2025年3月17日(月)
「ピョンヤンの春」は来る!? チェコで北朝鮮人権セミナー開催へ
軍首脳らに囲まれる金正恩総書記(朝鮮中央テレビから)
「ソウルの春」とは民主化のことだ。韓国では1979年10月26日に朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が暗殺された直後に一時的に「ソウルの春」が訪れた。
朴大統領の18年にわたる独裁体制の終焉で韓国に待望の民主化の春が到来したが、1979年12月12日に全斗煥(チョン・ドファン)少将率いる軍部が起こしたクーデターによって桜の花が散るように霧散してしまった。
当時の状況をモチーフにした映画「ソウルの春」が韓国で爆発的なヒットとなり、ネットフリックを通じて世界にこの「ソウルの春」という言葉が広く知れ渡ったことからこの言葉にあやかったのか、北朝鮮人権促進のための非営利団体、「THINK」は明日(18日)から6日間、東欧のチェコで「平壌の春は来るか」と題して北朝鮮セミナーを開催するようだ。
前半の3日間はチェコの大学で、後半の3日間は在チェコ韓国大使館で開催されるセミナー(正式名称は「北朝鮮人権増進のための韓国―チェコ間対話:平壌の春はいつ来る」には欧州の大学で教鞭を取っている韓国の北朝鮮専門家や脱北者、それに駐チェコ韓国大使ら外交官らが出席して、プレゼンテーションや証言をすることになっている。また、チェコからはヤン・フィシェル元首相らの出席が予定されている。
ちなみにチョコは北朝鮮とも国交を結んでおり、双方とも首都に大使館を開設している。
第1セッションでは延世大学の金日秀(キム・イルス)客員教授が朝鮮半島の状況と北朝鮮の人権問題について基調報告を行い、また第2セッションでは二人の脱北者が登壇する予定だ。
一人は軍人出身の脱北者で、強制的な兵役など北朝鮮軍の厳しい現実と本人の脱北の過程について、もう一人は中国で脱北者が受けている人権侵害について証言することになっている。
最終日の23日にはチェコの民主化運動の象徴である「プラハの春」が始まったヴァーツラフ広場で北朝鮮の人権問題を喚起させるキャンペーンが開催されることになっている。
主催者の「THINK」はセミナー開催の目的について「チェコが過去、共産主義支配下での民主化を成し遂げた経験に基いて北朝鮮の人々の人権を改善する方法を模索することにある」と述べていたが、チェコから民主化を求める声が平壌に届くのであろうか?残念ながら、答はノーである
韓国とは違い、北朝鮮では1948年の建国以来77年間、クーデターも反政府デモも一度も発生したことがない。同じ年に建国した韓国では前述したように1960年に学生革命、80年に光州事件(人民蜂起)、87年に民主化闘争と3度、政変に繋がる大規模デモが起き、軍事クーデターも1961年、79年と2度起きたのとは好対照である。
金正恩(キム・ジョンウン)総書記の叔父、張成沢(チャン・ソンテク)国防副委員長の処刑や李英鎬(リ・ヨンホ)軍総参謀長らの失脚にみられる政権内部の権力抗争やそれに伴う粛清はあっても不思議なことに民衆デモやクーデターは発生しない。
その理由の一つは、君主(首領)への絶対化と忠誠心を植え付ける思想(洗脳)教育と党が軍をコントロールする唯一指導体系による徹底した国家統制を築いていることにある。
特に最高指導者を「絶対化」、さらに「神格化」させることで首領及び党への謀反は「不敬」にあたるとの贖罪意識を植え付けさせているだけでなく、最高司令官への忠誠心こそが昇進、出世への大前提となるからである。
そもそも北朝鮮にはクーデターを起こせるような土壌がない。軍事クーデターはそれなりの兵力を動員できる将校にしか引き起こせない。少なくとも1万人くらいの兵を動員できる師団長クラス、階級で言うと、少将クラスが計画しないとクーデターは起こせない。下級兵士がいくら不満を募らせても、手も足も出せない。せいぜい脱北するのが関の山である。
ちなみに韓国で起きたクーデターは、数十人の将校が一致結束したからこそ成功した。例えば、1979年のクーデターは、当時48歳の全斗煥国軍保安司令官や盧泰愚(ノ・テウ)陸軍第9師団長ら陸軍士官学校11期生ら同期の桜を中心に少将クラス20数人が一致団結し決起したからこそ成功した。
もちろん、クーデターが発生しないよう徹底した監視体制が敷かれていることはあえて触れるまでもない。
各部隊にも相互監視及び密告システムがあり、不満分子や些細な動きを当局に通報する仕組みになっている。クーデター計画が発覚すれば、連座制により本人だけではなく、家族も一族郎党、処刑もしくは収容所に送られる。
金正恩総書記はまだ41歳である。老いぼれ、レームダックになるにはまだまだ時間を要する。金正恩体制が健在である限り、「平壌の春」は絶望的である。