2025年3月1日(土)
尹大統領夫人が「命を懸けて朝鮮日報を廃刊する」発言の衝撃
尹大統領の夫人、金建希女史(大統領室から)
新聞を含め韓国の報道機関は日本とは異なり、政治色が極めてはっきりしている。
新聞を例に取るならば、「朝中東」と称されている「朝鮮日報」「中央日報」「東亜日報」そして「文化日報」などは保守色が強く、総じて「体制派」である。これに反して「ハンギョレ新聞」「京郷新聞」「オーマイニュース」など進歩系は政府に批判的である。
保守系の中でも最も右寄りなのが最大発効部数を誇る「朝鮮日報」である。
朴正煕(パク・チョンヒ)―全斗煥(チョン・ドファン)の軍部政権から李明博(イ・ミョンパク)―朴槿恵(パク・クネ)の保守政権、そして今の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権まで一貫して政権を擁護し、一方、金大中(キム・デジュン)―盧武鉉―文在寅(ムン・ジェイン)の進歩政権に対しては批判的な論陣を張ってきたことで知られている。
ところが、尹大統領にとっては味方であるはずの「朝鮮日報」を金建希(キム・ゴニ)夫人が許せないと憤慨していることが明るみに出て、韓国は右も左も大騒ぎである。
事の発端は、韓国の時事週刊誌「時事IN」のチュ・ジヌ記者が韓国政界を揺るがしている一大スキャンダルの「主役」であるミョン・テギュン氏と金夫人の大統領弾劾直後に交わされたとされる通話内容(金夫人の肉声)を公開したことに起因している。
肉声を聞くと、金夫人は「朝中東こそが我が国を台無しにしようとしているガキらだ。自分らの言うことを聞くようにし、後ろでは企業と取引している。どれだけ悪党どもか知っているのか?私は『朝鮮日報』の廃刊に命を懸けることにしたから」と、「朝鮮日報」に激怒していた。
金夫人が「朝鮮日報」になぜ恨みを持ち、狙い撃ちにしたのかは定かではないが、政界では尹大統領夫妻の公職選挙介入疑惑を裏付ける録音ファイルを「朝鮮日報」がミョン・テギュン氏から入手したからではないかと伝えられている。
「朝鮮日報」は尹大統領夫妻とミョン氏とのやりとりが録音されたファイルを入手したものの「ミョン氏の同意が得られなかった」ことを理由にその中身は今もって公開していない。一説では金夫人が激怒したため封印したのではないかと囁かれているが、真相は不明だ。
では、実際に「朝鮮日報」の廃刊は可能なのだろうか?
尹政権が戒厳令を発令した際に国会議事堂を封鎖し、与野党の代表及び国会議長ら14人の政治家らを一網打尽した後に国会を無力化し、新たに非常立法機構を創設しようとしたことは検察の尹錫悦被告人の起訴状に記されている。
仮に、非常戒厳が成功裏に終わっていたならば、好ましからざる新聞、テレビは閉鎖、廃刊に追い込まれたかもしれない。
その理由は、昨年12月3日に大統領の非常戒厳令と同時に発令された戒厳司令部の布告令第1号に「すべてのメディアと出版は戒厳司令部によって統制される」ことと「フェイクニュースや世論操作、虚偽扇動を禁じる」ことが含まれていることによる。また、布告令第1号に違反すれば、戒厳法第14条(罰則)により違反者は令状なしに逮捕、拘禁されるし、強制捜索の対象にもなる。
実際に、戒厳令が発令された際に戒厳軍は「統制すべき機関」として約10カ所をリストアップしていた。リストには「ハンギョレ新聞」「京郷新聞」の他に尹政権が目の敵にしている「MBC放送」も含まれていた。これらメディアの機能を麻痺させるため戒厳軍は建物に侵入し、断電・断水をする計画だったことも明らかにされている。
戒厳前夜は「朝鮮日報」はリストから除外されていたが、非常戒厳令翌日(12月4日)に「国民を困惑させた戒厳宣布、尹大統領はどう責任を取るのか」との批判的な社説を載せていたこともあって「朝鮮日報」であっても政権に従わなければいつでも「フェイクニュースや虚偽扇動」を理由に社主や記者らが身柄を拘束され、閉鎖、廃刊に追い込まれる可能性はあり得た。
それというのも、韓国には1980年の5月に非常戒厳令で政権を掌握した全斗煥政権が言論を掌握するため全国で新聞社11社、放送会社27社、通信社6社の計44社を廃止した暗い言論弾圧の過去があるからだ。