2025年5月23日(金)

 駆逐艦進水失敗! 北朝鮮がミスを発表するのは異例でもなく、毎度お馴染みの光景

2017年に建造された北朝鮮の5千トン級の貨物船「自力」(「今日の朝鮮」から)

 北朝鮮の5000トン級駆逐艦の進水失敗はビッグニュースとなって世界を駆け巡っている。韓国や日本のメディアは北朝鮮が事故を公表するのは極めて異例のことだと、伝えている。

 確かに、人一倍プライドの高い北朝鮮が都合の悪い不祥事や事故を発表することはそう頻繁にはない。実際に金日成(キム・イルソン)時代から金正日(キム・ジョンイル)時代にかけては皆無と言っても過言ではない。

 しかし、金正恩(キム・ジョンウン)時代になってからは変化が生じ、不思議なことにあえて公にする必要のないことまで包み隠さず、国内外に知らしめている。

 一例を挙げれば、2012年4月の金日成主席生誕100周年記念として打ちあげられた人工衛星「光明星3号」の失敗である。

 金正恩総書記が自ら平壌の管制総合指揮所から発射のゴーサインを出して、打ち上げたものの「光明星3号」は空中爆破してしまった。「絶対に成功させる」と大見得を切って強行しただけに金総書記の面子は丸つぶれとなった。

 しかし、海外から取材陣を大挙呼び寄せていたこともあって失敗を認めざるを得なかったのか、国営通信「朝鮮中央通信」は「衛星は軌道に上がらず、失敗した。科学者、技術者、専門家らが現在、失敗の原因を究明している」と、速報を流していた。

 また、2023年5月31日に初めて軍事偵察衛星を打ち上げた時も発射から約2時間半後の9時5分に「1段目分離後、2段目エンジンの始動不正常で推進力喪失し、落下してしまった」と、対外的には朝鮮中央通信を通じて失敗したことを伝えていた。

 「労働新聞」と朝鮮中央テレビは一切触れず、しばらくは国民には伝えなかったものの6月18日に開かれた党中央委員会全員会議で金総書記が「最も重大な欠点は宇宙開発部門で重大な戦略的事業である軍事偵察衛星の打ち上げに失敗したことである」と取り上げたことで国民は知るに至った。

 金総書記は党中央委員会総会で失敗の原因について「衛星打ち上げの準備を、責任を持って推進した活動家らの無責任にある」と、この時も国家宇宙開発局幹部ら責任者を叱責していた。

 北朝鮮は3か月後の8月24日に再発射したが、この時もまた失敗に終わり、さらに3か月後の11月の3度目の発射でやっと成功させ、金総書記は「共和国武力が今や万里を見下ろす『目』と万里を叩く強力な『拳』を全て、共に手中に掌握した」と豪語していたが、「年内に3基保有する」ことを目標に昨年5月、4度目の打ち上げを試みたものの「ロケットは1段の飛行中、空中爆発してしまった」(国家航空宇宙技術総局副総局長)と、またもや失敗の事実を公表していた。

 この他に2014年には首都である平壌直轄市の平川区域鞍山一洞にて手抜き工事が原因で23階建ての高層マンションが崩壊する事故が起き、400〜500人の死傷者が出たが、遺族らに対して金総書記は日本の警察庁長官にあたる人民保安部の崔富一(チェ・ブイル)部長に謝罪させ、その写真を公開していた。

2014年に高層アパート崩壊現場で遺族らに謝罪する建設現場責任者(「今日の朝鮮」から)

 偵察衛星だけでなく、近年では金総書記が杜撰な工場建設や怠慢な水害対策に怒り狂って、担当幹部らを公然と叱責し、厳重処分に処していることは毎度お馴染みとなっている。

 今回の駆逐艦の進水失敗について北朝鮮は「絶対にあってはならないことが起きた」として、専門家から成る北朝鮮の事故調査グループが原因究明を急いでいるが、どうやら横進水の際、「未熟な指揮と操作上の不注意により、台車移動の平行性が保たれなかった」ため船体の右舷が引っかかり、船尾部分の救助通路に一定の量の海水が浸水してしまったようだ。

 韓国では経験のなさ、未熟さが指摘されているようだが、北朝鮮は約3300トン級の貨客船「万景峰92」をはじめ2017年には5千トン級の貨物船「自力」を、さらには2021年21月には1万2千トン級の大型貨物船「長寿山」を建造し、出航させるなど造船分野にはそれなりの実績がある。

 先月も西部の南浦造船所で建造された新型5000トン級駆逐艦1番艦「崔賢(チェ・ヒョン)」の進水式が盛大に行われたばかりである。

 ただ、貨物船「自力」も大型貨物船「長寿山」はいずれも南浦の造船所で建造されており、日本海側の新浦の造船所は小型の潜水艦建造が主力で5千トン級の進水は慣れていなかったのかもしれない。