2025年11月1日(土)
北朝鮮の国際映画祭で「金正日暗殺陰謀」映画が上映
2000年に訪朝したオルブライト米国務長官と握手を交わす金正日前総書記(朝鮮中央通信から)
北朝鮮国内で故金正日(キム・ジョンイル)前総書記の暗殺を題材にした映画が上映されたと聞いて、「まさか」、「嘘だろう」と、思わず、声を上げてしまった。
この俄かに信じ難い話は朝鮮労働党創建80周年祝賀行事の関連で10月22日から27日まで行われた平壌国際映画祭に参加した中国に本社を置く北朝鮮専門旅行社「ヤング・パイオニア・ツアーズ」のマネージャであるジャスティン・マーデル氏が一昨日(30日)米CNNに訪朝の感想を語った際に飛び出した。
10月22日に開幕した平壌国際映画祭(朝鮮中央通信)
映画製作も手掛けているマーデル氏は米国人だが、カリブ海のセントクリストファーネイビスの国籍を取得して、これまで延べ12回北朝鮮に入国している。外国から観光客を誘致するなど北朝鮮の外貨獲得事業や北朝鮮のPRに大いに貢献しており、北朝鮮の信頼は厚く、「友好人士」としてもてなされているようだ。
ロシアの映画製作者が審査委員長をしている平壌映画祭ではこれまでに国内外の長編映画、ドキュメンタリー、短編、アニメなど70本以上の作品が上映されているが、日本、米国、韓国の映画に限っては1987年以来出品が禁止されている。
今回、6年ぶりに平壌国際映画会館で開催された映画祭はロシアと中国の合作映画「赤いシルク」で幕を開けたが、北朝鮮からは若き頃の金日成(キム・イルソン)主席そっくりの俳優が出演し、話題を呼んだ戦争映画「72時間」や新作「昼と朝」に交じって題名は不明だが、「金正日暗殺陰謀」を題材にした映画が上映されたようだ。
マーデル氏は映画を見た感想をCNNに語っているが、暴力シーンだけでなく(女性が)露出するシーンまで登場するなどこれまでの北朝鮮映画では見られなかった現代的制作方式が取り入れられていたとのことだが、そんなことよりも最高指導者の命が狙われるストーリを扱った映画を製作、公開したことに正直、驚きを禁じ得ない。
亡くなったとは言え、金正日前総書記は北朝鮮にあっては今でも「全人民が敬愛する最高の尊厳」の一人とみなされている。従って、その指導者を亡き者にする企ては言うに及ばず、仮にフィクションであっても映画の題材にすることは絶対にあってはならないことである。
北朝鮮が2014年12月に米国のソニー・ピクチャーズエンタテインメントが4400万ドルを投じて金正恩(キム・ジョンウン)総書記(当時第1書記)の暗殺計画を題材としたコメディー映画「ザ・インタビュー」を劇場公開しようとした際に猛反発し、同社にサイバー攻撃を仕掛けたことはまだ記憶に新しい。
当時、北朝鮮の祖国平和統一委員会のウェブサイト「わが民族同士」はこの映画について「最高指導者に対する冒涜である」と猛烈に非難し、映画関係者に対して「我が方の断固とした懲罰を受けるべきである」と、テロまで予告し、威嚇するほどだった。
「時代が変わった」からとか、「すでに故人になっている」からと言ってタブーを解禁するほど北朝鮮は寛大ではないはずである。まして、外国の映画が取り上げたならばいざ知らず、北朝鮮国内で制作、配給されることは想像もつかない。鼠、蟻一匹入る余地のない一枚岩の体制が最高指導者と国民との「一心団結」を強調してきた割りには隙だらけであることを自ら認めるようなものだからだ。
しかし、マーデル氏の証言どおりならば、間違いなく、平壌国際映画祭で上映されたのであろう。それも実際に暗殺の陰謀があった、あるいは未遂に終わったから映画化したのであろう。
「実話」の前提に立てば、一つは、2008年に北朝鮮のスパイ摘発組織、国家保衛部が発表した韓国のスパイによる「金正日総書記のテロ未遂事件」がモチーフになったのではないだろうか。当時、金正日前総書記の暗殺未遂事件やクーデター説は韓国から流れることはあっても、北朝鮮の公式報道機関が発表することはそれまで一度もなかっただけに筆者にとっても衝撃的な発表だった。
同じく、国家保衛部は2017年5月5日に「米CIAと韓国の国家情報院(国情院)指令による最高首脳部(金正恩委員長)への国家テロを企てた一派を摘発した」と発表していたが、この事件も映画製作に参考にしたのではないだろうか。
この事件では暗殺を企てたとして二人の容疑者が逮捕されていたが、韓国の「国情院」が「脱北者を抱き込み、一定の訓練をさせ、北朝鮮に潜入させ、最高首脳部の暗殺を企図した」と、北朝鮮は韓国を非難していた。
当時、朝鮮半島は核問題で緊張がピークに達し、米CIAも「国情院」も極秘裏に「金正恩除去作戦」を潜行していた時期なので、こうした事件等をモデルにした可能性が高いが、何はともあれ、映画を取り寄せることができるならば、一度見てみたいものである。