2025年3月28日(金)
帰りたいのに帰れない哀れな2人の北朝鮮漂流民
2019年11月に韓国海域に漂流していた北朝鮮の木造船(韓国統一部提供)
歌手・千昌夫さんの歌「夕焼け雲」の歌詞の中に「帰りたいけど 帰れない 帰れない」とのフレーズがあるが、今月7日に黄海(西海)の海上で漂流していたところを韓国の海上警察隊に救助された北朝鮮の2人は今、このような想いではないだろうか。
海上の軍事境界線である北方限界線(NLL)を越え、南に漂流してきた小型木造船の乗船員2人はその後、韓国合同捜査当局の取り調べに対して脱北ではなく、「船の故障で漂流していた」と述べ、北朝鮮への帰国の意思を表明していたことがわかった。
木造船は7日の午前11時17分に黄海海上で漂流中に中国船の不法操業を監視、警戒中の韓国軍の海上哨戒機P−3に発見され、海上警察隊が韓国に曳航していた。2人はいずれも男性である。
韓国当局は単純な遭難で、2人に韓国に亡命する意思がないことを確認したうえで、北朝鮮側に送還する措置を取ることにしたが、北朝鮮が南北間の直通電話を2023年4月から遮断したため通報できず、仕方なく国連軍司令部に委託し、協力を要請していた。
しかし、国連軍司令部が通称「ピンクフォン」と呼ばれている北朝鮮との直通電話を通じて2人の身元及び南下状況など関連情報を伝え、送還する意向を伝えたものの北朝鮮はこれにも応じず、二人の送還は宙ぶらりん状態となっている。北朝鮮の担当者は国連軍司令部のコールに受話器は取っても全く応答せず、無言のまま電話を切っている。
「ピンクフォン」は南北の軍事境界線上にある板門店の国連軍司令部の事務室と北朝鮮側の板門閣を結ぶホットラインのことで、電話機の色がピンク色であることから「ピンクフォン」と呼ばれている。
このホットラインは2023年7月18日に板門店の共同警備区域(JSA)を見学中に無断で北朝鮮側に越境した「トラヴィス・キング」という名の米軍二等兵の送還過程で活用されていた。
米国人の「越北」は2018年に米国籍の男性が中朝国境を越え、北朝鮮に入り、抑留されて以来だが、直接軍事境界線からとなると1965年1月に入北した拉致被害者、曽我ひとみさんの夫、チャールズ・ロバート・ジェンキンスさん以来であった。
当時、米軍第一騎兵師団8連隊1大隊C中隊の分隊長中士として軍事境界線で勤務していたジェンキンスさんは部隊を脱走し、自ら進んで軍事境界線を越え、北朝鮮に入り、亡命を求めたことで知られている。
その後、キング二等兵は韓国で起こした暴力事件で懲戒処分を受け、米国に空路護送される直前に板門店ツアーに申し込み、逃亡を図ったことがわかった。
当時、北朝鮮はこの「ピンクフォン」を通じて安否の確認を求めた国連軍(米軍)側に兵士の越境事実を伝え、約1か月後の8月16日には「本人は亡命を希望している」と、事情聴取の結果を公表したものの取り扱いに持て余したのか、国外追放を決定し、9月27日に中国経由で米軍側に引き渡していた。
今回、北朝鮮からの漂流者が3週間も送還できないのは極めて異例な状況で、韓国当局も、国連軍司令部も2人の情報は上層部に報告はされているものの北朝鮮当局がまだ検討段階中で結論を出せないのでは、と分析している。
仮に、北朝鮮がこのまま引き取らないとなると、2人は北朝鮮が最も望まない、「脱北」即ち、韓国亡命を選択せざるを得なくなる。
「帰りたい」との彼らの願いが北朝鮮に届く日は来るのだろか?