2025年3月11日(火)

 トランプ政権下でも止まらない北朝鮮の「軍拡」 核とミサイルの次は原子力潜水艦と早期警戒管制機の保有

造船所で原子力潜水艦(左側)視察する金正恩総書記一行(朝鮮中央通信から)

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記が数日前に複数の艦船建設現場を視察した際に原子力戦略誘導弾潜水艦の建造実態を現地で確かめ、写真の一部を北朝鮮が公開したことに韓国に大きな衝撃を受けている。通常戦力では優位に立つ韓国はまだ原子力潜水艦を保有していないからだ。

 原子力潜水艦は動力に原子炉を使用する潜水艦である。原子力技術を持つ国でしか製造できないため保有国は限られ、現在米国、ロシア、イギリス、フランス、中国、インドの6ヶ国しか保有していない。これに9年前に世界で7番目のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)保有国となった北朝鮮が加わろうとしている。

 原子力潜水艦の建造を北朝鮮が公式に認めたのは2021年1月8日に開催された労働党第8回大会で金総書記が5大戦略兵器の一つとして核長距離打撃能力を高めるための原子力潜水艦建造と水中発射核戦略兵器の保有を打ち出した時だ。

 しかし、北朝鮮は先代の金正日(キム・ジョンイル)前総書記の頃から原子力潜水艦に関心を示していた。今から13年前の2012年7月14日に金光鎮(キム・グァンジン)人民武力部副部長(当時)が朝鮮革命博物館で金正日氏に原子力潜水艦の模型の前で説明する動画が配信されているのを知る人が少ない。

 金正恩総書記は党大会で「設計の研究が終わり、最終審査段階」と述べ、昨年1月28日には新型戦略巡航ミサイル(SLCM)「プルファサル(火矢)3―31」の発射実験に立ち会った際に建造現場を視察していたが、来年が最終年度となる5大戦略兵器の目標の中でハイライトとなるのがどうやらこの原子力潜水艦のようだ。

 北朝鮮はロシアから購入した退役ゴルフ級潜水艦(2千トン級)を3千トン級の戦術核攻撃潜水艦「金君玉(キム・クンオク)英雄」に改良し、2023年9月6日に華々しくお披露目したが、一度の進水式で終わり、今もって配備も運用もされていない。

戦術核攻撃潜水艦「金君玉英雄」(朝鮮中央通信)

 金総書記は昨年の、建国記念日(9月9日)の2日前に海軍基地建設予定地を視察し、「大型水上および水中艦艇を保有することに合わせて最新型大型艦船を運用する海軍基地を建設せよ」と指示していたが、新たな海軍基地建設は来年に完成予定の原子力潜水艦の建造に合わせたものとみられる。

 北朝鮮が配信した写真では原子力潜水艦の断片しか公開されていないが、外見上、戦術核攻撃潜水艦「金君玉英雄」よりも大きいことから5千〜6千トン級とみられており、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)だけでなく、SLCMの搭載も可能のようだ。北朝鮮が「朝鮮民主主義人民共和国の海上防衛力は限られた水域が別になく、必要とされる任意の水域に至るまで徹底的に行使される」と豪語していることから原子力潜水艦は太平洋や米国の裏庭にまで活動エリアを広げるものとみられる。

 北朝鮮の党機関紙「労働新聞」は昨年の海軍節(8月28日)に「我が海軍武力は尖端、攻撃、防御力を備えた最全盛期を迎えている」との記事を掲載していたが、東西の清津と南浦の軍港で北朝鮮版「イージス艦」と称される駆逐艦を同時に2隻建造しているところをみると、海軍力に相当力を入れていることが窺い知ることができる。

 また、北朝鮮は昨年8月に国際海事機構(IMO)の国際統合海運情報システム(GISIS)に「金君玉英雄」を含め潜水艦13隻を登録したが、今後、ロシアや中国との海上合同訓練への布石ではないかとみられている。

 北朝鮮にとって海の「目玉」が原子力潜水艦ならば、空の「目玉」は早期警戒管制機(AWACS)であろう。

 AWACSは上空から監視レーダーで敵の航空機や艦船を探知し、その動きを分析し、指揮所と自軍の戦闘機に伝達する「空の目」の役割を担っている。何よりも戦闘機や航空機よりも遥か遠距離から敵を探知することができるので空中戦では優位に立つことができる。

順安の飛行場で早期警戒管制機に改良中のロシア製貨物機(「38ノース」から)

 核とミサイルを完成、保有した北朝鮮は今後、ロシアの技術協力を得て新型戦闘機、新型護衛艦など韓国よりも劣勢な在来式戦力の現代化に力を入れるようだ。

 北朝鮮は公式にはAWACSを開発していることを明かにしていない。しかし、米国の北朝鮮専門サイト「38ノース」は3月4日、平壌順安国際空港の整備格納庫の隣に胴体の上段にレーダードームが装着してあるロシア製航空機「イリューシン(ILー76)」が駐留している場面を衛星写真で捕捉していた。ほぼ完了したものとみられ、外形は中国が保有している警戒管制機「KJ-2000」やインド空軍の「A-50EI」と類似しているとされている。

 仮に北朝鮮のAWACSがインド製ぐらいの能力を有しているならば、その探知距離は450kmに達することから平壌上空から韓国上空全域を監視することが可能で首都・平壌を韓国空軍の空襲から防御することができる。ちなみに韓国空軍はすでに早期警戒管制機「E-737」を4機保有しており、今後さらにボーイング製「E-7」を4基導入することにしている。

 AWACS用に改造された航空機は北朝鮮が1990年代に導入し、国営航空会社「高麗航空」が貨物便として運用している「1L-76」の3基のうち1基で、北朝鮮は2023年10月から改造に乗り出していた。昨年11月の段階ではまだレーダードームは装着されてなかったと、「38ノース」は伝えている。

(参考資料:北朝鮮が地上と地下で濃縮ウラン施設を稼働 10年後に世界第4位の核保有国の可能性も)