2025年11月17日(月)

 韓国は「日中外交紛争」をどう見ているのか?

韓国・慶州「APEC」での中韓首脳と米韓首脳(大統領室HPから筆者キャプチャー)

 高市早苗首相の国会での台湾情勢に関する「存続危機事態発言」は日中間の外交紛争に発展しているが、日米韓と日中韓の二本柱を外交の基軸としてこともあって韓国はテレビ媒体を含めメディアは無関心ではいられないようだ。連日、日中のバトルを逐次国際欄で報道している。

 報道内容は一方に与せず、客観報道に徹しているが、どちらかと言えば、「君子危うきに近寄らず」とばかり、高みの見物に徹している。へたに旗色を鮮明にすれば「寝た子」(米国と中国)を起こしかねないからだ。

 それでも政界や外交評論家からは「高市首相は本性を現した」とか「高市首相の発言は日本の本音だ」との声や「中国の虎の尾を踏んでしまった」「中国は横柄だ」「中国は大人気ない」などの声も上がっている。但し、後者の声は韓国でも似たような現象が起きていることを反映したものといえなくもない。そのことは「韓国日報」が11月15日付に「『台湾問題で火遊び』云々の中国大使一線を越えた」の見出しを掲げ、社説で取りあげていたことからも窺い知ることができる。

 社説は中国の戴兵・駐韓大使が13日に米韓首脳会談で合意した韓国の原子力潜水艦の建造について「すべての当事者の懸念を考慮して慎重に処理する」よう要求したことを問題視し、「核攻撃潜水艦を増やしている中国から文句を言われる筋合いはない」と公然と反論していた。

 また、韓国が憂慮を表明している問題の西海(黄海)上の構造物を戴兵大使が「単なる養殖施設」主張したことについても「二国間関係の発展と協力を促進するために派遣された外交官としては相応しい発言ではない」と批判し、「李在明(イ・ジェミョン)大統領と11年ぶりに訪韓した習近平主席の首脳会談で苦労して作り出された韓中友好雰囲気にこれ以上冷水をかけないことを願う」と、反発していた。

 戴兵大使が韓国にとっては内政干渉に近い発言をしたのは11月14日に李大統領が自ら発表したトランプ大統領との米韓首脳会談に関する共同声明が影響しているようだ。

 共同声明には「両首脳は航海、上空飛行の自由やその他合法的な海洋利用を守るための努力を再確認した。両首脳はすべての国の海洋権威主張は国際海洋法と合致しなければならないことを再確認した」ことと「両首脳は台湾海峡での平和と安全維持の重要性を強調した。両首脳は両岸問題の平和解決を督励し、一方的な現状変更に反対した」ことが盛り込まれていたが、中国を念頭に入れているものの中国を直接名指ししていなかった。

 日本は石破政権下の2025年2月7日にワシントンでの日米首脳会談で「両首脳は中国をめぐる諸課題をめぐり意見交換を行い、東シナ海や南シナ海等におけるあらゆる力又は威圧による一方的な現状変更の試みに反対することを確認した。また、両首脳は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した」とする共同声明を発表し、中国の動きを「共通の脅威」として捉えていた。

 米国との軍事同盟を重視する日本も韓国も米国から台湾、中国問題では足並みを揃えるように求められているが、韓国はこの問題では明らかに日本とは距離を置いている。何よりも台湾有事が即、韓国の有事とみなしていないことにある。

 この件については鄭東泳(チョン・ドンヨン)統一院長官は今年6月に「私たちは外交を上手にやらなければ生き残れない国だ。私たちは大国とうまくやっていく必要がある。中国が台湾問題について話す時、台湾は核心的な利益であると言っている。中国の外交関係における最優先事項は一つの中国だ。台湾は国ではなく、中華人民共和国が中国を代表する唯一の国だ」としてこのことを前提に対中関係を進めるべきとの考えを披露していた。

 台湾有事が発生した場合でも日本は在日米軍が台湾海峡に出動することについて前向きだが、韓国はこの点でも慎重な立場である。

 趙顕(チョ・ヒョン)外相は今年8月、国会外交委員会で金峻亨(キム・ジュンヒョン)議員(祖国革新党)の「台湾有事の際には我々は介入するのか」の質問に明確に回答しなかった。イエス、ノーで回答しなかったため金峻亨議員は再度質したが、それでも趙外相は「有事の状況にもいろいろある。有事がどのように始まるのかによって(対応は)異なってくる」と、またもやはぐらかし、正面から答えようとはしなかった。

 趙外相の曖昧な答弁に野党に転落した「国民の力」の元代表である金起R(キム・ギヒョン)議員は質問を変え「台湾と中国が戦争した場合、韓国は駐韓米軍の装備や人力も含め駐韓米軍が投入されるべきではないとの立場に立っているのか」と畳みかけたが、趙外相は米中両国に気兼ねし「申し訳ないが、明確にはお答えできない」とまたもや回答を避けていた。

 金起R議員は「それでは納得できない。駐韓米軍を台湾海峡の紛争に介入させてはならない。米韓首脳会談でも論議の対象にしてはならない」と声を張り上げ、李在明政権を突き上げていたが、保守、親米の金起R議員が台湾問題へのコミットメントに反対するとは驚きだった。しかし、これは決して意外なことではない。「台湾海峡紛争不介入」は進歩層だけでなく、保守的な尹錫悦前政権下でもある種の暗黙の了解事項になっていた。

 尹錫悦政権下の昨年1月に申源G(シン・ウォンシク)国防長官(当時)は韓国メディアとのインタビューでこの件について質問された際に「台湾関連で衝突があったとしても駐韓米軍の移動を前提とする質問は適切ではない。米国に誤ったシグナルを与えかねない。我々の安保にためにならない質問である」と、質問を遮ったことがあった。また昨年7月には趙兌烈(チョ・テヨル)外相(当時)国会の外交委員会で野党の議員から「(韓国は)台湾有事に介入すべきなのか」と質された際に「そうは思わない。駐韓米軍は朝鮮半島の問題に集中することになっている」と明確に答弁していた。

 ズバリ踏み込んだことで中国と摩擦が生じた日本と、何事も曖昧にし、中国にも「シェシェ」することで対立を回避しようとしている韓国。これでは米国が描いている対中、対台湾問題での日米韓協調は容易ではない。