2025年5月29日(木)

 韓国大統領最有力候補に忍び寄る「暗殺」の脅威

防弾チョッキを身に着けていた「共に民主党」の李在明候補(韓国紙「京郷新聞」)

 韓国大統領選挙の期日前投票が始まった。投開票は6月3日である。

 世論調査では劣勢に立たされている与党「国民の力」の金文洙(キム・ムンス)候補は逆転勝利を狙い、ギリギリまで同じ保守の第3野党「改革新党」の李俊錫(イ・ジュンソク)候補との一歩化を目指したが、どうやら不発に終わったようだ。現状でよほどの「突発事態」が起きない限り、野党第1党「共に民主党」(民主党)の李在明(イ・ジェミョン)候補の当選は揺るぎそうにない。

 「突発事態」とはズバリ、李在明候補の身辺に不測の事態が起きることを指す。

 李在明候補は極右「反李在明派」のテロを恐れ、遊説など外出する際には防弾チョッキを身に着けているが、最近では演壇の前と横にも防弾ガラスを立てて演説するほど眼に見えない敵の脅威にさらされている。

 民主党は党内に「テロ対策タスクフォース」を結成し、李候補の身辺警護を強化している。李在明候補に密着して警護するチームには女子テコンドー国家代表のA警視を含み数十人の警護員を配備しているが、昨年1月に釜山で暴漢に襲われ、刃物で首を刺される事件があっただけに二重、三重の警備態勢を敷いている。

昨年1月釜山で暴漢に襲われた李在明候補(「JPニース」から)

 そうした最中、民主党は昨日、記者会見を開き、驚くべき内容の声明文を出していた。要旨は以下のとおりだ。

 「最近、国家情報院(国情院)の前次長、前対共(共産主義)捜査局長、前防諜局長、元支部長ら国情院高位幹部出身ら数人と、国情院OBらの親睦団体「陽地会」の主要幹部、「陽地会」傘下研究機関「国家安保統一研究院」の主要幹部、さらには対共捜査局出身OB団体「徳風会」の幹部らが金文洙候補陣営で活動し、ソーシャルメディアを通じて李在明候補を誹謗中傷する心理戦を展開している」

 ※「陽地会」は脱北(北韓離脱住民保護センター)の監理に必要な用役や管理員を採用している社団法人が、予算及び組織運営関する情報は徹底的に伏せられている。また、「国家安全保障統一研究院」は5月23日、ソウル弁護士会で「国家安全保障危機の問題点」をテーマにセミナーを開催していたが、イム・ジョンヒョク院長は挨拶で「外国のスパイが無人機で諜報機関や軍事施設の写真を撮るケースが多発している現在の状況では習近平時代の朝鮮戦争初期とその対策、最近のスパイ事件を議論することは大きな意義がある」と挨拶していた。

 「国情院の現職職員が大統領選挙に影響を与える目的でOBらと連結し、いわゆる『新たな北風』文書を作成し、暴露する兆候があるとの情報もある。治安不安を刺激する方法で大統領選挙に影響を与える可能性があるとの具体的な情報提供ももたらされている」

 「何より懸念されるのは李在明候補に対する身辺危害情報が何件もあることだ。オンラインにも身辺危害警告が登場している。民主党が入手した李在明へのテロ計画に関する情報の中には実際にそうした分野に従事していなければわからないような具体的な内容も含まれている。軍の特殊工作活動を調整、統制できる権限を持っている国情院のA部署のN局長は昨年12月3日の内乱(非常戒厳令宣布)でこの権限を乱用し、対北諜報部隊傘下のHID(北派工作員部隊)要員又はHIDのOBらを隠密に動員したとの疑惑を持たれている。今でも権限を利用し、彼らを動員しようとしているとの情報がある」

 「N局長は『12.3内乱』準備段階で文相虎(ムン・サンホ)、盧・サンウォンの前、元情報司令官と随時疎通し、内乱直前の12月2日にはHID要員を動員した任務を遂行した文相虎司令官と通話していたとの情報がある。HIDは有事の時に北派工作、斬首作戦を遂行するため訓練を受けた特殊先鋭要員である」

 民主党は「12.3」の時に動員されたHID要員の中には「逮捕組」だけでなく、「暗殺組」もいたのではないかと疑っており、国情院に対して不法な突発事態を遮断するため内部監察を行うよう求めいるが、特にN局長に関する情報を確認することと「新北風』文書の作成疑惑に関連して、過去に同様の作戦を主導した部門を集中的に調査するよう求めている。

 民主党は国情院の趙太庸(チョ・テヨン)院長が「12.3内乱」に直接、間接に関与しているとして疑惑の目が向けているが、実際に趙院長も検察からすでに参考人として呼び出され、調査を受けている。

 民主党は「国情院がその機能と権限を乱用して総統選挙に影響を与えたり、極端な行動を取ったりすれば、民主党は国情院の機能と権限を再調整し、国情院を徹底的に改革する」と警告を発しているが、民主党がここまで国情院に不信を抱くのは過去、大統領選挙で何度か、不可解な「事件」や「事故」が発生しているからである。

 朴正煕(パク・チョンヒ)政権の時の大統領選挙では1971年に大統領選挙に挑戦した金大中(キム・デジュン)野党候補が載っていた車がトラックに衝突され、金大中候補が足を負傷する事件が起き、また、退陣に追い込まれた全斗煥(チョン・ドファン)政権下で1987年に行われた大統領選挙では「北風」(大韓航空機爆破事件)が吹き、全斗煥氏の後継者である盧泰愚候補が世論調査ではリードされていた野党の金泳三(キム・ヨンサム)候補を逆転していることだ。

 実際に、情報機関が関与した工作としては1997年の大統領選挙が有名だ。

 野党の最有力候補、金大中(キム・デジュン)氏を蹴落とすため情報機関が北朝鮮の工作機関を買収し、選挙期間中に「北風」を依頼した事件で、映画「ソウルの春」で全斗煥役を演じたファン・ジョンミンの主演作、「黒金星」はこの時の工作を題材にしている。

(参考資料:韓国与党大統領候補は極左から極右への「転向者」)

(参考資料:韓国次期大統領の椅子に最も近い男 「李在明」とは?)