2025年3月15日(土)
「クルスク攻防」で敗れたウクライナ 北朝鮮派兵が致命傷に
ウクライナ領に越境した北朝鮮兵士(ウクライナ36独立海兵旅団SNSから)
ウクライナが占領したロシア西部のクルスク州を電撃訪問したプーチン大統領は14日、国家安全保障会議でクルスクの戦場で抵抗を続けているウクライナ軍に「武器を捨てて、降伏すれば、命を保障する」と最後通牒を突きつけていた。
ウクライナ軍が昨年8月に越境攻撃を開始して以来、初めてクルスク戦地を視察したプーチン大統領に対してゲラシモフ軍参謀総長はウクライナ軍が当初占拠していた地域のうち、「86%以上に相当する1100平方キロメートルを奪還した」と報告していた。また、ロシア軍が過去5日間でウクライナ軍から24の集落と259平方キロメートルの土地を奪還し、400人以上の捕虜も解放したとも述べていた。
確かにそれまでの奪還地域が全体(1376平方キロメートル)の約75%だったわけだからこの5日間で奪還地域をさらに10%増やしたことになる。
プーチン大統領は「短期間で敵軍を最終的に打ち負かし、クルスク州を完全に解放することが課題だ」と命じていたが、ロシアにとってどうやら「クルスク解放の日」は目前のようだ。
「武器を捨てて、降伏すれば、命を保障する」との発言はトランプ大統領がSNSを通じてプーチン大統領にウクライナ軍の命保障を求めたことへの回答である。
タス、リアノボスティ通信などによると、プーチン大統領は「我々はトランプ大統領の要請に共感する。米大統領の要求を効果的に履行するためウクライナの軍と政治指導部がウクライナ軍に武器を捨てて、降伏するよう適切な命令を出すべきだ」と、ゼレンスキー大統領に決断を迫っていた。
ロシアはクルスク州の要衝、スジャを奪還したが、この奪還作戦には北朝鮮兵が再編成され、突撃隊として先陣を切っている。一部は国境を越えて、ロシアとの国境との境にあるウクライナの北東部の町、スミまで侵攻していたことがウクライナ軍によって明らかにされている。
ウクライナ軍第36独立海兵旅団は13日、スミでの戦闘映像を公開していたが、ウクライナの軍事分析サイト「ディープ ステイト」は「この映像が国境地帯から南方にキロメートル離れたバシウカ村で撮られたものである」と解説している。
ウクライナ軍のシルスキー総司令官も12日、ロシア軍と北朝鮮兵による圧力が高まっていることを認め、クルスク駐屯部隊を後方に移動せざるを得ないことを認めているが、北朝鮮兵士がロシア兵と共にウクライナ領に侵入したのが事実ならば、初の越境である。
北朝鮮の対露派兵は「露朝包括的戦略パートナーシップ」の「一方が武力侵攻を受けて戦争状態になった場合軍事援助を行う」ことを明記した「第4条」に基づいている。従って、北朝鮮兵の派兵、駐留は原則的にロシア領の防御に限定されているはずである。従って、明らかに不法越境、領土侵犯である。
それにしても北朝鮮の対露派兵はウクライナにとっては誤算であった。アジアの小国、それも最貧国からの「餓えた、?せこけた小柄の兵士」の派兵に当初は「態勢に影響しない」と欧米諸国を含め侮っていたが、蓋を開けてみると、これがウクライナ軍にとっては致命傷になったようだ。
北朝鮮はロシアに「暴風軍団」と称される特殊部隊を中心に約1万2千人を派遣し、その一部はロシアが5万人の大軍で大規模攻撃を仕掛けた11月中旬の「クルスク上陸作戦」に参入したものの大半は「露朝包括的戦略パートナシップ条約」が批准された12月4日以降から本格参戦し、その結果、約4千人の死傷者を出すほど北朝鮮はクルスク前線で曰く「決死戦」に臨んでいた。
およそ約1か月で派兵部隊の3分の1に犠牲者が出たことで1月中旬には「ロシアに派兵された北朝鮮兵士は4月には全滅する」と、ゼレンスキー大統領や韓国国家情報機関「国報院」は予想していたが、しかし、戦闘に徐々に慣れ、ドロン対策など先端武器等対処方法など経験を積めば積むほど、訓練と規律に長けていた北朝鮮兵はウクライナ軍には脅威となった。
ウクライナ軍第80空輸旅団所属にしていた元ウクライナ軍人のユリー・ボンダール氏はSNSで「北朝鮮兵の小型兵器熟練度が非常に高い。彼らの攻撃や躍動的だ。ある司令官は『北朝鮮兵士らに比べれば、ワグネル(民間軍事会社)の傭兵は子どもに過ぎない』と言っていた」と綴っていた。
また、北朝鮮兵と交戦したウクライナ軍の将校は「北朝鮮兵士はロシア兵よりも戦闘意志も精神力が強く、また射撃能力も優れている」と述べ、また別な将校は「北朝鮮兵5人はロシア兵10人分だ」とも語っていた。
モスクワで「露朝包括的戦略パートナーシップ条約」の批准書を交換したロシアのアンドレ・ルデンコ外務次官が1日に訪朝し、現在平壌滞在中だが、仮に金正恩(キム・ジョンウン)総書記との会談がセットされれば、否が応でもその会談の中身が注目される。
(参考資料:恐るべき北朝鮮軍人の「特攻精神」 クルスク州の3分の2を奪還!)