2025年3月9日(日)
恐るべき北朝鮮軍人の「特攻精神」 クルスク州の3分の2を奪還!
生け捕りにされた北朝鮮兵士(ゼレンスキー大統領のテレグラムから筆者キャプチャー)
ウクライナ軍が米国から情報共有を拒絶されたことで苦戦を強いられているようだ。特に昨年8月6日にロシアに越境し、最大で約1376平方kmまで制圧していたクルスク州ではあっという間に3つの集落が落とされ、すでにクルスク州の占領地のうち75%がロシア軍に奪還されてしまったようだ。
ロシア軍参謀部は昨年11月24日に「約40%を奪還した」と発表しているのでウクライナ軍は直近の約3か月間でさらに35%も失地を回復したことになる。折しも北朝鮮の対露派兵の時期と重なる。
北朝鮮がロシアを支援するため昨年約1万1千〜1万2千人の兵士をロシアに派兵したのは今では公然たる事実だが、北朝鮮兵がいつの時点でクルスクの戦場に現れたのかは定かではなかった。
ウクライナのゼレンスキ―大統領が北朝鮮との交戦を初めて確認したのは「北朝鮮軍の一部がクルスク地域での戦闘に投入され、死傷者が出ている」と発言した11月7日である。
ウクライナ軍は北朝鮮兵士がクルスクに投入された時期を11月に入ってからと見ているが、北朝鮮兵士が本格的にクルスク州に投入されたのは「露朝包括的戦略パートナーシップ条約」の批准書がモスクワで交換され、発効した12月4日からとみられる。そのことは今年1月8日にクルスク戦場で生け捕りされた北朝鮮兵士の「10月初旬にロシアに到着した後、ウラジオスクで訓練を受け、12月中旬頃にクルスクに到着した」との証言からも裏付けることができる。
ウクライナ軍当局や韓国情報機関の推定では2月中旬の時点で派兵された1万2千人のうち3千〜4千人の死傷者が発生している。短期間の北朝鮮の人的被害は北朝鮮兵が前線で戦闘的に戦っている、見方を変えればウクライナ軍のドロンの攻撃の餌食にされるなど事実上、弾除けにされていることの裏返しでもある。
米「CNN」(1月28日)はウクライナ特殊作戦部隊から入手したビデオ映像を引用して、「(北朝鮮の)一部の兵士は動きやすくするため重い防弾チョッキやヘルメットも脱ぎ捨てウクライナ軍の陣地に突入している」と伝えていた。また、「戦場で倒れた北朝鮮兵士が最後に『金正恩将軍』と叫びながら頭のそばで手榴弾を爆発させた」という衝撃的な記事も配信していた。
生け捕りされた兵士の一人は「自爆の指示をうけていたのか」と聞かれると「我が人民軍では捕虜は変節(祖国への背信)と同じだ」と語っていた。また、もう一人の兵士も「手元に手榴弾やナイフがなかったので自決できなかった」と証言していた。
ウクライナが戦場で北朝鮮兵に向け「死ぬな、生きろ」と、ハングル放送で呼び掛けても、「ウクライナは給食場所と食事を提供する」とハングルで書かれたビラを配布して投降を呼びかけても効き目がないのは約4000人の死傷者のうち1月9日にクルスク州での戦闘で負傷し、防空壕に潜んでいた20歳の兵士とパラシュート部隊に奇襲捕獲された26歳の狙撃偵察将校の二人の兵士しかいないことが証明している。
トランプ大統領の仲介によるウクライナとの停戦交渉が始まる前に仮にロシアとしては遅くとも対ドイツ戦勝80周年記念日の5月9日までにクルスクの完全奪還を目指すとすれば、北朝鮮からのさらなる派兵は不可欠である。
米国防総省の関係者は北朝鮮の第2次派兵数について米国の「自由アジア放送」の問い合わせに「死傷者を補充する程度の数で5千人ぐらい」と推定していたが、2月23日〜26日の日程でウクライナを訪問した「国民の力」の??源(ユ・ヨンウォン)議員はウクライナ情報当局から北朝鮮からすでに1500人が追加派兵され、クルスクの戦場に投入されているほか、これとは別に3500人が極東地域の5か所で訓練を受けているとのブリーフイングを受けている。
ウクライナで北朝鮮の捕虜から話を聞く「国民の力」の??源議員(??源議員提供)
第2次派兵の数は5千人程度としても、今後の戦局次第では第3、第4次の派兵もあり得るのではないだろうか。
何よりも北朝鮮にとっては経済的メリットが大きい。韓国が「ベトナム戦争」特需で潤ったように北朝鮮にとっても「ウクラナイ戦」は特需になっているからだ。
韓国は同盟国の米国の要請を受け、ベトナム戦争では延べ32万人を派兵(戦死者約5千人、負傷者約1万人)していた。そしてその見返りとして米国から莫大な経済、軍事援助を手にした。これが韓国経済成長の礎になったのは言うまでもない。
経済が疲弊している北朝鮮も同じことを夢見ているのではないだろうか。