2025年9月26日(金)

 「無効」と宣言した海上境界線(NLL)での韓国軍の発砲に北朝鮮は反発するのか

韓国軍が固守する北方限界線と北朝鮮が主張する海上境界線(赤印が侵犯現場)

 韓国軍合同参謀本部は9月26日、同日午前5時ごろに黄海の白?島(ペクリョンド)の北西約50km地点で北朝鮮船舶1隻が海の軍事境界線と称されている北方限界線(NLL)を越え、韓国の領海を侵犯したと発表した。

 北朝鮮の船舶は海上の警備にあたっていた韓国の護衛艦「天安」(2800トン級)が警告放送と警告射撃を行ったところ、西に航路を変えて1時間後に韓国管轄の海域外に退去したとの事であるが、この間、警告射撃は7回にわたって行われ、機関銃と艦砲を合わせて60発が発射された。

 合同参謀部の発表では、領海侵犯した北朝鮮の船舶は全長140mの大型貨物船「トックソン号」のようだが、「トックソン号」は中国が北朝鮮に払い下げた中古船で2024年3月に南浦沖で香港籍船舶「DEYI」に電子製品との引き換えに北朝鮮産石炭4500トンを積載した制裁対象の貨物船である。北朝鮮への船舶売却も北朝鮮からの石炭輸入もいずれも国連安保理制裁対象に指定され、禁じられている。

 合同参謀本部によると、同船はNLLに接近した時は位置情報を発信する船舶自動識別装置(AIS)で国籍を北朝鮮から中国に変更し、中国の国旗を掲げていたらしい。

 北朝鮮の船舶とは異なり、中国船舶はNLL海域を自由に通過できるため合同参謀本部は北朝鮮の船舶が中国船籍に偽装しようとしたとの見方を示しているものの韓国軍を挑発するため故意にNLLを越えた可能性は低いとみている。

 北朝鮮の船舶がNLLを越境したのは、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権下の2022年10月24日以来約2年11か月ぶりのことである。

 NLLの黄海(西海)135km、日本海(東海)80kmは2018年9月の南北軍事合意により緩衝地帯に設定されていたが、2023年11月に合意が破棄されたことで緩衝地帯での海岸砲及び艦砲射撃、艦船を動員した海上機動訓練が解禁されている。

 1か月後、労働党第8期第9回全員会議拡大会議で韓国との決別を宣言した金正恩(キム・ジョンウン総書記は2024年1月に開催された最高人民会議14期第10回会議での施政演説で「我が国家の南の国境線が明白に引かれた以上、不法無法の『北方限界線』をはじめとするいかなる境界線も許されず、大韓民国が我々の領土、領空、領海を0.001ミリでも侵犯するならば戦争挑発と見なす」と断じていた。

 また、金総書記の発言から4か月後、キム・ガンイル国防次官は韓国軍の海上国境侵犯を取り上げ、「我々はすでに主権と安全を守るために必要な軍事的措置を取ることもできるということを警告した。海上主権が今のように引き続き侵害されることを絶対に袖手傍観せず、どの瞬間に水上であれ、水中であれ自衛力を行使することもできるということを正式に警告する。もし、海上でなんらかの事件が発生する場合、全ての責任は全的に我々日の警告を無視し、共和国の海上主権を侵害した大韓民国が負うことになるであろう」と警告を発していた。

 南北は1992年に発効された文書で「海上不可侵限界線について今後協議する。海上不可侵区域は海上不可侵限界線が確定するまで双方がこれまで管轄してきた区域とする」と合意していた。韓国はこれまで管轄してきた不可侵限界線区域を徹底的に順守する立場にあるが、南北会談が開かれるたびに北朝鮮は「西海上での衝突防止のため海洋法など国際法と停戦協定に基づく海洋限界線を確定しよう」と提案したが、折り合わず、北朝鮮はNLLに一方的に境界線を引いている。

 合同参謀本部は「北の動向を警戒し、いかなる状況でも断固たる対応で、NLLを守っていく」とコメントしているが、北朝鮮の対応次第では軍事衝突もあり得る。

 NLL付近では過去4回、南北の警備艦による衝突が起き、また、北朝鮮潜水艦の魚雷による「韓国哨戒艦(天安艦)撃沈事件」なども発生している。