2025年11月7日(金)

 韓国の情報機関はなぜ、「金与正の夫」を割り出せないのか

金与正夫婦(?)(労働新聞から)

 北朝鮮の「影のNO.2」は金正恩(キム・ジョンウン)総書記の実妹である金与正(キム・ヨジョン)党副部長である。

 政治局員でも政治局員候補でもないことから党の公式序列では33位にランクされているが、2018年の平昌五輪に北朝鮮代表団の一員として参加した時のことである。当時序列NO.2だった団長の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長が文在寅(ムン・ジェイン)大統領(当時)らと面会した際に金与正氏に上座の席を譲ろうとしていたことはまだ記憶に新しい。

 金与正氏の存在が北朝鮮のメディアによって公式報道されたのは2014年3月9日である。最高人民会議選挙の投票場に現れた金正恩党第一書記(当時)に同行し、その容姿を現した。

 当時、最高幹部である崔龍海(チェ・リョンヘ)政治局常務委員や黄炳瑞(ファン・ビョンソ)軍総政治局長、さらには金敬玉(キム・ギョンオク)党組織指導部第一副部長の次に紹介されたことから党の重要な職に就いているものとみられていた。

 金与正氏の職責が明らかになったのはそれから8か月後の2014年11月27日、兄の「4.16漫画映画撮影所」の視察に同行した時で国営放送「朝鮮中央通信」は党副部長であることを公表した。この日の労働新聞には兄の後ろでメモ用紙を片手に微笑を浮かべている金与正氏の写真も掲載された。

 父の金正日(キム・ジョンイル)総書記が28歳で、叔母の金慶喜(キム・ギョンヒ)書記が30歳で、それも指導員から課長と段階を経て副部長になっているのに比べ、若干27歳でいきなり党副部長抜擢とはまさに異例の出世である。

 金与正氏についてはこの年の10月頃から「結婚しているのでは」との噂が立ち始めていたが、2015年1月2日に左手の薬指に指輪がはめられている写真が公開されたことで既婚者であることはほぼ確実となった。

 そして10年経った今年の元旦にメーデースタジアムで行われた新年慶祝公演に金与正氏が小学生ぐらいの女児と、就学前と思しき男児を連れて現れたことですでに結婚し、子を持つ親であることが明白となった。そこで気になるのは夫の存在である。

 一時、夫については「崔龍海(チェ・リョンヘ)の次男ではないか」とか「平凡な家庭出の大学教授ではないか」との未確認情報が韓国から流れたりしたこともあったが、未だに特定されていない。

 韓国の国家情報機関「国情院」は11月3日に国会情報委員会で行われた国政監査での報告で金総書記の健康状況については脈拍がどうのこうの、血圧がどうのこうのとまるで主治医のように詳細に報告していたが、それほど北朝鮮に食い込んでいる筈の情報機関が不思議なことに金与正氏の夫についてはいま、どこで何をしているのか、何ひとつ明らかにしたことがない。

 「国情院」の対北情報は電話による盗聴、ヒューミント(人的情報)や脱北者の情報、米CIAなど海外情報が主たる収集手段とされているが、金与正氏がデビューして10年以上も経つのにその網に引っかからないというのも何とも解せない。

 但し、脱北者の中には証言者がいる。2019年9月に韓国に亡命した劉炳宇(リュ・ヒョンウ)駐クウェート代理大使である。劉氏の妻の父親が金総書記の統治資金(裏金)を調達、管理する朝鮮労働党「39号室」の全日春(チョン・イルチュン)前室長であったことから金ファミリーに精通していた。

 劉氏本人の体験談では、2014年9月に義父と共に金兄妹の実母である高容姫(コ・ヨンヒ)の墓をお参りした時に金与正氏の隣にいた軍服を着ていた男性と挨拶を交わしたとのことである。男性は男前で、背は高く、身長は180cmぐらいあり。軍総政治局に勤務し、肩書は副部長とのことである。

 金与正氏も北朝鮮の女性としては比較的背が高いほうであることか一説では2022年6月にコロナの最中に金総書記をはじめ党幹部らが自家用の薬を提供する写真が公開された際に金与正氏が恥ずかしいのかマスク越しに笑みを浮かべ視線を下に向け、薬品の入った段ボールを男性に渡している写真を指し、この男性が夫ではないかとの説も流れたことがあったが、韓国政府当局は否定していた・

 劉炳宇氏は義父の家で二人の結婚式の写真も見ているが、写真には金総書記と李雪主(リ・ソルジュ)夫人を真ん中にチマチョゴリを着た新婦と新郎が両脇に立っていたとのことである。一般的には新郎新婦が真ん中に立って、身内は脇に立つが、金総書記の場合は例外のようだ。劉氏によると、二人は金日成総合大学の特別班(6か月コース)の同級生で恋愛結婚したそうだ。

 いずれにせよ、仮に11年前に軍総政治局副部長ならば、今はもう少し出世している可能性が考えられるが、「国情院」は威信がかかっている問題なので一日も早く、特定すべきではないだろうか。