2025年3月3日(月)

 トランプ大統領に金正恩総書記と同じ目に遭わされたゼレンスキー大統領

ハノイでの米朝首脳会談全体会議(朝鮮中央通信から)

 ホワイトハウスでのトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の2月28日の会談決裂は6年前の2019年2月28日にベトナムのハノイで行われたトランプ大統領と金正恩(キム・ジョンウン)総書記との会談決裂のまさに再現である。

 ゼレンスキー大統領は「鉱物資源」を手土産に会談に臨んだが、見返りの安全保障を得られず、米国を去らざるを得なかった。

 トランプ大統領が「ゼレンスキー大統領は交渉する準備ができていないようだ」と述べ、会談を打ち切ったためその後に予定されていた昼食会もキャンセルされ、ゼレンスキー大統領は空腹のままホワイハウスを後にしたようだ。

 ホワイトハウスではトランプ大統領だけでなく、同席していたバンス副大統領やルビオ国務長官からも集中「口撃」され、結局、屈辱を味わっただけで手ぶらのまま帰国となった。思えば、金総書記もハノイではトランプ大統領から同じような仕打ちを受けていた。

 金総書記は会談場所のレジェンド・メトロポール・ハノイのホテルで再び対面したトランプ大統領に「不信と誤解の敵対的な古い慣行が我々の道を防ごうとしたが、それを取っ払い、克服して再びやって来た。考えてみたら、いつの時よりも苦悩と努力と忍耐心が必要とした期間だった。すべての人々が歓迎する立派な結果がもたらされるものと確信し、全力を尽くす」と述べ、米朝合意に期待を膨らませ、会談に臨んでいた。

 しかし、「寧辺核施設の廃棄」や「ICBM発射発射場の解体」など北朝鮮にとっては当時としては「最善の解決策」(土産)を持参し、会談に臨んだもののポンペオ国務長官(当時)やボルドン大統領補佐官(当時)らがこぞって「ビッグディール」(一括方式による完全な非核化)を要求し、「スモールディール」(段階的、ギブアンドテーク方式)に反対したためトランプ大統領は「北朝鮮はまだ合意する準備ができていないようだ」と述べ、会談を途中で打ち切り、会談後に予定されていた午餐会もキャンセルし、金総書記を会談場に残し、宿舎に戻ってしまった。

 トランプ大統領が金総書記に同意するよう求めた「ビッグディール」とは朝鮮戦争終結宣言や連絡事務所の相互設置、経済支援を見返りに北朝鮮がすべての核兵器と核物資、及び化学兵器を米国に搬出し、すべての核関連活動を凍結、破棄し、ミサイル施設を解体すれば、制裁解除に応じるというものだった。「先核放棄、後制裁解除」が前提となっていた。換言すれば、北朝鮮が完全に核とミサイルを放棄しない限り、制裁解除には応じないというものだった。

 後に金総書記は米朝会談を仲介した文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対して「米国は核申告リストと終戦宣言を交換しようと言ってきたが、我々に爆撃のターゲットを先に出せということではないのか。信頼できる関係でもないのに爆撃ターゲットから先に出せというのでは話にならない』と不満を述べていたそうだが、ゼレンスキー大統領もまた米国の停戦交渉提案にプーチン大統領が停戦合意を破って2022年に侵攻したことを挙げ、「プーチン大統領は信用できない」として、米国に対して鉱物資源を提供する見返りに「安全の保証」を求めていた。

 ベトナム首脳会談に随行した崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官(現外相)によると、成果なく手ぶらで帰国した金総書記は「一体何のためにこんな汽車旅行をしなければならないのか」と肩を落としていたそうだ。

 本来ならば、金総書記は同じような目に遭わされたゼレンスキー大統領に同情してしかるべきなのにウクライナを侵略しているロシア側に立つとは全く矛盾している。

(参考資料:「露朝蜜月」は米国の責任  重くのしかかる米朝首脳会談決裂のツケ!)