2025年5月26日(月)
内外が注目する駆逐艦進水失敗の責任 粛清はあるのか、ないのか、それが問題!
駆逐艦「崔賢号」艦戦闘適用性の試験に立ち会った党担当幹部らと金正恩総書記と娘(朝鮮中央通信から)
金正恩(キム・ジョンウン)総書記は駆逐艦の進水失敗をすでに「犯罪行為である」と決めつけており、「責任のある者らは絶対に自分らの罪科をうやむやにしない」と公言している。
すでに26日現在、現場の責任者である清津造船所支配人のホン・ギルホ、清津造船所技師長のカン・ジョンチョル、行政副支配人のキム・ヨンハクの3人が身柄を拘束され、さらに党の責任者である党軍需工業部のリ・ヒョンソン副部長も「重大事故の発生に大きな責任がある」として身柄を拘束された。但し、上司でもある党軍需工業部長の趙春龍(チョ・チュンリョン)書記は難を逃れているようだ。
北朝鮮は通常ならば、「反革命分子」や「犯罪者」は実名を公表せず闇から闇へ葬る去るのだが、今回は実名を挙げて、身柄を拘束している。これは極めて異例のことである。
金総書記は事故を隠そうとはせずに「重大事件化」した理由について「どの部門を問わず蔓延している警戒心の欠如、無責任さと非科学的な経験主義的態度に強い打撃を与え、警鐘を打ち鳴らすことにその目的がある」として、見せしめであることを示唆している。
党機関紙「労働新聞」が論じているように「金正恩総書記の権威を失墜させた」ならば、重大な背信行為にあたる。最悪の場合、政治犯収容所送りか、公開処刑の可能性も考えられる。但し、直近の例を見ると、必ずしも予告とおり、極刑に処せられていない事例もある。
▲2023年5月 初の軍事偵察衛星打ち上げが失敗したことについて
軍事衛星はロケット部品だけでも1万個が必要とされており、また1基にかかる費用も6億ドル相当と言われており、失敗は北朝鮮には相当な財政負担となった。何よりも失敗により金総書記が被った落胆、ショックは半端ではなかった。
金正恩総書記は6月中旬に開いた労働党中央委員会総会で「最も重大な欠点は宇宙開発部門で重大な戦略的事業である軍事偵察衛星の打ち上げに失敗したことである」と述べ、失敗の原因について「衛星打ち上げの準備を、責任を持って推進した活動家らの無責任にある」と国家宇宙開発局幹部らを叱責していた。
しかし、宇宙・科学教育部門担当の朴泰成(パク・テソン)党書記も功国家宇宙開発局のパク・キョンス副局長ら実務責任者らも責任を取らされることはなかった。朴泰成氏は昨年12月の労働党中央委員総会では総理に抜擢されている。
▲2023年8月に平安南道安石干拓地で水田冠水を招いたことについて
被災地を訪れた金総書記は「総理は対策らしくない対策を報告して復旧活動を軍隊にほとんど任せるようにし、その上ふしだらに手配した活動も調べてみれば、被害状況に対する彼の弛緩性と非積極性がよく分かる。国の経済司令部を導く総理らしくなく、人民の生活に責任を持った主人らしくない思考と行動に遺憾を禁じえない。内閣総理の無責任な活動態度と思想観点を党的に深く検討する必要がある」と党序列2位の金徳訓(キム・ドックン)総理を名指しで批判した。
また、「現場に出向いた副総理という者は燃油供給員の役しかしてなかった」と、農業担当の朱哲圭(チュ・チョルギュ)副総理、扱き下ろし、」さらに「国家経済事業と経済機関に対する指導を受け持った党中央委員会の責任も大きい」と李鉄万(リ・チョルマン)党農業部長らも一蓮托生で指弾していた。
当時は金総書記が党組織指導部と規律調査部、国家検閲委員会と中央検察所に対して「責任ある機関と当事者を探し出して党的、法的に厳しく問責し、厳格に処罰せよ」と命じていたことから全員粛清されるのではとみられていたが、誰一人解任されることもなく、処分されることもなく、現職に留まっていた。
解任されずに済んだのは金総書記の気が変わったのか、あるいは他に人材がいなかったのか定かではなかった。
但し、この2件のケースとは異なり、「責任者が処刑された」とされる事例もある。
▲2024年7月末に地方都市、慈江道で水害が発生したことについて
金正恩総書記は7月30日に現地を視察した際に開催した政治局非常拡大会議で「許しがたい人命被害まで発生させた」と激怒し、「党と国家が付与した責任重大な職務の遂行を甚だしく怠って許せない人命被害まで発生させた対象者を厳しく処罰する」と公言していた。
韓国のケーブルテレビ向け放送「朝鮮TV」は9月3日に北朝鮮の水害被害関連で「先月(8月)末に水害地域の幹部ら20〜30人がいっぺんに銃殺された。その中には慈江道党責任書記も含まれていた」と伝えていた。
慈江道の党責任書記は姜鳳勲(カン・ボンフン)労働党中央委員である。かつては軍需工業部副部長の任にあった人物で、金総書記の取り巻き連中の一人でもあった。その人物が容赦なく、処刑されたのである。
今回の駆逐艦進水失敗について金総書記が「我が国の尊厳と自尊心を崩壊させた」として怒っているので拘束された4人の無罪放免は考えにくい。
誰が粛清(処刑)されるのか、この問題を扱う6月下旬の党中央委員全員会議(総会)が注目される。