2025年11月4日(火)

 高市首相のラブコールは北朝鮮に届くのか? 日朝首脳会談の2つの関門

拉致被害者の即時一括帰国を求める国民大集会で挨拶する高市首相(首相官邸HPから)

 人気絶頂の高市早苗首相は昨日、都内で開催された全拉致被害者の即時一括帰国を求める国民大集会に出席し、「あらゆる選択肢を排除せず、私の代で何としても突破口を開き、拉致問題を解決したい」との並々ならぬ決意を表明し、すでに北朝鮮側に金正恩(キム・ジョンウン)総書記との首脳会談を行いたい意向を伝えたことを明らかにした。

 首脳会談への申し入れを北朝鮮側にどのように伝えたかについては触れられていない。北朝鮮がミサイルを発射する度に抗議している駐北京大使館やモンゴルなど在外公館を通じて行ったのか、あるいは1日まで韓国の慶州で開かれていたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席したベトナムなど北朝鮮の友好国の首脳らを通したのか、それとも北朝鮮の代理機関である朝鮮総連を通じて行ったのか、何一つわかっていない。

 すでに首脳会談の意向が北朝鮮側に伝わっているならば、外交慣例上、公式にあるいは非公式に連絡があってしかるべきだが、相手が北朝鮮であることを考えると、黙殺する可能性も考えられる。そのことはトランプ大統領がAPEC首脳会議の折に板門店などで「会いたい」と何度も呼びかけたにもかかわらず最後の最後まで反応しなかったことが裏付けとなっている。

 拉致問題解決に向けた首相の決意表明は何も高市首相が初めてではない。小泉純一郎首相以来、歴代首相は就任すれば、拉致問題解決に向け決意を表明するのが慣例となっている。国民の最大関心事で、外交の最大課題の一つであるから至極当然のことだ。

 決意表明では誰もが例外なく、首脳会談を口にする。前任者の石破茂首相も昨年、この時期に拉致被害者の家族会と面会し、「時間との勝負であり最善を尽くす」と決意を示し、また「国民大集会」での挨拶では金総書記に首脳会談を呼び掛けていた。しかし、温和な石破首相の在任中でも北朝鮮からは何の返事もなかった。

 直近の菅―岸田―石破政権で北朝鮮が唯一反応したのが岸田政権下の昨年2月でこの時は、1か月前に発生した能登半島震災に金正恩総書記が「日本国総理大臣岸田文雄閣下」と呼称し、見舞い電を送ってきたのが契機となった。

 「私自身が主体的に動いて、トップ同士の関係を構築する」と発言し、首脳会談に意欲を示していた岸田首相に対して金総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長が2月15日に「解決済みの拉致問題を両国関係展望の障害物として置かない限り、両国が親しくなれない理由はないと思う。首相が平壌を訪問する日もあり得るだろう」と肯定的に反応したことで期待値が上がったが、当時、林芳正官房長官の「拉致問題がすでに解決されたとの主張は受け入れられない」の一言で霧散してしまった。

 林官房長官の発言の翌日(3月25日)金与正副部長は再び登場し、「前提条件なしの日朝首脳会談を要請して先に戸を叩いたのは日本側であり、ただ我々は日本が過去に縛られず、新しい出発をする姿勢を取っているのならば歓迎するという立場を明らかにしただけである。我が政府は日本の態度を今一度明白に把握した。結論は日本側とのいかなる接触にも、交渉にも顔を背け、それを拒否する」との談話を発表し、さらに3日後には外交責任者の崔善姫(チェ・ソンヒ)外相までもが談話を発表し、「我々は日本が言うところの『拉致問題』に関連して解決してやることもないばかりか、努力する義務もなく、またそのような意思も全くない。再度明白に強調する。朝日対話は我々の関心事ではない」と、冷淡な反応を示した。

 拉致問題を持ち出す限り「日本とはいかなる接触も、交渉も拒否する」(金与正副部長)北朝鮮をどうやって首脳会談の場に引っ張り出すことができるのか、それが高市政権にとっては何よりも第一の関門である。

 第二の関門は、会談が開かれても拉致問題の解決の定義を定めることができないことだ。

 麻生太郎自民党副総裁は安倍政権下で外相だった2007年2月、衆議院外務委員会で「何をもって拉致問題の解決と言えるのか」との野党議員の質問に「何をもって解決かと言われれば我々にもわからない。すべて生存しているとの前提に立ってすべての人々の全員帰国というのが我々の最終目標であるが、それが果たして可能なのか、できる状態にあるのか、正直言ってわからない」と答弁していた。

 拉致被害者家族会にとっては生存者全員の帰国が大前提である。日本政府認定の拉致被害者は残り12人だが、日本の警察発表では認定者以外にも拉致されたかもしれない特定失踪者が少なくとも800人以上はいる。

 北朝鮮は今日まで横田めぐみさん、有本恵子さん、田口八重子さんら12人については「8人死亡、4人未入国」という立場に固執している。これに対して日本は石川正一郎拉致問題対策本部事務局長(2014年4月〜2023年3月)が2018年12月に米メディア「自由アジア放送」とのインタビューで「北朝鮮は何度も生存者はいないとのメッセージを送ってきているが、それは事実でないと我々はみている。個人的見解としては多数の生存者がおり、北朝鮮の監視の下で我々の救出を待っているとみている」と語っているように双方の立場は対立したままである。

 拉致問題で総理大臣になったといっても過言ではないほど拉致問題に積極的に取り組んでいた故・安倍晋三元首相は官房長官の頃の2006年5月に「拉致問題には落としどころはない。この問題の解決というのはすべての拉致被害者が帰国するということであってそれ以外に私たちは一切妥協する考えはない」との原則論を口にしていたが、「すべての拉致被害者」の帰国と言っても、一体何人が生存しているのか、日本当局にも正確なことは何一つわかっていないのが実情である。

 従って、仮に日朝首脳会談が開かれたとしても日朝にとって「水と油」で溶け合わない拉致問題の解決は容易ではない。