2025年5月8日(木)
本当に北朝鮮はアジア最貧国なのか?弾薬生産からミサイル製造、高層住宅街建設の資金の出所
第二経済委員会傘下の主要な軍需工場を視察した金正恩総書記(朝鮮中央通信)
北朝鮮に打出の金小槌でもあるのだろうか?
今朝も北朝鮮は日本海に向けミサイルを発射していたが、アジア最貧国と言われているのにここ数年の国防力の増強と建設ラッシュには目を見張るものがある。
金正恩(キム・ジョンウン)総書記は数日前にも軍事部門を担当する第二経済委員会傘下の主要な軍需工場を訪れ、「より多くの砲弾を生産せよ」と号令を掛けていた。
労働新聞によると、砲弾の生産は「例年比で4倍、生産ピーク時の2倍」に増加したそうだ。
金総書記は2023年8月以降、砲弾、ミサイル、戦略ミサイル発射装置(TEL)、通信機器などさまざまな軍事物資を生産する20以上の工場を訪問し、兵器生産の増加と工場の近代化を呼び掛けていた。
武器や軍需品は老朽化すれば、鉄くずである。財源が困窮している北朝鮮は本来ならば、非生産分野に投資するほどの余裕はないはずだ。
北朝鮮は「火星15型」から「火星19型」までの大陸間弾道ミサイル(ICBM)を製造し、2023年の年は「火星15」「火星17」「火星1」の3種類のICBM(5発)を含め弾道ミサイルだけで延べ37回にわたって約70発も発射していた。
昨年も新型極超音速固体燃料中距離弾道ミサイル、新型地対海(艦)ミサイル「パダスリ(ミサゴ)6」、新型中・長距離極超音速ミサイル(「火星=16ナ」)を含め弾道ミサイルや超大型放射砲を惜しみなく発射し、新型大陸間弾道ミサイル「火星砲―19」を開発し、試射してみせた。
海軍の増強にも力を入れ、潜水艦発射戦略巡航ミサイル「プルファサル(火矢)―3―31」や水中兵器「ヘイル(津波)―5―23」、戦術核攻撃潜水艦「キム・グンオク英雄号」、そして5000トン級の駆逐艦「チェヒョン号」と次々と開発、生産している。
駆逐艦1隻の費用だけで韓国の基準からすると、3900億ウォン(約390億円)を要する。さらに原子力潜水艦まで建造している。現在、原子力潜水艦を保有している国は大国のアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5か国とインドのみで、日本も韓国もまだ保有していない
その一方で、北朝鮮は2021年から毎年1万世帯、計5万世帯の高層住宅街を建設している。日本海に面した江原道の元山と葛麻海岸では6月のオープンを目指し、大規模な海岸リゾート施設を建設している。
高層ビルが立ち並ぶ平壌の和盛地区(朝鮮中央通信)
一体、それだけの資金をどうやって調達したのだろうか?
昨年発表された国連安保理制裁員会の報告書によると、北朝鮮がビッドコインのハッキングで2017年から2023年までの間に得た資金は約30億ドル(日本円で4350億円)と推定されていた。しかし、こうした不法に得た資金を投じたとしても、これだけでは不十分だ。
韓国防衛研究所の最近の報告書をみると、北朝鮮はロシアへの軍事協力で約28兆7000億ウォン(約2兆8650億円)の経済効果を生み出したと推定されている。これは韓国銀行が推計する北朝鮮の実質国内総生産(GDP)32兆3201億ウォン(2023年現在)の88.8%という膨大な金額である。
北朝鮮の対露軍事支援が始まったのは2022年11月頃で、ロシアにはこれまで152mm砲弾、240mm発射体、自走砲、ファイアーバード4対戦車ミサイル、KNー23短距離弾道ミサイル、RPG対戦車ロケット弾など数百万発がロシアに輸出され、2024年10月からは兵士まで派遣され、その数は約1万5千人に達していた。韓国防衛研究所の見積もりだと、北朝鮮は弾薬などの物資供給だけで27兆4000億ウォン(約2兆7350億円)を手にしたようだ。
ウクライナ戦争は紆余曲折を経ても年内には停戦に向かうものとみられている。そうなれば、遅かれ早かれ北朝鮮のウクライナ特需は終焉を迎える。それでも金総書記が砲弾の増産を命じたのはロシアへの輸出による国内の不足分を補うためだけではなく、今後ロシア向けだけでなく、他の国にも輸出するのが狙いなのであろう。
金総書記が軍需工場を視察したその日に平壌にユーリー・シュレイコ副首相を団長とするベラルーシ政府代表団が滞在していた。一行は北朝鮮政府の招請で朝鮮・ベラルーシ政府間貿易経済協力共同委員会第3回会議に出席するために9日まで平壌に滞在している。
ベラルーシの訪朝団は昨年7月のルイジェンコフ外相以来である。ルイジェンコフ外相は平壌滞在中に対露武器の見返り交渉に関わっていた尹正浩(ユン・ジョンホ)対外経済相とも会談していた。
北朝鮮の兵器がロシアを経由してベラルーシに輸出されることはあり得ない話ではない。ルカシェンコ大統領が2023年9月、プーチン大統領と会談した時にベラルーシとロシア、北朝鮮の3国協力を提案していたからである。
国連安保理の制裁で2009年に武器輸出が全面的に禁じられるまで北朝鮮の最大の外貨獲得の輸出品目がミサイルなどの兵器であったことは誰もが認めるところである。