2025年5月4日(日)

 韓国が実に「おかしい国」になってしまった「7つの訳」

尹錫悦前大統領と大統領候補の李在明氏と韓悳洙氏(大統領室と民主党HPと国務室から筆者キャプチャー)

 日本では考えられないような異常事態が韓国で次々と起きている。一言で言って、国家の機能が根本から揺らぎ、実に「おかしい国」になってしまった。その理由は以下のとおりである。

 1. 国のトップが不在

 韓国は大統領中心制の国である。国民の直接選挙で選ばれる大統領には▲国家財政に関する権限▲外国と条約を締結し、批准する権限▲最高司令官として国軍を統帥する権限▲首相を含む閣僚から最高裁長官、検察総長、中央選挙管理委員長にいたるまでの任命権など国政の最高責任者としての絶対的な権限が付与されている。また、外国に対しては国家を代表する元首としての地位と行政府の首班としての地位も有している。

 憲法(第67条)に基づき国民の代表機関としての地位を有したその大統領が昨年12月3日に発令した非常戒厳令が違憲と判断され、今年4月4日に憲法裁判所で罷免されてからは最高指導者が不在の状態が続いている。世界広しと言えども、今の韓国のような国は他にないであろう。

 2. No.2の首相も不在

 韓国の憲法では大統領が不在の場合は首相が代行する。首相は大統領の第1補佐機関として大統領の命を受け、行政部を統括する。ところが、韓洙悳(ハン・ドクス)首相も大統領選挙出馬のため辞任したことにより空席のままである。首相は大統領選挙を管理する立場にある。サッカーに例えるならば主審である。その主審が突如、一方のチームの選手としてグランドに立ったことになったのである。

 3. 憲政史上初の3人の大統領代行

 首相も不在の場合は、副首相が大統領代行を担うが、崔相穆(チェ・サンモク)経済担当副首相(兼企画財政部長官)も辞任したため政治、経済、外交とは無縁の李周浩(イ・ジュホ)社会担当副首相(兼教育部長官)が務めている。野球に例えれば、代打の代打の、また代打である。崔副首相は野党が国会に提した弾劾案が可決される直前の5月1日午後10時半に辞表を提出したが、韓首相の辞意表明から6時間半しか経っていなかった。崔副首相の辞表を受理したのは1時間半後に職務が失効した韓首相だった。辞意を表明していた者が辞表を受理したのである。

 4. 風前の灯の閣僚会議(国務委員会議)

 日本の閣僚会議にあたる国務会議が定数不足の危機に直面しいる。国務会議の規定は国務委員21人中、過半数の11人以上が出席しないと成立しない。

 崔相穆副首相(企画財政部長官)と大統領選に出馬した金文主(キム・ムンス)雇用労働部長官が相次いで辞任したためすでに空席となっている大統領、首相、国防部長官、行政安全部長官、それに女性家族部長官を含めると、21人中、7つのポストが宙に浮いたままである。

 仮に残り14のうち大統領代行の李周浩副首相(教育部長官)と劉相任(ユ・サンイム)科学技術情報通信長官、趙兌烈(チョ・テヨル)外交部長官、金暎浩(キム・ヨンホ)統一部長官の中から4人が弾劾されれば国務会議は無力化される。野党が今後、大統領の刑事裁判停止などを盛り込んだ刑事訴訟法や公職選挙法改正案などの法案を国会で可決した場合、政府は拒否権を発動できなくなる。国務会議を開かなくてはならないからだ。

 5. 検察総長も弾劾

 日本の検事総長にあたる検察総長の弾劾案が野党から国会に提出された。尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の刑事裁判と野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)大統領候補の公職選挙法違反容疑裁判が行われている最中に起訴した側の検察のトップ、沈雨廷(シン・ウジョン)検察総長に対して「共に民主党」は弾劾案を国会に提出した。

 弾劾理由は「12月3日の非常戒厳令宣布と内乱行為に加担し、違法な形で尹錫悦前大統領の釈放を指揮した」というものだが、「共に民主党」が国会で過半数(150人)を上回る170議席を占めているので可決は必至だ。そうなれば、沈総長は3か月間、職務停止となる。

 面白いことに「共に民主党」は検察に対して内乱罪や職権乱用罪で裁判中の尹前大統領の有罪と公職選挙法違反容疑による再逮捕や金建希(キム・ゴンヒ)夫人の株価操作疑惑や高給ブランド品の授受疑惑などの追及を求めながら、その一方で検察を指揮する総長を弾劾するという実に矛盾した行動に出ている。

 6.最高裁判官10人を一同に弾劾へ

 大法院(最高裁)が公職選挙法違反罪に問われた李在明大統領選候補に対して無罪を言い渡したニ審判決を大法院が破棄し、ソウル高裁に差し戻したことを「大法院の不当な大統領選への介入」「政治裁判」と批判している「共に民主党」は裁判官12人のうち有罪を支持した趙熙大(チョ・ヒデ)大法院長官を含む10人の最高裁判事らの弾劾手続きに入っている。仮にこれが通れば、最高裁判所の機能は事実上、麻痺してしまう。韓国では朴槿恵(パク・クネ)政権下の最高裁長官だった梁承泰(ヤン・スンテ)氏が日韓関係の悪化を憂慮した朴政権の意向を受け、徴用工訴訟の判決を不当に遅らせた疑いで逮捕、収監された前例がある。最高裁長官が罰せられ、収監されたのである。

 7. 大統領選挙直前に次期最有力大統領候補への有罪判決

 大法院は大統領選挙まで残り32日と迫った5月1日、世論調査の支持率ではトップを走っていた「共に民主党」の李在明候補のニ審無罪判決を棄却し、ソウル高裁に審理を差し戻した。高裁は大法院の判断に拘束されるため李候補に有罪を言い渡さなければならないが、一審の有罪1年(執行猶予2年)ではなく、軽減され、罰金刑であっても100万ウォン(約10万円)以上ならば李候補は被選挙権を剥奪され、大統領選挙に出馬できない。また、民主党は約420億ウオン(42億円)の選挙支援金を国に戻さなければならない。

 本来ならば、二審から三審までの期間は3か月もあり、二審判決が3月26日だったことから大法院判決は大統領選挙(6月3日)後の6月下旬とみられていたが、大法院は3月28日に検察の上告を受理してから異例の早さで事件を審理したことにより結果として司法が政治に介入したとの批判を招いてしまった。