2025年3月29日(土)
「李在明がダメならば、次は文在寅」 検察VS民主党の「仁義なき戦い」
釜山で隠居中の文在寅前大統領(JPニュースから)
野党第1党の「共に民主党」(民主党)は前身の「開かれた我が党」の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権(2003年2月25日―2008年2月24日)の時から検察の改革に乗り出していた。しかし、盧元大統領は任期2年目で早くも検察に大統領選挙時の不正資金疑惑を追及され、少数与党だったが故に野党によって弾劾されてしまった。
盧元大統領にとっては幸いにも憲法裁判所の弾劾裁判審議中に行われた国会議員選挙で過半数(150議席)を上回る議席を確保し、世論調査でも70%以上の国民が弾劾に反対したことにより棄却され、難を逃れ、急死に一生を得ることができた。
その後も実兄が斡旋収賄容疑で逮捕され、夫人や息子までが揃って収賄容疑で検察に呼ばれ、事情聴取を受ける羽目に陥り、退任後は不正選挙資金疑惑で検察に出頭を求められたことで盧元大統領は自宅の裏山の崖から飛び降り、自ら命を絶ってしまった。盧元大統領が掲げた「検察改革」は道半ばで挫折せざるを得なかった。
この時、大統領秘書室長だったのが盧元大統領の弁護士時代の後輩にあたる文在寅(ムン・ジェイン)前大統領である。
文前大統領は恩師の意志を引き継ぎ、監督機関の法相に民間出身の゙国(チョ・グック)氏を、検察総長に李明博(イ・ミョンパク)、朴槿恵(パク・クネ)政権の不正疑惑を追及した尹錫悦(ユン・ソクヨル)ソウル中央地検長を抜擢し、検察改革に再度トライした。
文前大統領は在任中、検察の権限を縮小するため新たに高位公職者捜査庁を設置し、また検察が独占していた捜査権を警察に移譲するなど検察改革に踏み切ったが、尹氏の起用が裏目に出て、大幅な検察改革を完遂できなかった。
組織防御を図る尹検察総長は大統領の意思に反し、上司ではあるが、ソウル大学法学部後輩の゙法相を追い落とすため娘の不正入学を炙り出し、夫人を逮捕し、゙法相を失脚に追い込んだ。尹検察総長が大統領になった現在、゙氏は昨年12月に懲役2年の実刑を食らって囚人の身にある。
゙国氏は法相を辞任した時「尹錫悦が大統領選挙に出馬し、当選するようなことになれば文在寅大統領も標的にされ、尹に逮捕された李明博・朴槿恵と同じ運命を辿るだろう」と予言していたが、その通りになった。文前大統領は昨年回想録を出版した際、「尹錫悦を検察総長に据えたことを後悔している」と回顧していたが、時すでに遅しであった。
尹政権の文前政権叩きは大統領に就任(2022年5月)した半年後に火ぶたを切ったが、第1のターゲットが大統領選挙を戦った「政敵」李在明代表で、その次が文前大統領であった。特に、昨年4月の総選挙で与党「国民の力」が過半数獲得に失敗し、国会運営が困難になったことで次期大統領選挙に再出馬の可能性の高い李代表の政治生命を断つことに力点が置かれていた。
実際に李代表については検察が城南市長(2010年〜2018年)にまで遡ってありとあらゆる疑惑を炙り出した。その結果、容疑件数が12件で、そのうち8件が起訴され、すでに5件について裁判が始まっている。
しかし、昨年11月に判決が出た「偽証教示容疑」は1審で無罪、昨年11月の1審で有罪だった「虚偽事実公表容疑」も3月に逆転無罪となり、李代表の政治生命は絶たれることはなかった。今後、2審、最高裁はどう転ぶかは分からないが、少なくとも李代表は仮に尹大統領が罷免すれば、2か月後に実施される次期大統領選挙には出馬できることになる。
尹大統領が罷免された状況下で大統領選挙が行われれば、世論調査の支持率でトップに立つ李代表が当選する確率は高いと言われている。最短で6月には民主党政権が復活することになる。
李代表及び民主党周辺では検察に痛い目に遭わされたとして検察改革どころか、検察解体を叫ぶ声が出るほど「検察憎し」が強い。実際に尹政権下でも孫俊成(ソン・ジュンソン)検事長のほか、李昌洙(イ・チャンス)ソウル中央地検長ら3人の検事を尹大統領の夫人、金建希(キム・ゴニ)氏を不起訴処分にしたとして弾劾の対象とされた。検察を監督している朴性載(パク・ソンジェ)法務部長は今も、弾劾されたままである。、
検察は中立を標榜しているが、弁護士出身者が多い「民主党」政権の復活を望んでいない。されど、裁判で李代表に連敗した検察には李代表を失墜させる材料はもう手元にはない。そうなると、文前大統領を槍玉に挙げ、「民主党」のイメージダウン、失墜を狙うほかない。
検察は3月28日に長女のダヘ氏の元夫の航空会社「タイイースタージェット」の特恵(不正)採用疑惑で検察に出頭するよう召還通知を出したが、検察は昨年8月にダヘ氏の自宅を家宅捜索した際の令状に文前大統領を賄賂授受の被疑者と明記していた。航空とは全く縁も知識もない元夫が航空会社に、それも役員として採用されたのは文前大統領の後ろ盾があってのことと睨み、検察は元夫が在職中に受け取った給料約2億ウォン(約2200万円)を文前大統領への賄賂とみなしているからである。
ちなみにこの疑惑は文在寅政権下の2020年に当時野党だった現与党「国民の力」及び保守系の市民団体が検察に告訴した事柄である。
文前大統領にはこれ以外にも「釜山副市長の金融委員会在職当時の収賄容疑調査隠蔽疑惑」「金起賢蔚山市長選挙に介入疑惑」「私邸用の土地を農地から宅地に転用した疑惑」「原発データー改ざん疑惑」「ソラーパネル疑惑」「外換取引疑惑」「北朝鮮漁師強制送還疑惑」「北朝鮮海上警備兵による韓国公務員射殺事件」など10件近い疑惑を抱えている。叩けばいくらでも誇りが出て来るのである。
文前大統領を擁護する「共に民主党」は「明らかな政治報復である」と反発しているが、文前大統領を生かすも殺すも検察の手中にあるのは間違いなさそうだ。
近い将来政権を奪還するかもしれない「民主党」への対応は検察にとっては起訴した尹大統領を刑事裁判で有罪(死刑もしくは無期懲役)に追い込むべきかをも含めてジレンマである。
憲法裁判所で弾劾、罷免されれば尹大統領をばっさり切り捨てることで「民主党」に恩を売ることもできるが、弾劾が棄却され、復職することもあり得るだけに慎重にならざるを得ない。
文前大統領の召喚通知が「民主党」への徹底抗戦の意思表示ならば、文前大統領は確実に召喚され、起訴されるであろう。