2025年5月16日(金)
恐ろしき尹錫悦前大統領 戒厳令宣布のため北朝鮮との局地戦を画策!?
北朝鮮で発見された無人機(上)と韓国軍が保有する無人機(下)(夫勝粲議員室から)
尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領は突拍子のないことを考え出す実に危険な思考の持ち主である。
「危険」というのは目的のためには手段を選ばないという意味で、選挙で国民から選ばれた「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)前代表ら野党議員らを「反国家勢力」とみなし、その反国家勢力が多数を占めている国会を強制解散させるため非常戒厳令を発案し、そのための大義名分として北朝鮮との局地戦争を引き起こそうとしていたことだ。
戒厳令に関する憲法第77条には「大統領は戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態において兵力をもって軍事上の必要に応じまたは公共の安全秩序を維持する必要がある時には法律が定めるところにより戒厳を宣布できる」となっている。要は,戦時状態でなければ、そう簡単には大統領の特権だとしても非常戒厳令を宣布できないのである。
北朝鮮は昨年10月11日夜8時頃、唐突に「韓国が10月3日、9日、10日と計3回も無人機を平壌の上空に侵犯させ、中心区域である中区域に反北宣伝ビラを散布した」とする外務省名義の「重大声明」を発表していた。
金正恩(キム・ジョンウン)総書記のスポークスマンでもある妹の金与正(キム・ヨジョン)副部長も12日、13日、14日と、異例にも3日連続で韓国を批判する談話を出していた。その際に証拠として無人機らしき物体と無人機から散布されたとされる北朝鮮体制批判ビラの写真を公開していた。
当時、これに対する韓国軍の公式見解は「北朝鮮の主張が事実かどうかについては確認できない」というものであった。
韓国のTVでは何人かの専門家が「捏造の可能性もある」と論じ、中には「北朝鮮が韓国の無人機の設計図をハッキングして、コピー製造していたものを持ち出してきたのでは」と大胆な推理をしていた解説者もいた。
当時は北朝鮮が主張するように韓国の無人機が平壌上空に飛来したとしてもそれが軍の仕業なのか、それとも対北宣伝ビラを散布している脱北団体が飛ばしたのかは定かではなかった。また、動機も今一つ、不明だった。
ところが一昨日、韓国国防部傘下の国防科学研究所が平壌上空に進入した無人機が「韓国軍の無人機と類似している」と分析していたことがわかった。
国防委員会に所属している「共に民主党」の夫勝粲(プ・スチャン)議員が国防科学研究所から手にした資料「北朝鮮尖端無人機の比較分析」によると、韓国の無人機と北朝鮮のそれとを国防科学研究所が比較分析した結果▲全体的な形状が非常に類似していること▲5つの主要部品の位置が同じであることが示されていた。
具体的には無人機の全体的な形状、左右の垂直テールローターの操縦翼面の位置、ドライバーの位置、データリンクアンテナ、エンジン部品の排気口、冷却ダクト、ダクトベーンアクチュエーターが同じであった。
但し、胴体下部に違いがあり、韓国の無人機には着陸時の衝撃を防ぐために「ランディングフォーム(着陸形態)」が設置されているが、北朝鮮が公開した無人機にはこの部分がなかった。この点について国防科学研究所は「仮にこの無人機にビラ筒が搭載していたならば、ランディングフォームが取り除かれた場所に取り付けられた可能性がある」と分析していた。
国防科学研究所はビラ筒の投下作動装置との関連では「メーカーが提供するソフトウェア(SW)を使ってミッションプランやビラ筒作動命令などは簡単に設定できる」との見方を示しているが、夫議員によると、小型無人機のメーカーが提供するソフトウェアを公式に運用しているのはドローン作戦司令部だけだとのことである。
また、国防科学研究所は飛行ルートについても韓国の無人機の性能ならば北朝鮮が昨年10月27日に公開した飛行経路であるペクリョン島―ソク島―南浦―平壌ルートの飛行は可能であると、分析していた。
