2025年10月28日(火)

 トランプ大統領の「熱愛」に心揺れる金正恩総書記

2018年2月にハノイで会談を行ったトランプ大統領と金正恩総書記(朝鮮中央通信)

 トランプ大統領が金正恩(キム・ジョンウン)総書記にラブコールを送り続けているが、言い寄られている金総書記はなしのつぶてだ。うんともすんとも反応しない。

 「会いたい」の思い一筋のトランプ大統領は金総書記を何としてでもデートに誘うと、会ってくれるならば30日の帰国予定日を1日延ばしても良いと言い出す始末だ。

 これは昨日(現地時間27日)日本に向かう専用機「エアフォースワン」の中で「金正恩に会うためにアジア訪問を延長するつもりは?」との記者の質問に「考えたことはないが、(韓国が)最後の訪問地だから(日程延長は)かなり簡単だ」と答えたことで明らかになった。

 加えて、トランプ大統領は「彼が会いたいと言うならば、私は韓国にいるので彼のいるところに直ぐに行くこともできる」と発言し、会ってくれるならば、デート場所については板門店に拘らないことも示唆していた。状況次第では北朝鮮に飛んでいくことまで暗示していた。

 日程や会談場所だけでなく米国からマレーシアへ出発する専用機で金委員長と会いたいという意思を明らかにした際には「北朝鮮が核兵器を多く保有しているのは事実だ」と述べ、北朝鮮の核保有を暗に認める発言まで行っていた。

 それだけではない。トランプ大統領は金総書記が飛びつきそうな手土産までちらつかせて、誘っている。

 「私たちには制裁がある。とても強力なカードだ。これは交渉を開始する上でかなり大きな事案になる」と付け加え、会えれば、北朝鮮がハノイ会談で求めていた北朝鮮制裁を議論することもできることを公言してみせた。この発言も「金正恩との会談で米国が何を提示できるか」との記者の質問に答えたものだが、トランプ大統領が北朝鮮制裁を具体的に言及したのはこれが初めてである。

 トランプ第1次政権下の2019年2月にハノイで行われた米朝首脳会談は北朝鮮が寧辺の核施設とICBM発射台の解体を条件に制裁解除を求めたが、米国が拒否したことで決裂したが、トランプ大統領はハノイから帰国後、フロリダの別荘での記者会見で「北朝鮮は非常に苦痛を受けている。彼らは苦しい時間を過ごしている。今の時点では制裁の追加が必要だとは思ってない」と述べ、財務省による北朝鮮追加制裁を撤回させていた経緯がある。

 トランプ大統領は最後に「このメッセージが実際に彼に届くかどうかはわからないが、彼が会いたいのであれば、私は喜んで会うつもりだ」と、再三繰り返していた。

 トランプ大統領が北朝鮮を訪問するならば、また核保有を容認するならば、北朝鮮にとっては異論のないところで会談に応じられない理由はない。先月21日に開かれた最高人民会議での演説で「米国が荒唐無稽な非核化執念を取り払い、現実を認定した上で我々との真の平和共存を願うならば、我々にも米国と対座できない理由はない」と述べていたからだ。まして金総書記は「私は今も個人的にはトランプ大統領に良い思い出を持っている」と語っており、それなりの未練を持っていることは明らかだ。

 しかし、その一方で北朝鮮は核保有の容認も制裁解除の示唆もデートに誘いだすための懐柔策、リップサービスとみており、いざとなったら履行せず、トランプ大統領の宣伝に利用されるのではとの警戒心がある。

 ハノイで行われた2度目の首脳会談でトランプ大統領に「いつの時よりも苦悩と努力と忍耐心が必要とした期間だった。不信と誤解の敵対的な古い慣行が我々の道を防ごうとしたが、それを取っ払い、克服して再び(ハノイに)やって来た」と、胸の内を明かしたにもかかわらず袖にされたハノイ会談の失敗がトラウマになっている。

 韓国で4年前に公開された映画「スティール・レイン」をみると、韓国大統領が仲裁し、米大統領が北朝鮮の海岸リゾート都市、元山を訪れ、会談するシーンがある。トランプ大統領らしき米大統領が米朝間で事前に約束していた平和協定の締結書にサインをしなかった場面が登場していた。

 映画では米大統領が「私を信用し、核を渡してもらいたい』と迫るのだが、金総書記らしき指導者は「米朝平和協定と国交正常化が先だ」と譲らなかった。

 ハノイ会談はトランプ大統領が北朝鮮の願いを聞き入れなかったことで決裂したが、当時、北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は「米国は千載一遇の機会を逃した」と述べ、崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官(現外相)もまた「二度と同じような機会は訪れないだろう」と、米国の決断力のなさを嘆いていた。

 翻して言うならば、今回トランプ大統領が好条件を提示し、再三にわたって会談を呼び掛けているのにこれを振り切るとなると、今度は北朝鮮が後悔する番になるかもしれない。

 ハムレットではないが、金総書記の心が揺れてもおかしくはない。

(参考資料:「トランプー金正恩会談」の可能性は完全に消滅した)