2025年3月7日(金)
石破首相が1か月内に訪朝? 韓国からまた流れてきた「総理訪朝説」
石破茂総理と金正恩総書記(石破事務所と「労働新聞」から筆者キャプチャー)
韓国の時事週刊誌「時事IN」は今朝、発売された最新号のトップ記事で石破茂総理が3月末から4月初旬にかけて北朝鮮を訪問する可能性を取り上げていた。日本にとっては驚きと言うか、予想外の記事である。当の日本が、それも日本のメディアがあずかり知らないことを韓国のメディアが取り上げているからだ。
韓国発のこの種の記事はこれまでも多々あり、それもほとんど的外れというか、誤報が多かった。特に日朝や拉致問題関連記事は多くの場合、推測記事だった。
古くは2009年9月1日のニュース専門テレビ「YTN」の報道がその例だ。「麻生太郎首相の秘書官と北朝鮮当局者が3月に北京で接触し、日本が拉致問題の解決を条件として北朝鮮に10億ドル(当時のレートで約930億円)の支払いを協議し、金正日(キム・ジョンイル)総書記(当時)は麻生太郎首相(当時)を平壌に呼ぶよう指示した」と、韓国の外交筋の話として伝えていた。
また、安倍晋三政権下の2019年にも韓国の大手紙「朝鮮日報」が「安倍首相が今年5月から10月にかけて計3度、谷内正太郎・国家安全保障局長(当時)を平壌へ特使として派遣し、金正恩委員長宛に親書を伝達していた」と、「情報消息筋」の話として伝えていた。いずれもそうした事実はなく、完全にフェイクであった。
日本の首相の訪朝は2004年5月の小泉純一郎首相以来、21年間皆無である。小泉訪朝以降の歴代総理の誰もが意欲を示したもののハードルが高く、誰ひとり実現できずにいる。それにもかかわらずこの種の訪朝説は韓国でも日本でも後を絶たない。
岸田文雄前政権の時も北朝鮮の外務次官が「日朝首脳が会えない理由はない」と発言し、金正恩(キム・ジョンウン)総理の「代理人」でもある妹の金与正(キム・ヨジョン)党副部長までが「(岸田)首相が平壌を訪問する日が来ることもあり得る」と囁いたことで騒がれたが、シャボン玉のようにいつの間にか立ち消えてしまった。
では今回、何を根拠に韓国の週刊誌は石破首相の早期訪朝を打ち出したのか?ナム・ムンフィ編集委員署名入りの記事の概要を紹介すると、以下のような「ストリート」になっている。
▲石破首相は2月7日訪米し、ホワイトハウスでトランプ大統領と会談した。発表された日米共同声明には「拉致問題の即時解決について石破総理から引き続きの理解と協力を求め、トランプ大統領から全面的な支持を得た」と書かれてあった。トランプ大統領が支持を表明したということは拉致問題の解決のための平壌訪問も含まれているものとみられる。
▲日米共同声明に「北朝鮮の完全な非核化」が盛り込まれたことでトランプ大統領の米朝接触、対話の意志が後退したとみることもできるが、その一方でトランプ大統領は共同声明を発表した日にあえて「金正恩と関係を結ぶ」と発言している。矛盾しているようだが、米国はウクライナ問題で手一杯なためその空間を石破首相の平壌訪問が埋めて、米朝首脳会談の仲裁又は地ならしをしてもらいたいようだ。トランプ政権1期時に米国と南北3者間で文在寅(ムン・ジェイン)大統領(当時)が果たした役割を石破首相に担わせようとしているようだ。
▲石破首相は昨年10月1日の総理就任記者会見で「拉致問題解決は我が内閣の重要な課題である。強い決意を持って臨む」と強調していたが、即時解決するということは石破首相が早期に平壌を訪問する意思を表わしたことに等しい。平壌訪問意外に解決手段がないからだ。この時から日本の外交筋の間では「石破が3月か4月初めに平壌を訪問する化膿性が高い」との観測が流れていた。
▲石破首相は岸田前首相から1年6か月にわたる日朝水面下交渉の遺産を引き継いでいる。岸田前首相は当時、30年にわたる日本の歴代政権の宿願である拉致問題の解決と日朝連絡事務所の開設、そしてこれを足場に総理再選という一石三鳥を狙っていた。しかし、欲を出し、拉致被害者の横田めぐみさんの生死確認を訪朝の先決条件としたため北朝鮮が苛立ってしまった。それでも岸田前首相はまだ可能性が残っているとして、8月9日から12日の中央アジア歴訪の最終訪問地のモンゴルで再トライする考えでいたが、8月8日に宮崎県で震度7.1の地震が発生したため中央アジア歴訪をキャンセルせざるを得ず、すべてが水の泡となってしまった。
▲石破首相は岸田前首相の対北チャンネルを継承すると共に前任者の失敗を繰り返さない他のアプローチを試みている。訪朝に前提条件を付けず、度量広く解決しようとしている。その方法とは平壌訪問と連絡事務所の相互設置後に共同調査委員会を通じた解決、即ち安倍政権下の2014年に交わした「ストックホルム方式」である。
▲北朝鮮の習性上、日本総理の訪朝と連絡事務所の開設には土産が付き物だ。この場合、北朝鮮が平壌総合病院の先端設備の提供を代価として求める可能性が高い。一時は中国が2023年に北朝鮮が求めていたドイツ製設備を提供することになっていたが、中国製を供与しようとしたのでお流れとなり、北朝鮮は日本に打診していた。日本が当時難色を示したため日朝はそれ以上関係が進展しなかったが、石破首相が懐を広げる立場なので前向きに検討もできる。この場合、実務的には国連の制裁との関連で米国の許可が必要だ。それが故に訪米を、トランプ大統領との会談を急いだのではないだろうか。
▲石破首相が3月から4月に訪朝を決行すると判断した材料の一つに韓国政治状況がある。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が3月に弾劾されれば、大統領選挙に突入するので韓国が意思決定ができないこうした時期こそが適しているのである。
韓国メディアによく見られる点と点を結んで我田引水に自分の結論に導く分析記事となっており、実にアバウトである。何よりも点の一つである拉致問題の「即時解決」という言葉は石破政権になって使われ始めたのではなく、この用語は岸田政権下の2022年5月のバイデン大統領との共同会見でも使われていた。また、昨年4月の日米首脳共同声明
「未来のためのグローバルパートナー」でも「バイデン大統領は拉致問題の即時解決に対する米国のコミットメントを改めて確認した」となっていた。
石破首相は拉致被害者の有本恵子さんの父、有本明弘さんが亡くなった直後の2月20日に官邸で拉致被害者御家族等らと面会した際に「私がこの職に就いてから5か月が経過し、もう時間もそんなに猶予があるわけではないことはよく承知をしている」として「私自身この問題はトップ同士が会談をし、解決へ導かねばならないと思っている」と、日朝首脳会談に意欲を示していた。
またトランプ大統領の全面的な支持を得たことを強調したうえで「拉致問題の解決と同時にあのような体制の国と我が国がこれから先どうやっていくのかということも合わせて考えていかなくてはならないところでもある」と述べ、最後に「これは我が国の問題なので、我が国として解決をしていかねばならない。他国によって解決をされるものではない」と、支持は得てもトランプ大統領をあてにせず、独自に解決する考えを明らかにしていた。
今回ばかりはこの記事の通り、石破首相の訪朝が春に実現し、拉致問題の解決に繋がればまさに願ったり叶ったりなのだが、現実は厳しいと言わざるを得ない。
(参考資料:石破新総理は拉致問題を解決できるか? 立ちはだかる2つの壁!)