そもそも北朝鮮が公開した無人機が韓国のそれと似ていることは今年1月27日に「SBS」の報道によって公となっていた。
「SBS」は昨年10月12日、韓国内領域に墜落した無人機を発見した人が撮った無人機の写真を報道したが、北朝鮮が韓国の仕業と主張し、証拠として公開した無人機と外形がそっくりだった。また、墜落無人機は昨年10月1日の韓国健軍75周年(「国軍の日」)の軍事パレードで登場したドローン作戦司令部の無人機と外形がそっくりだった。
今回、調査結果を公表した夫議員は「我が軍が昨年10月に平壌に無人機を浸透させ、ビラを散布したことを国防科学研究所が科学的に分析し、認めたことになる」と述べ、「当時、無人機の平壌浸透が戦時戒厳の雰囲気と名分をつくるためのものだったのか、関与が疑われている国家安全保障室とドローン司令部への全面的な調査を直ちに行う必要がある」とメディアに語っていた。
また、「仮に無人機の侵入が正当な命令なしに行われたのならば死刑のみを規定する軍事刑法第18条(不法戦闘開始罪)が適用される可能性がある」と述べた上で「しかし、強要され、やらざるを得なかったならば刑罰が軽減される可能性もあるので関係者らは自分たちのためにも全容を明らかにした方が良い」と、関与した軍人らに「良心宣言」するよう促していた。
同じ国防委員会に所属している同僚の朴範界(パク・ポンゲ)議員は非常戒厳令発令から6日後の昨年12月9日、金龍顕(キム・ヨンヒョン)国防長官(当時)の指示で金長官の沖岩高校後輩の「呂寅兄(ヨ・インヒョン)防諜司令官が無人機の平壌上空進入を実務的に企画した」との情報を軍関関係筋から受けていた。
当時、朴議員が軍関係筋から得た情報によると、戒厳令の計画を練っていた金国防部長官は軍合同参謀本部を訪れ、「なぜ、北朝鮮のビラ風船に警告射撃をしないのか、風船を飛ばしている原点(地点)をなぜ攻撃しないのか」と、金明秀(キム・ミョンス)合同参謀本部議長を叱責していたようだ。金議長が指示に従わなかったため金国防長官は側近の呂国軍防諜司令官に指示し、10月3日に平壌に無人機を飛ばしたと、その軍関係筋は朴議員に伝えていた。
金国防長官は無人機が平壌に飛来し、金総書記の執務室のある労働党庁舎の上空から金総書記を扱き下ろすビラを散布すれば、北朝鮮は間違いなく、対抗措置として無人機を飛ばすか、韓国が実効支配している北方限界線(NLL)上の島に砲弾を撃ち込んでくるとのシナリオを描き、呂防諜司令官に無人機を平壌に飛ばすように命じたものと推測されている。
尹政権は北朝鮮を挑発して、「北風」(北朝鮮の軍事挑発)を引き起そうとしたのである。
実に恐ろしい話だ。仮に、北朝鮮が反応し、手を出せば、局地戦争、へたをすると在韓米軍、在日米軍をも巻き込んだ全面戦争に発展したかもしれない。
というのも、北朝鮮の人民軍総参謀部は10月12日に国境線付近の各砲兵連合部隊に完全射撃準備態勢を整えることに関する作戦予備指示を下達し、13日には国防省スポークスマンが「無人機が再飛来すれば、宣戦布告とみなし、あらゆる災難の根源地、挑発の原点は我々の過酷な攻勢的行動によって永遠に消え去るようになる」と警告していたからである。
北朝鮮は翌14日には金正恩(キム・ジョンウン)総書記が国防・安全分野に関する協議会を初めて招集し、李昌虎(リ・チャンホ)偵察総局長からの無人機侵入に関する報告と李永吉(リ・ヨンギル)総参謀長からの対応軍事行動計画に関する報告を受けていた。
大事に至らなかったのは、事の重大性を知った国連軍司令部(駐韓米軍司令部)が韓国に無人機を飛ばすのを止めるよう制止したことが大きい。国連軍司令部は2022年12月に北朝鮮の無人機のソウル侵入への対抗措置として韓国軍が無人機を2機北朝鮮に飛ばしたことを韓国軍が主張する「自衛措置」とはみなさず、停戦協定違反として処理した経緯がある。
現在、「共に民主党」は無人機を平壌に浸透させたのは非常戒厳令を発令する口実つくりにあったと主張し、尹前大統領を「外乱容疑」で検察に告発している。