2025年10月24日(金)

 「トランプー金正恩会談」の可能性は完全に消滅した

6年前に板門店で握手を交わしたトランプ大統領と金正恩総書記(青瓦台写真記者団)

 トランプ大統領のアジア歴訪の日程がホワイトハウスから発表された。

 トランプ大統領はワシントンを24日夜に出発し、マレーシアで開かれるASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議に出席した後、27日に来日する。

 トランプ大統領は2泊3日の滞日中に高市早苗首相との会談をこなし、29日午前に韓国に飛び、釜山で李在明(イ・ジェミョン)大統領と首脳会談を行う。その後、慶州に移動し、APEC(アジア太平洋首脳会議)総会に出席する最高経営者(CEO)らの午餐会で基調演説を行い、APEC首脳の晩餐会に出席する。

 そして、翌30日はAPEC首脳との朝食会に出席した後、中国の習近平主席との首脳会談に臨み、この日の内に帰国の途につくことになっている。

 トランプ大統領の日韓歴訪が正式に発表されてから日米韓ではトランプ大統領がスケジュールの合間を見て、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記と「電撃的に会うのでは」との噂さがほぼ毎日流れていた。

 噂に油を注いだのが「米政府当局者はトランプ大統領のアジア歴訪の際に金正恩との会談を実現させる可能性について非公式に協議している」と伝えた18日の米CNNの報道である。

 折しも、1か月前に金総書記が最高人民会議での演説で「私は今も、個人的にはトランプ大統領に良い思い出を持っている。(核問題に固執しなければ)米国と対座できない理由はない」と発言し、これに対してトランプ大統領が即座に「前提条件を付けず対話を行う用意がある」と応じたことから噂が噂を呼ぶ事態に至った。

 それもこれも、トランプ大統領が2019年6月29〜30日まで大阪で開催されたG20首脳会議に出席した後、訪韓した際に板門店で金総書記と3度目の首脳会談を行ったことがトラウマになっているためである。この時の電撃会談は東京から飛び立つその日の朝、トランプ大統領が金総書記に唐突に「板門店で会わないか」とのメールを送り、これに金総書記が即答したことで実現していた。

 筆者は仮に電撃会談があるとするならば、板門店ではなく、日本海に面した北朝鮮の海岸都市、元山の可能性を想定していた。トランプ大統領がマレーシアから直接乗り込むか、あるいは日本に立ち寄った後、横田基地から飛び立つか、どちらかと想像していた。

 元山にはトランプ大統領が2018年の首脳会談で「コンドミニアムを建てたい」と興味を示していた観光リゾート地がある。北朝鮮は5年越しに完成させ、今年7月に海岸沿いに最高級ホテルなど大規模施設をオープンさせている。元山葛麻飛行場も改築され、ラブロフ外相を乗せたロシアの特別機が今年7月に訪問地のマレーシアから乗り入れていた。

 マレーシアは金総書記の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏の暗殺事件の舞台となったことで国交が断絶するなど関係が悪化していたが、9月上旬に天安門広場で行われた中国の「抗日戦勝80周年」式典でアンワル首相が金総書記に近寄り、笑顔で握手を交わしていたところをみると、両国の関係はそれほど悪くはないようだ。

 横田基地から元山に向かう可能性も第1次トランプ政権下の2018年7月にポンペオ国務長官(当時)が横田基地から平壌に飛んで行った経緯から「もしかしたら」の根拠となっていた。

 板門店でない理由は何よりも、あっと驚かすことが好きな、予測不能のトランプ大統領と金総書記の2人が同じ手を使うとは考えにくいからだ。

 シンガポール、ベトナムでの2度の会談後、トランプ大統領は次回の会談場所をニューヨークを、金総書記も平壌を提唱していた。結局3度目は板門店となったが、遠出できる専用機を持ってない金総書記が訪米するのは非現実的で、そうなると、トランプ大統領の専用機「エアフォース・ワン」が直接北朝鮮に向かうほかない。

 これまでカーター、クリントンの元民主党の大統領が訪朝したことはあるが、現職大統領は一人もいない。従って、訪朝すれば、トランプ大統領にとっては言わば、1972年の共和党のニクソン大統領の電撃訪中の再現となる。ニクソン大統領の敵性国家の、国交のない中国への電撃訪問は画期的な出来事として世界史に記録されている。

 しかし、ウクライナ停戦を巡るトランプ大統領とロシアのプーチン大統領との首脳会談が流れたことでトランプー金正恩会談は束の間の夢想、妄想となってしまった。

 トランプ大統領が米露首脳会談を中止しただけなく、ロシアに経済制裁を発動し、これにロシアが反発し、今月10日の朝鮮労働党創建80周年行事に出席したばかりの「統一ロシア」の党首であるメドベージェフ前大統領が「(制裁は)ロシアに対する戦争行為であり、米国は我々の敵である」と非難した以上、「兄弟でもあり、生死と共にする戦友でもある」(金総書記)ロシアの敵の大将と会う訳にはいかないであろう。そのことは、昨日行われた対露派兵らの戦闘偉勲記念館建設着工式での金総書記の「平壌はいつもモスクワと共にある」の発言からも明らかだ。

 トランプ大統領がいくら望んだとても金総書記が会談の場に出てくる可能性はゼロなったと言える。

(参考資料:「トランプと金正恩」 APEC総会後に首脳会談?)