2025年3月4日(火)
ウクライナに目を奪われている間に危機高まる朝鮮半島 「金正恩の代理人」が米空母の釜山入港に反発
金与正党副部長(朝鮮中央テレビから)
「動く海軍基地」と称されている米海軍の航空母艦「カール・ヴィンソン」が3月2日に韓国の釜山軍港に入港したことから北朝鮮の反発が懸念されていたが、案の定、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長が噛みついていた。
米航空母艦「カール・ヴィンソン」(米軍海軍HPから)
米空母の韓国寄港は昨年6月以来約8カ月ぶりで、今年1月20日に第2次トランプ政権が発足してからは初めてである。
「カール・ヴィンソン」には金総書記ら北朝鮮指導部を狙った「斬首戦闘機」とも囁かれている米海軍初の5世代ステルス戦闘機「Fー35C」も搭載されていることから北朝鮮は黙っていないだろうとみていたところ、北朝鮮は金正与党副部長の名による米国非難談話を出していた。
先月(2月)20日に米軍の戦略爆撃機「B1―b」が朝鮮半島上空で韓国空軍と連合空中訓練を行った際には国防省公報室長の名で談話を出していたが、今回は金副部長が前面に出てきたことになる。
金副部長が登場し、米国を直接非難したのは昨年11月4日以来である。この時は前日に米国が「Bー1b」を投入し、米韓合同空中訓練を行ったことに憤慨し、「我々の実行の動力と強度もまた正比例するであろう」と発言していたが、北朝鮮は早速、翌5日に黄海北道・沙里院付近から日本海に向けて射程距離400kmの短距離弾道ミサイル(SRBM)を7発も発射していた。
金副部長は今回の談話では「米国は今年、新しい政府が発足するやいなや、前政府の対朝鮮敵視政策を継承し、我々に反対する政治的・軍事的挑発行為をエスカレートさせている」と非難したうえで「我々としては手をこまぬいていられない。敵国の安全圏に対する戦略的水準の威嚇的行動を増大させる選択案を慎重に検討する計画である」と、対抗措置を取ることを示唆していた。
それでも談話をよく読んでみると、全般的に抑制的である。何よりもトランプ大統領を名指しで批判しておらず、米国に向けて「我々の意志と能力を試そうとしてはならない」と、警告を発することにとどめ、殊更米国との軍事緊張を高める意思がないことを仄めかしていた。トランプ政権がまだ、春恒例の米韓合同軍事演習の実施を正式に発表していないからであろう。明らかにトランプ第1次政権のスタート時に比べると、北朝鮮の非難は穏やかである。
トランプ政権が発足した2017年の年は米韓合同軍事演習が3月1日スタートし、米軍延べ1万人余と韓国軍約30万人が演習に参加した。米軍の中には国際テロ組織アルカイダの指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者の殺害作戦に参加した精鋭部隊を含む米軍の特殊戦部隊も合流していた。3月15日には「カール・ヴィンソン」が釜山に入港し、4月30日まで実施されていた合同野外機動訓練「フォールイーグル」に参加していた。
北朝鮮は当時、対抗手段として3月6日に平安北道・東倉里から日本海に向け射程1000kmの弾道ミサイル「スカッドER」4発を5秒間隔で連発し、そのうち1発が石川県能登半島から北北西約200kmの日本の海上に着弾していた。
さらに3月22日には日本海に面した原江道・元山から中距離弾道ミサイル「ムスダン」を発射してみせた。そして4月に入ると、潜水艦弾道ミサイル「北極星1号」を地上型に改良した「北極星2号」や開発したばかりのグアムを標的にした中距離弾道ミサイル「火星12号」の発射に踏み切っていた。
この年は11回にわたって延べ20発のミサイルが発射されていたが、その中には射程6700〜10000kmの長距離弾道ミサイル「火星14号」と、射程距離10000km以上の大陸間弾道ミサイル「火星15号」も含まれていた。また、9月には核(水爆)実験も行われている。
北朝鮮によるグアムやハワイ、米本土をターゲットにしたICBMの発射や国際社会の警告を無視し、核実験を強行したことにトランプ大統領は「米国を脅かすなら今すぐに世界が見たことのない火炎と激しい怒りに北朝鮮は直面するだろう」と述べただけでなく、国連総会での演説では「米国と同盟を防御すべき状況になれば、他の選択の余地なく北朝鮮を完全に破壊する」と北朝鮮を威嚇し、金総書記もまたこれに対抗し「我々も相応する史上最高の超強硬対応措置の断行を考慮する」と返したことで朝鮮半島の軍事状況は中国の王毅外相に「二つの列車が正面衝突する方向に向かって走っている」と言わしめたほど一触即発の状況にまで高まったことは歴史的事実である。
米国が本格的に恒例の米韓合同軍事演習を実施すれば、2017年の再現となるが、まだ、当のトランプ大統領と金総書記が直接バトルをしてないだけ救われる。
軍事緊張が高まればその反動で対話モードにシフトするのもこれまでのパターンである。何よりも日本時間で明日、5日のトランプ大統領の施政方針演説が注目される。