2025年10月14日(火)

 「親中」と「嫌中」で真向対立する韓国政界 医療保険からノービザ入国問題まで

保守団体による済州島での「中国人観光客ノービザ入国」反対デモ(出典:「チョンジ日報」)

 今月末に韓国の古都、慶州でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議が開催される

 米中の「バランサー」を公言している韓国の李在明(イ・ジェミョン)政権は米中首脳の参加を熱望しているが、慶州で計画されていた米中首脳会談が中国のレアアース輸出規制を巡る新たな対立で先行きが不透明になったことから気を揉んでいる。

 トランプ大統領は会議出欠に関わらず、李大統領との首脳会談のため29日には慶州入りする予定だが、習近平主席は訪韓の意向をまだ正式に明らかにしていない。

 韓国政府はAPEC総会成功のため、また2大大国との関係強化のため両首脳の訪韓を心待ちにしているが、米中首脳を迎える世論には温度差があるようだ。トランプ大統領の来韓は米韓関税問題が決着付いていないこともあって保守、進歩問わず待望しているが、習近平主席については保守は総じて冷淡である。それもこれも年々韓国内で高まる「嫌中」感情が災いしているようだ。

 筆者は9月30日付に「韓国は『外国人不動産ショッピング』をどのように規制しようとしているのか」との見出しの記事で外国人住宅取引量では中国人が73%と最も多いことから「極右」に近い一部保守系が明洞の繁華街やチャイナタウンでデモ行進し、「中国人追放」を叫んでいることを伝えたが、政界でも対中政策を巡り政権政党から転落した最大野党「国民の力」と「親中」の李在明政権を支える与党「共に民主党」との対立が浮き彫りになっている。

 中でも与野党が「正面衝突」しているのが「国民の力」が国会に提出しようとしている「中国人3大ショッピング防止法」である。

 「3大ショッピング防止法」は主に中国人を念頭に外国人の「保険医療、選挙(投票)、不動産購入」に規制を掛ける法案で、「国民の力」の院内政策首席副代表でもある金恩慧(キム・ウンヒェ)議員が中心となって党論として国会に提出する動きを見せている。

 「韓国に上陸した中国人が我が国の制度の隙間に入り込み、医療ショッピング、選挙ショッピング、不動産ショッピング中であり、これを正さなければならない。国民にとって逆差別になっているからだ」と主張する金恩慧議員は医療保険の問題については10日、国会で開かれた同党の国政監査対策会議で「中国人は2万ウォン(約2100円)しかならない保険料を払い、7千万ウォン(約733万円)に肉薄する恵沢を受けている。保険料は我が国民が出し、恵沢を外国人が横取りしている」と、中国人が保険医療で恩恵を受けている事例を具体的に挙げていた。

 選挙関連では永住者に地方参政権が与えられていることを取り上げ、「外国籍であっても永住権が得られ、3年過ぎれば,我が国に住まなくても投票できる」として「韓国に居住しなくても中国人がこの国で主権を行使するのは比例制にも相互主義にも反する」と、反中デモを行っている保守層を擁護していた。

 さらに、不動産問題では「中国人が好き勝手に投機目的で不動産を購入している。その多くの所有者が実際に住まず、貸し出し、我が国民から家賃を得ている。そのせいで、庶民らの我が家の夢は遠のく一方である」と述べ、「政府と与党は中国の前では低姿勢で、かつ反中デモには嫌中を煽っていると騒ぎ、その一方反米デモは知らんぷりしている」と、政府の対中スタンスを厳しく批判していた。

 これに対して与党は「金議員の言っていることはどれも事実ではなく、怪談と嫌悪で世論を扇動している」として以下のように「国民の力」に反論している。

 例えば、健康保険料については保健福祉部のデーターを基に「中国人加入者は昨年9396億ウォンを納め、9314億ウォンを受給している。その結果、55億ウォンの黒字となっている」として、中国人が過度に恩恵を受けているとの野党の主張は「事実に反している」と反論している。

 また、外国人の地方選挙投票権については院内代弁人の白承婀(ペ・スンハ)議員が前面に出て「投票権は国内で合法的に居住している外国人登録台帳に登録されている外国人だけに付与されており、我が国に住まなくても投票できると言うのは全くの虚偽である」と金恩慧議員を批判している。

 中国人の不動産取得についても白承婀議員は「ソウル市のアパートの所有は中国人よりも米国人の方が多く、中国人が所有した住宅の多くは居住が目的である」と述べ、「米国と中国とは協力をしなければならないと言いながら、その一方で『嫌中』を扇動する二重性の政治は国家、外交、経済を貶める行為である」と「国民の力」の批判を展開していた。

 中国の国慶節の大型連休を前に先月29日から始まった中国人観光客団体に対するノービザ実施についても与野党が激突している。ここ数年、韓国国内で発生している外国人の犯罪の半数近くが中国人によることが発端となっている。

 現在、韓国で暮らしている外国人のうち、中国人は韓国系中国人(朝鮮族)も含め95万8959人(全体の36.2%)に達しているが、「国民の力」の朴俊泰(パク・ジュンテ)議員が警察庁から提出された資料「年度別外国人犯罪数」によると、今年1月から6月までの中国人犯罪者は7414人で、全外国人犯罪者の44.6%を占めていた

 中国人の犯罪は過去3年間のデーターでも2022年は1万6436人(47.6%)、2023年1万5403人(47%)、2024年1万6099人(45.6%)に達していた。

 ちなみに法務部がまとめた韓国在留外国人の現況(2024年)によると、一番多いのが中国人で、韓国系中国人(朝鮮族)を含め95万8959人に上る。次がベトナム人(30万5936人=11.5%)、続いてタイ人(18万8770人=7.1%)、米国人(17万251人=6.4%)となっている。 

 「国民の力」は「李在明政権が中国人にノービザを実施したため国民の不安が高まっている」として「政府が観光の活性化だけを叫び、出入国の管理と犯罪統制システムを疎かにすれば、国民の安全が脅かされることになる」として、不法滞在、スパイ行為、犯罪の増加などを理由に李政権にノービザを見直すよう求めている。

 これに対して与党は「中国人団体客ノービザは尹錫悦(ユン・ソクヨル)前政権下で推進されていたことである。ノービザは経済活性化のため今回、限定的に導入したに過ぎない」として、この問題を持って、国民に嫌中感情を焚きつけるのは国策に反すると、反論している。

 なお、李政権は韓国に出稼ぎに来ている外国人労働者の保護に力を注いでおり、先月5日には企業の不当な待遇や賃金未払いに等に対しては厳しく取り締まるよう行政に指示を出していた。

(参考資料:韓国は「外国人不動産ショッピング」をどのように規制しようとしているのか)