剛山に設置されている「海金剛ホテル」など韓国人観光客用の宿泊施設の撤去に着手していたことがその証左であった。
それもこれも「韓国の凶悪な野望は『民主』を標榜しても、『保守』の仮面を被っていても少しも異なるものがなかった」との金総書記の結論に尽きる。
北朝鮮はすでに「共に民主党」にも見切りを付けているようだ。