2025年3月6日(木)
トランプに疑心暗鬼の金正恩 米韓合同軍事演習には「米本土の安全を脅かす」対抗措置を用意
2017年に対峙していた頃の米朝首脳(「労働新聞」とトランプ大統領のHPから)
トランプ大統領は日本時間の3月5日、連邦議会上下両院の合同会議で2期目の施政方針演説を長時間(約100分)にわたって行ったが、外交問題にははほとんど時間を割かなかった。従って、イランや北朝鮮の核問題に関する言及は全くなかった。
トランプ大統領が大統領就任直後の施政方針演説で北朝鮮について触れなかったのは第1期政権発足(2017年)の時と全く同じである。
しかし、トランプ大統領は翌2018年1月に行った政権2年目の施政方針演説(一般教書演説)では北朝鮮問題を取り上げていた。
イランの核合意については「イランの国民が腐敗した独裁政権の犯罪に対して立ち上がった時、私は黙っていなかった。アメリカは自由を求めて勇敢に闘うイラン国民を支持する。イランとのひどい核合意の根本的な欠陥に対処するよう議会に求める」の一言で終わっていたが、前年に大陸間弾道ミサイル「火星15号」を発射しただけでなく、核実験を2度も強行した北朝鮮については「北朝鮮が近いうちに米本土に脅威を与える可能性がある。それを食い止めるために最大限の圧力をかける取り組みを遂行している」と、多くの時間を割いて金正恩(キム・ジョンウン)政権を批判していた。
この時の演説では議事堂に北朝鮮の脱北者と北朝鮮旅行中に囚われ、帰国後に病死した米国人大学生、オットー・ワームビア氏の両親を招き、「北朝鮮の残虐な独裁政権ほど自国民を徹底的に容赦なく抑圧してきた体制はない」と北朝鮮の人権抑圧を槍玉に挙げていた。
この時に比べると、トランプ大統領が今回、北朝鮮について非難めいたことを一言も口にしなかったのは金正恩政権にとっては歓迎すべきことだが、その一方で北朝鮮政策を打ち出さなかったことについては不満を抱いているものとみられる。特に今月中旬に計画されている恒例の米韓合同軍事演習を強行するのか、それとも自制するのか、北朝鮮にとっては最大の関心事であり、注目点である。
米朝の実務担当者が今現在、水面下交渉をしていなければ、米韓合同軍事演習はこのまま見切り発車となる公算が高い。その場合、金正恩政権とすれば、否が応でも対抗措置を取らざるを得ないであろう。
仮に北朝鮮の対抗手段が昨年10月1日に国防省の金康一(キム・ガンイル)副相(次官)が予告していた「米本土の安全に重大な憂慮感を増す新たな方式」として大陸間弾道ミサイル「火星17号」や固形燃料使用の「火星―18型」をロフテッド(高角度)による発射ではなく、太平洋に向けて発射するとか、中距離弾道ミサイル「火星12号」を米国領のグアムやアラスカの近海に落とすとか、新たに建造した戦術核攻撃潜水艦「金君玉(キム・グンオク)英雄号」を使ってまだ一度も発射実験していない3段式潜水艦弾道ミサイル(SLBM)「北極星―4型」もしくは「北極星―5型」を太平洋に向け発射するようなことになれば、米朝は確実に2017年の一触即発の状況に逆戻りすることになるであろう。
トランプ大統領は第1次政権下での最大の業績は「朝鮮半島での北朝鮮との戦争を止めた」ことだと、再三強調している。
北朝鮮の核も脅威だが、北朝鮮が核開発と並行してEMP(電磁パルス)を開発していることは秘密ではなく、公然たる事実となっているが、ジェームズ・ウルジー元米CIA長官によれば、米本土が北朝鮮からEMP攻撃を受ければ、米国の電力網が完全に破壊され、復旧までに1年6カ月がかかり、全人口の90%の2億9159万人が被害を受け、「数百万人が命を落とす」と予測していた。
韓国核安保戦略フォーラム代表でもある「世宗研究所」朝鮮半島戦略チーム長によると、核EMP爆弾の破壊力は数百kmに及ぶことから韓国に対して3発投下しただけで電子ショックが首都圏から慶尚北道まで電波し、電力網や通信網が無力化し、都市は麻痺するとのことである。当然のごとく、北朝鮮もタダでは済まされない。報復を受け、壊滅することになるであろう。
トランプ大統領は「私が大統領に当選していなかったら、核戦争になったかもしれない。数百万人の命を救うのが(大統領の)最も重要な仕事だ」と語っていた。大統領退任後も「私は金正恩と良い関係を築いた。そして我が祖国を安全に守った」(2023年7月23日 フォックスニュースとのインタビュー)と発言していた。
トランプ大統領が昨年1月15日にアイオア州での党員大会前夜の遊説で「我々は彼ら(北朝鮮)と戦争しようとしたが、北朝鮮はどの国にも劣らないかなりの規模の核を保有していた」と、当時の心境を述べていたように北朝鮮とはもう戦争はできない。
「金正恩と関係を結んだことで戦争を防いだ」と豪語しているならば、トランプ大統領は一体、金総書記をどう料理するつもりなのだろうか?
(参考資料:北朝鮮が地上と地下で濃縮ウラン施設を稼働 10年後に世界第4位の核保有国の可能性も)
(参考資料:ウクライナに目を奪われている間に危機高まる朝鮮半島 「金正恩の代理人」が米空母の釜山入港に反発)