2025年5月21日(水)

 北朝鮮の経済は潰れない!  韓国経済専門家7人の診断

1万世帯の住宅が建設されている平壌の和盛地区第3段階区域(朝鮮中央通信から)

 日本での北朝鮮報道はネガティブ一辺倒なので北朝鮮の体制崩壊はそう遠くないとか、北朝鮮の経済はそのうち破綻するとの見方が大勢だが、意外にも韓国の専門家や学者らは北朝鮮の自壊による吸収統一を目指している政府当局とは一線を画し、冷静な分析を行っていることがわかった。

 韓国で最近「生命、平等、平和、協同」のメディア媒体として知られる「プレシアン」から出版された新刊「北朝鮮経済は死んではいませんよ」が興味深い。7人の共著によるこの本には北朝鮮型の市場経済で企業が利益を競い合っていること、インフォーマルな労働市場が日常生活の一部となっていることなど北朝鮮経済の変化を伝えていた。

新刊「北朝鮮経済は死んではいませんよ」(本の表紙)

 筆者は東国大学北朝鮮研究所のキム・ヨンヒ客員研究員、韓国統一研究院のファン・ジュヒ准研究員、朝鮮半島開発協力院の北朝鮮市場化研究センターのソン・スルギ所長、ハナ銀行金融研究所のチャン・ヘウォン上級研究員、韓国産業銀行未来戦略研究所のチェ・ジェホン北韓東北アジア研究員、杜星女子大学知識文化研究所のユン・セラ研究教授、それに西江大学社会科学研究所のチョン・イルヨン教授の7人だが、一様に「北朝鮮経済は死んでいない。いや、追いつかないほどのダイナミックな変化を日々経験している」と分析し、「食糧不足」や「核・ミサイル」しか関心のない韓国社会にあって北朝鮮経済の変化について鋭く指摘していた。

 例えば、東国大学北朝鮮研究所のキム・ヨンヒ客員研究員は金正恩時代の経済政策を国家発展戦略を中心に分析しているが、金正恩(キム・ジョンウン)政権は前任の「先軍」一本やりの金正日(キム・ジョンイル)政権とは異なり、核・ミサイル開発と経済成長を同時に追求する「並行路線」を進めた結果、前例のない金正恩型の「開発独裁」により「産業開発や住宅開発など全国的に発展戦略が進行中である」と、評価している。

 韓国統一研究院のファン・ジュヒ准研究員は北朝鮮経済の新たな経済プレーヤーとして台頭した企業にスポットを当て、「社会主義企業責任管理システム」を通じて企業が新たに経営権を行使できるようになったことで「北朝鮮の企業は今、製品だけでなくマーケティングにも注力し、生存競争でも生き残れる状況となった」と分析している。

 北朝鮮住民の実生活と密接に関係する消費財市場の分析を担当したのは北朝鮮市場化研究センターのソン・スルギ所長で、「1990年代の東側諸国の崩壊後、配給制度が崩壊し、北朝鮮には400以上の市場が生まれ、以前は中国製品が大半を占めていたが、今では国産品、つまり北朝鮮製品がいわゆる『外国製』と競合する状況になり、大都市では百貨店が増えている」と書いていた。

 ハナ金融研究所のチャン・ヘウォン上級研究員は北朝鮮の労働市場に関する研究結果を紹介しているが、北朝鮮の労働市場は依然として当局が強力に統制している領域だが、「市場化が進むにつれ、多くの国民にとってこうした市場が生計手段となっているため当局もこうした活用を黙認している」と述べている。

 北朝鮮の金融部門については産業銀行未来戦略研究所のチェ・ジェホン研究員が受け持っているが、チェ研究員は北朝鮮はこれまで中央銀行が預金や貸付を担当する「単一銀行制度」を維持していたが、「市場化に伴う国民の資金需要が増えたことにより産業銀行が設立されており、また個人間の現金取引の増加に伴い電子決済カードの使用が奨励されている」と指摘している。

 西江大学社会科学研究所のチョン・イルヨン教授は、国際社会の対北制裁と北朝鮮経済の相関関係を分析しているが、同教授によると、北朝鮮経済は「コロナ」以後、孤立を深めていたが、「ロシア・ウクライナ戦争の勃発による米露葛藤と米中貿易戦争などで北朝鮮制裁が揺らいだことで北朝鮮は息を吹き返し始めた」と結論付けている。

 一番手の執筆者のキム・ヨンヒ客員研究員はこの本の中で「いつからか私たちは北朝鮮を不変の物体として化石化していた。しかし、北朝鮮は、北朝鮮経済は絶えず変化し、生存を追求している。北朝鮮の変化を正しく理解できなければ、我々は存在しない北朝鮮を相手にすることになる。曇った霧を取り払い、北朝鮮経済を理解する努力を躊躇うべきではない」と、警鐘を鳴らしていた。

 本書は結論として、北朝鮮が核兵器の開発状況を把握する努力と同時に核兵器の開発を支える経済状況を同時に知ることも重要であると、説いている。