2025年6月9日(月)

 謎の「ショイグ訪朝」で6月の「金正恩訪露」は中止へ ウクライナ戦に本格参戦か!?

一昨年訪露した金正恩総書記を出迎えたプーチン大統領(朝鮮中央通信)

 北朝鮮にとって6月はメモリアルデーが何かと多い。例えば、12日はシンガポールで史上初の米朝首脳会談が行われた日である。また。3日後の15日はこれまた史上初の南北首脳会談が行われた歴史的な日でもある。

 米朝首脳会談は2018年にトランプ大統領と金正恩(キム・ジョンウン)総書記との間で、南北首脳会談は25年前の2000年に金大中(キム・デジュン)元大統領と金正日(キム・ジョンイル)前総書記との間で行われた。二人の金とも今では鬼籍に入っている。

 米朝は今年1月にカムバックしたトランプ大統領が就任早々、米FOXニュースとのインタビュー(1月23日)で、「金正恩氏に再び連絡してみる」と発言し、3月31日にもホワイトハウスで記者団に「金正恩とは意思の疎通がある。我々はおそらく何かをするであろう」と意味深な発言をしていたことからシンガポール会談7周年にあたる今月に何か動きあるのではと予測されていた。しかし、北朝鮮の米批判が鳴りやまないことから大きな変化を期待するのは時期尚早のようだ。

 南北も韓国の大統領が敵対的な尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領から融和的な李在明(イ・ジェミョン)大統領に取って代わったことから変化を予想する向きもあるが、北朝鮮がすでに南北関係の断絶を宣言していることや6月3日の李在明大統領当選への「労働新聞」の素っ気のない反応からして、これまた和解の動きは望み薄だ。

 この他にも6月は25日に朝鮮戦争勃発75周年を迎えることから米朝間で朝鮮戦争終結に向けて何か動きがあっても良さそうなものだが、トランプ大統領は多忙を極め、金正恩総書記も国内問題に追われていることからそうした余裕はなさそうだ。

 さらに19日は昨年のプーチン大統領の24年ぶりの訪朝で露朝間に「包括的戦略パートナーシップ」が交わされた日でもある。

 両国は本来ならば、金総書記がモスクワを訪問し、この記念すべき日を祝うことになっていたようだ。

 昨年11月に崔善姫(チェ・ソンヒ)外相が訪露し、プーチン大統領と面会した際に招請状を受け取り、また今年3月に訪朝した前国防相のセルゲイ・ショイグ書記がプーチン大統領の親書を伝達した席で金総書記は訪露を快諾していた。

 ロシア側は当初、5月9日の対独戦勝80周年記念式典への出席を期待していたが、金総書記は歴史的な「包括的戦略パートナーシップ条約」が結ばれた日を記念して、ロシアの首都、モスクワを初めて訪れる計画であった。実際にそのための下準備も進めていた。情報、防諜、秘密警察の機能を担う国家保衛部の李昌大(リ・チャンデ)保衛相の訪露がその布石だった。

 訪露の表向きの理由は5月28〜29日にモスクワで開かれた安全保障担当高官国際会議に出席することだったが、ウクライナや欧米、韓国など露朝に敵対する勢力の動静のチェック、即ち金総書記の訪露に向けての警護に主眼が置かれていた。同じに日に治安を預かるロシア内務省のシューリカ次官が訪朝し、日本の警察庁長官にあたる北朝鮮の社会安全相と協議したのもその流れにあった。

 しかし、ウクライナ軍の特殊部隊と保安庁による6月1日のドローンを使ったロシア領への一斉攻撃、中でもドローンをロシア領に事前に持ち込みロシアの国境から約4500キロ離れたシベリア南部のイルクーツク州やアムール州の基地を狙ったドローン攻撃は北朝鮮に衝撃を与えた。

 金総書記の訪露の移動手段は前例に従えば、列車による鉄道移動となる。父親の金正日総書記は2001年に専用列車でモスクワを訪れているが、ハサンに入り、そこからハバロフスク、リヤード共和国のウランデ、さらにはイルクーツク、シベリアのクラスノヤルスク、さらにはウラル山脈を通ってモスクワ入りしていた。往復で約3週間にわたる長旅であった。

 仮に2023年9月の時と同様に訪問地をウラジオストに変更したとしても往復で4〜5日はかかる。

 ウクライナは国際社会で唯一兵士をロシアに派遣し、ロシアのウクライナに侵攻に加担した「戦犯国」北朝鮮を目の敵にしており、報復の機会を窺っているのは十分に予測がつく。

 そのためおそらく、北朝鮮は御身第一の金総書記の身の安全を最優先に考え、6月19日の訪露を取り止めたものとみられる。それが、ウクライナのロシアへの大規模なドローン攻撃から3日後の6月4日にプーチン大統領が急遽、ショイグ書記を再び特使として平壌に送った最大の理由であろう。

 モスクワで予定していた金総書記との会談が困難になったことから金総書記からも信頼されているショイグ書記を通じて北朝鮮にさらなる軍事協力を要請したものと推測される。

 北朝鮮は金総書記がショイグ書記に無条件支持を表明し、「遅滞なく自国が保有する全ての手段で軍事的及びその他の援助を提供する」ことが盛り込まれたパートナーシップ条約を「責任を持って順守する」(金総書記)と確約したことからクルスク州などロシア領に限定されていた戦闘地域をさらに拡大するなどウクライナ戦参戦をさらにエスカレートさせるものと推測される。