2025年11月24日(月)
「金正恩の娘」の名前のミステリー 本当に「主愛」?
韓国に脱北した北朝鮮外交官が「ジュエ」と呼ばれている金正恩(キム・ジョンウン)総書記の娘の名前の漢字表記は「主愛」であると明らかにしたことが日韓のメディアでちょっとした話題として取り上げられている。
筆者も娘の漢字表記は当て字で書くならば「主愛」ではないかと推測し、実際にこれまで何度か使用したこともある。母親の李雪主(リ・ソルジュ)から「主」の一文字と人民に愛される人に育ってもらいたいとの意味で「愛」が付けられたのではと想像していた。
かつて、日本のメディアは金総書記の「ジョンウン」の漢字表記について「正銀」あるいは「正雲」とそれぞれ勝手に名付けていたが、当時、筆者は「正恩」であるとズバリ当てていた。この時も一応、それなりの根拠があった。
北朝鮮の場合は、父が子に自分の一字を与えるケースは稀である。しかし、金一族の場合、「白頭山の血統」を引き継ぐ世襲であるため二代目の金正日(キム・ジョンイル)氏は建国の父、金日成(キム・イルソン)主席から「日」を、母親の金正淑(キム・ジョンスク)から「正」の一字を取って「正日」と定めた。
三代目の金総書記も「正恩」の「正」は父親の「正日」から取り、「恩」は「恩恵ある太陽」と称されていた祖父の金日成(キム・イルソン)主席の継承から取ったものとそれなりに推理した。何よりも「銀」は女性用であって男性には使われないこと、それに「雲」は将来「民族の太陽」となるかもしれない指導者にはふさわしくない字だからである。
今回、この脱北外交官の証言によって「主愛」の漢字表記が裏付けられたわけだから本来ならば喜んでしかるべきなのだが、今一つ、手放しで喜べない。理由は以下、2点である。
証言者の脱北外交官、リュ・ヒョヌ元駐クウェート代理大使は金総書記の統治資金の調達、管理していた労働「第39号」室長、全日春(チョン・イルチュン)が10年前の2015年9月に金総書記に同行して平壌を流れる大同江の遊覧船「ムジゲ号」を内覧した際に金総書記の娘を抱っこした時の写真を義父から見せられ、その際、裏面に「ジュエお姫さまと共に」と書かれてあったと証言している。
この話は今回が初めてではない。過去にもリュ氏は言及していたが、写真の裏面に「主愛」と漢字で書かれていたというのは今回が初めてである。
ではなぜ、そのことを今まで明かさなかったのだろうか?日本で翻訳本を出版するため後付けしたのではないだろうか?北朝鮮は韓国とは異なり名前を漢字表記しないのに名付け親の金総書記がわざわざ漢字表記を義父に教える必然性があるのだろうか?様々な疑問が湧いてくるのである。
もう一つは、遊覧船視察の際になぜ、母親の不在の不自然さだ。
金総書記の動静を調べてみると、確かに2015年9月27日に遊覧船を視察していた。同行者は男性幹部5人と妹の金与正(キム・ヨジョン)副部長だけで、李雪主夫人の名前はなかった。
李夫人は2012年に陵羅人民遊園地竣工式に出席した際に正式に「夫人」と紹介され、以後金総書記の視察に頻繁に同行していた。約2週間前の9月7日には夫と共に訪朝したキューバ―代表団の歓迎公演会にも姿を現していた。元気なのにこの日に限って、よりによって肝心な娘の外出時、それもまだ2歳半の娘が公の場でお披露目されるのに随行していないのは何とも不可解だ。
加えて、労働党創建日である10月10日のオープンを前に公の場に金総書記が子供を連れて行けば、ちょっとした騒ぎになったはずである。それを7年後の2022年11月17日のICBM「火星17」発射に立ち会うまで韓国の情報機関「国家情報院」が娘に気づかなかったというのも理解に苦しむ。遊覧船に現れたのに知らなかったとすれば、怠慢どころの話ではなく、情報機関として失格である。
それはそうと、漢字表記以前にそもそも名前が本当にハングル読みで「ジュエ」なのかも100%特定できていない。
現在までの証言者は第1証言者の米NBAのデニス・ロッドマン氏とこの脱北外交官の2人だけである。
百歩譲って「ジュエ」であったとしても北朝鮮が後継者として発表する際に、あるいはその全段階として妹の与正のように娘に肩書と職責を与えて公表する場合、改名させる可能性もゼロではない。
娘が生まれた2012年の時は後継者にする考えはなかったことから「ジュエ」と名付けたとしても男子が誕生せず、このまま後継者に定めるならば、「正恩」の2文字の中の1字を娘に与え「正愛(ジョンエ)」あるいは「恩愛(ウンエ)」として発表する場合もゼロではない。但し、北朝鮮があえて漢字の名を明かすのは中国向けであって、それ以外の必然性ない。
結論から言えば、「ジュエ」も「主愛」も北朝鮮が公式発表するまではあくまでも仮の名前であるということである。