2025年3月31日(月)
北朝鮮 外国人観光客誘致と外貨調達のためピラミッドホテルでカジノを計画
建設中(左)と現在の柳京ホテル(朝鮮中央TV)
北朝鮮は現在、4月6日に開催される平壌国際マラソンに外国から参加者を募っているが、これを機に緩やかながらも段階的に外国人観光客に門戸を開放するようだ。
外国人の受け入れは北朝鮮が普通の国であることをアピールすると同時に大型住宅建設など金正恩(キム・ジョンウン)総書記の号令の下、進められてきた平壌の都市開発の成果を誇示する意図も見え隠れしているが、主な狙いは外貨獲得である。
世界陸上連盟公認の下、約6年ぶりに行われる「第31回平壌国際マラソン」の参加者を募っている北京にある北朝鮮専門旅行会社「高麗ツアーズ」によると、中国やロシアなど北朝鮮の友好国をはじめ数十カ国からマラソンランナーがエントリーしている。
これまでは2泊3日で約10万円だった参加費用は今回は、4月3日と5日に出発する5泊6日のツアー料金が約34万円(2195ユーロ)となっている。参加者は北京に集合し、平壌に入るが、ビザ発給手数料は別途かかかる。
北朝鮮はこれを機に観光客誘致に本格的に乗り出すものとみられるが、それもこれも金総書記の肝いりの元山・カルマ海岸観光地区が6月にオープンするからである。北朝鮮は江原道の元山・カルマ海岸を中露との国境都市、羅先と共に特区に指定し、観光スポットとして積極的にPRしている。
日本海に面した羅先は120kmの海岸線があり、海の景観が素晴らしい。「第2の金剛山」と称されている七宝山があるなど観光資源が豊かだ。すでにロシア人だけでなく、西欧からの観光客の受け入れも始まっている。しかし、北朝鮮が羅先以上に期待を掛けてるのは元山・カルマ海岸観光地区である。
北朝鮮はここに大規模のリゾート施設群を建設し、世界的な名勝地にして巨額の外貨を稼ぐのが狙いで、日本海側の明沙十里の長い砂浜沿いに大型海岸リゾート施設やウォーターパークなどを建設している。すでに空港からリゾート地に直結した鉄道のレールも敷かれており今年6月には完成する見込みである。将来的には馬息嶺に建設されたスキー場、さらには平安南道の陽徳郡の温泉観光地区を繋ぎ、年間120万人の観光客を誘致する計画である。
閉鎖国家の北朝鮮の「開放化」には疑問符が付き物だが、一昨日の韓国の「KBSテレビ」を見ていて意外なニュースに目を奪われた。
「北朝鮮が40年間も放置していた柳京(ユギョン)ホテルを運営するため(外国の)投資家らを物色している」とのキャスターの声が流れたからだ。
「柳京ホテル」はゴールデンタワーと呼ばれていた韓国の「6.3ビル」(地上60階建、高さ249メートル)や米国の「エンパイアステートビル」(102階建)よりも「高いホテルをつくれ」との先代の金正日(キム・ジョンイル)前総書記の指示に基づき、建築面積36万平方メートル、地上からの高さは高麗ホテルより160メートル高い300メートルの客室3千7百を備えた105階建てのホテルである。
ピラミッド型のホテルには2千席の会議室や2千人収容の宴会場、その他にレストラン、プールなどが設けられ、ホテルの最上階には三つの展望レストランが作られることになっていた。
当時、金正日氏は父親の金日成(キム・イルソン)主席の80歳の誕生日の記念物とするため1992年4月までに完成を指示していたが、合弁先のフランスの企業が大韓航空機爆破事件(1987年11月)などで北朝鮮の対外イメージが著しく悪化したことで採算が合わないと、嫌気をさして途中で手を引いたことやソ連の崩壊による経済難から1990年に外観が80%出来上がったところで資金不足に陥り、工事が中断してしまった。
北朝鮮は新たなパートナーを求め日本にも食指を伸ばし、1990年に訪朝した金丸信副総理を通じて日本のゼネコン代表団にも協力を要請したが、訪朝したゼネコン代表団の一人から「一から建設するなら簡単だが、再建は無理」とさじを投げられていた。
その後、ジュネーブに本拠のあるケンペンスキー・グループが1999年に合弁先である朝鮮妙香山経済連合と契約を交わし、補修に乗り出し、また2000年代には北朝鮮で携帯電話通信事業を始めたエジプトの財閥「オラスコム」や統一教会系の企業などが参入したが、採算が合わないとして次々と撤収したいわくつきのホテルである。
一時は金正日前総書記の75歳の誕生日(2月16日)、もしくは祖父・金日成(キム・イルソン)主席の生誕105歳(4月15日)にあたる2017年にはお披露目されるのではないかと囁かれたこともあったが、単なる噂話に過ぎなかった。
一応外観の建物は完成したものの内装は手つかずで、経済不振の象徴として半ば廃墟のまま平壌のど真ん中が聳え立っていた。
「KBS」は「北朝鮮が内部の施設の完工を条件にカジノの運営権を売却する計画のようだ」と伝えているが、北朝鮮は羅先で香港のエンペラーグループ(英皇集団)が経営するホテルに中国人観光客を相手に大型カジノの運営を許可したが、その後、羅先を訪れる外国人が減少したため経営が成り立たず、ホテルもカジノも閉鎖してしまった。
「KBS」の報道が事実ならば、北朝鮮は「柳京ホテル」を韓国政府公認の外国人専用のカジノがあるソウルの「ウォーカヒル」のようにする計画のようだが、体制を改革、開放せず、果たしてそれが可能だろうか?