2025年9月29日(月)

 韓国の検察はなぜ解体されるのか 日本では考えられない二つの理由

韓国の検察庁(JPニュースから)

 韓国検察庁の廃止が決まった。

 韓国国会で検察庁の廃止を柱とする政府組織法改正案が与党「共に民主党」の賛成多数で可決されたため77年の歴史を持つ検察は1年の猶予期間後に廃止されることが確実となった。

 検察の捜査と起訴は分離され、約1万700人に及ぶ検事ら検察職員らは高位公職者捜査庁と新設される重大捜査犯罪庁や国家捜査委員会に振り分けられることになる。

 検察改革は「共に民主党」にとって長年の悲願だった。

 人権派弁護士の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権(2002〜2007年)からその流れを組む同じ弁護士出身の文在寅(ムン・ジェイン)政権(2017〜22年)にかけて強大な権限を持つ検察の力を弱めようと、メスを入れたものの検察の激しい抵抗にあい、思うようにはいかなかった。文政権下で捜査権の警察への移譲をある程度実行したものの検事総長の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が大統領に就任すると同時に骨抜きにされてしまった。

 今回、3度目の正直ではないが、同じく弁護士出身の李在明(イ・ジェミョン)政権下で「共に民主党」は検察との戦いに勝利を収めることになった。

 それにしても「第4の権力」として君臨してきた韓国の検察がなぜ、廃止される運命を辿ったのか?その理由は大きく分けて二つある。いずれも日本ではあり得ないことである。

 一つは、検察の権力があまりにも肥大化したことにある。

 韓国の検察は「アンタッチャブルの怪物」と称されるほど絶大な権力を持っている。捜査権と起訴権を行使し、誰であれ、検察のさじ加減で思いのまま逮捕、起訴ができる。

 検察が一旦狙いを定めれば、大統領から財閥の総帥、警察庁長官、強いては最高裁長官まで手錠を掛けることができる。

 実際に検察はこれまでに全斗煥(チョン・ドファン)とその後任の盧泰愚(ノ・テウ)、李明博(イ・ミョンパク)、それに朴槿恵(パク・クネ)と4人の国家元首を刑務所に送り込んだ。その後の文在寅元大統領も収賄斡旋容疑や公選挙介入疑惑、原発データー改ざん疑惑で、また現職の李在明大統領も公職選挙法違反や大庄洞土地開発事業特恵疑惑ですでに起訴している。

 高飛車な財閥総帥も検察には盾突けない。韓国経済の象徴でもある財界NO.1のサムソンのトップが収賄罪で懲役2年6か月の実刑判決を受け、収監されたのは2021年1月のことである。

 また、警察のトップ、警察庁長官(警察処長)ですら、検察の手にかかれば、赤子のような存在で、警察庁発足から長官に就任した22人のうち、何と11人が被疑者として検察の調査を受け、このうち9人が逮捕、起訴されている。さらに、最高裁長官も例外ではなく、2019年1月に梁承泰(ヤン・スンテ)元最高裁長官が韓国の憲政史上で初めて逮捕されたことは世間を驚かせた。

 「タマネギ男」と称された元法相の゙国(チョ・グク)「祖国革新党」の党首が「検察をぶっ壊す」と、検察改革を声高に叫んだため家族ごと根掘り葉掘り調べられ、最後は娘の不正入学が発覚し、法相の座から引きずり降ろされ、収監されたのはまだ記憶に新しい。

 かつて、韓国では韓国中央情報部(KCIA)を指して、「泣く子も黙るKCIA」と比喩されたことがあったが、今日では韓国の検察が取って代わって「白を黒に変えることができる」と言われるぐらいその権勢をほしいままにしている。

 もう一つの理由は中立性を欠き、「政治検察」化したことにある。

 「検事はその職務を遂行するにあたり、国民、全体に対する奉仕者として政治的中立を守らなければならない」(検察庁法第4条2項)との規定を順守することが義務付けられているが、尹政権下の検察は公僕ではなく、軍人に例えれば、「尹師団」化してしまった。

 そのことは尹錫悦前政権の発足時の人事をみると、一目瞭然である。検事出身者がありとあらゆる部署に登用されているのである。

 大統領室では第1秘書室長に前検察総長秘書官の姜義求(カン・フィグ)氏、民情首席秘書官に元最高検次長の金周賢(キム・ジュヒョン)氏、総務秘書官に元最高検察運営支援課長の尹在淳(ユン・ジェスン)氏、法律秘書官に元ソウル東部地検検事の朱晋佑(チュ・ジヌ)氏、人事秘書官には元大田地検検事の李元模(イ・ウォンモ)氏、民生特別秘書官に元光州地検特捜部検事の朱起煥(チュ・ギヨン)氏、公職紀綱秘書官に元水原地方検察庁検事の李時遠(イ・シウォン)氏、人事企画官に元最高検察庁事務局長の卜斗奎(ポク・トゥギュ)氏ら「尹人脈」から抜擢された。

 閣僚では法務部長官に尹前大統領の右腕だった元最高検中央調査部出身の韓東勲(ハン・ドンフン)氏、法務部次官に元水原地方検察庁城南市庁長の??公(リ・ノゴン)氏、法制処長に元ソウル北部地検次長の?完揆(イ・ウァンギュ)氏、国土交通部長官にソウル地方検察庁検事から済州道知事になった元喜龍(ウォン・フィリョン)氏、金融監督院長に元ソウル北部地方検察庁部長検事の李卜鉉(イ・ボックヒョン)氏、国家報勲部長官にソウル中央地検特捜部出身の朴敏植(パク・ミンシク)氏、放送通信委員長に尹前大統領が最も尊敬している元釜山高等検察庁検事長の金洪一(キム・ホンイル)氏、国家人権委員会委員長に元ソウル高等検察庁検事長の安昌浩(アン・チャンホ)氏ら尹検察総長時代の後輩や同僚、先輩らが起用された。

 この他にも国民権益委員や人権委員の要職にも元検事らを送り込んだほか、総理秘書室長や国情院企画調整室長まで検事が独占した。さらに、当時与党「国民の力」の代表だった権寧世(クォン・ヨンセ)氏もNo.2の院内総務だった権性東(クォン・ソンドン)氏も検事出身であった。

 「検察共和国」あるいは「政治検察」と囁かれるゆえんである。

 なにしろ、韓国国民の多くが「検察改革」を望んでいることは日本とは異なり、韓流ドラマで検察が「敵役」として扱われるケースが多いことからも明らかだ。そのことは世論調査でも常に「賛成」が「反対」を上回っていたことからも窺い知ることができる。

 「エムブレインパブリック」や「韓国リサーチ」など4社が9月18日に実施した調査では検察の廃止には「賛成」46%、「反対」39%と賛成が上回っていた。また、その1週間前(9月11日)の「KBSテレビ」の世論調査でも「賛成」57%、「反対」35%と、「賛成」が多数を占めていた。