2025年10月1日(水)
「トランプと金正恩」 APEC総会後に首脳会談?
板門店での握手を交わすトランプ大統領と金正恩総書記(青瓦台写真記者団)
ホワイトハウスは今朝、トランプ大統領が金正恩(キム・ジョンウン)総書記と「前提条件を付けず対話を行う用意がある」ことを明らかにした。
金総書記は先月21日、最高人民会議での演説で「私は今も、個人的にはトランプ大統領に良い思い出を持っている」と述べ、「もし、米国が荒唐無稽な非核化執念を取り払い、現実を認定した上で我々との真の平和共存を願うならば米国と対座できない理由はない」と、米国の非核化政策破棄を前提に対話を行う意向を明らかにしていた。
「金正恩発言」からまだ10日も経っていない。「打てば響く」ような米朝首脳のやりとりに一部では10月31日から11月1日まで韓国の慶州で開かれるAPEC首脳会議に出席した後、トランプ大統領が2019年の時と同じように板門店で電撃的に金総書記と会うのではと囁かれ始めている。
トランプ大統領が2019年6月29〜30日まで大阪で開催されたG20首脳会議に出席した後、訪韓し、板門店を訪れ、韓国側の施設「自由の家」で金総書記と3度目の首脳会談を行ったことはまだ記憶に新しい。板門店で金総書記と握手し、北朝鮮側エリアに入ったことは衝撃的で、世界的なニュースとなった。
後にわかったことだが、トランプ大統領は来日した時に金総書記に唐突に「板門店で会わないか」とのメールを送っていた。そのことは、当時金総書記がトランプ大統領との会談で語った以下の発言からも明らかだ。
「トランプ大統領が対面の意向を示したことには驚いた。一部では事前に合意していた出会いと言われているが、実際には今朝、『大統領が会いたい』との意向を表明したことを知って私もびっくりした。正式にここで会いたいとの言葉を29日午後遅い時間に知ってわかった」
北朝鮮のメディアは板門店での出会いについて「トランプ大統領の招きで120ぶりに会った」「電撃的に会った」「歴史的な再会だった」「米大統領の史上初のDMZ越えで歴史的瞬間が記録された」「世紀の出会いは前例のない信頼を創造した驚くべき事変である」「1953年の休戦協定から66年を経て朝米の最高首脳が分断の象徴である板門店で握手を交わすという驚くべき現実が起こった」等と、特筆していた。
こうしたことから今回も同じようなことが再現されたとしても不思議ではない。最近の北朝鮮の動きも捉え方によってはその予兆とみえなくもない。
一つは、北朝鮮が2018年以来7年ぶりに国連での演説のため外務次官を派遣したことだ。
金先敬(キム・ソンギョン)外務次官が9月26日にニューヨーク入りしたが、国連での演説だけならばこれまでどおり金星(キム・ソン)国連大使で十分だ。外務次官を派遣するまでもない。ニューヨークは「ニューヨークチャネル」と呼ばれている数少ない米朝接触の場である。
もう一つは、翌日の27日に崔善姫(チェ・ソンヒ)外相が訪中したことだ。
崔外相は9月初旬に金総書記の訪中に同行しているので1か月内に異例にも2度に訪中したことになる。それも定期便ではなく、特別機を利用していた。今月10日に予定されている労働党創建80周年行事にハイレベルの代表団の派遣を中国に要請するのが狙いと伝えられているが、2018年の時もシンガポールでの米朝首脳会談を前に金総書記が訪中した経緯もあって、今回も関連付けて見る向きもある。
しかし、APEC総会後の首脳会談はあり得ないのではないだろうか。
一つは、トランプ大統領が言うところの「無条件」という意味が今ひとつ曖昧な点であることだ。
「無条件」が「非核化を持ち出さない」ということを意味しているならば障害はないが、逆に「非核化政策破棄を前提とした対話は行う考えはない」との立場を取る北朝鮮に「前提条件を付けるな」と言っているならば北朝鮮が応じることはないであろう。
トランプ大統領が対話の意思を表明しながらも「米国の対北政策は変わらない」と言っていることも北朝鮮にとっては気になるところである。米国の対北政策は「朝鮮半島の非核化」が骨子となっているからだ。
仮にトランプ大統領が▲北朝鮮と新たな関係を築く▲朝鮮半島の持続的かつ安定的な平和を構築する▲朝鮮半島の完全な非核化に向け努力することを謡った2018年6月のシンガポール宣言をベースに北朝鮮との対話再開を考えているならば、対話の入り口では非核化は持ちださないが、交渉過程では持ちださざるを得ないであろう。
もう一つは、板門店での再会の可能性が低いことだ。
南北が融和だった2019年の時とは異なり、憲法で「第1の主敵」と定めた韓国と対峙している板門店に金総書記が赴く可能性は限りなく低い。また、「予測不能」の指導者として知られるトランプ大統領も金総書記も同じ手を使うタイプではない。
百歩譲って、APEC総会後に首脳会談をやるとすれば、トランプ大統領の専用機「エアフォース・ワン」が直接平壌に向かうほかないだろう。言わば、1972年のニクソン大統領の電撃訪中の再現である。
最後の理由としては、北朝鮮は米本土をターゲットにした大型大陸間弾道ミサイル(ICBM「火星20」型の発射が差し迫っていることだ。
多弾頭ミサイルである「火星20」型は今年で終了する2021年1月の第8回党大会で打ち出された5大戦略兵器開発計画の最後の課題である。
炭素繊維素材を利用した大出力の固体燃料式エンジンの最終試験もすでに行われており、完成すれば、12月末から来年1月にかけて予定されている労働党第9回大会には合わせて発射される公算が高い。従って、その前にトランプ大統領と会談をすれば、「火星20」型を発射できなくなるので金総書記は年内の米朝首脳会談は考えていないものとみられる。