2026年4月8日(水)

 恫喝、ハッタリではトランプ大統領を上回る金正恩総書記

トランプ大統領と金正恩総書記(労働新聞とホワイトハウスから筆者キャプチャー)

 米国とイランが2週間の停戦に合意した背景について一部ではトランプ大統領の「石器時代に戻す」との恫喝が効き、発電所などインフラへの大規模攻撃を前にイランが折れたのではとの見方もあるようだ。

 その一方で、イランが停戦に応じなければ、空爆、破壊してイランの文明を終わらせようとしたのは本気ではなく、ハッタリの可能性を指摘する向きもある。

 真相は定かではないが、ハッタリ、あるいは恫喝は何もトランプ大統領だけの十八番だけではない。北朝鮮、金正恩(キム・ジョンウン)総書記もまた得意としている。その例がミサイルの威嚇である。

 北朝鮮が長距離弾道ミサイルを「人工衛星」と称して発射したのは、1998年8月である。いわゆる「テポドン1号」である。全長26.5m、直径1.33m、重量27トンの「テポドン1号」は日本列島を飛び越え、三陸沖に着弾した。

 「テポドン1号」の射程距離について、当時米国防総省は「三段式で、推定射程距離は約5000km」との公式見解を発表していた。しかし、日本では飛距離は1620kmで失敗したというのが定説だった。

 「テポドン1号」から8年後の2006年7月、北朝鮮は「テポドン2号」を発射したが、全長32.0m、直径2.40m、重量60トンの同ミサイルは、発射からわずか40秒で空中爆発し、落下してしまった。

 北朝鮮はさらに3年後の2009年4月に再発射を試みた。これも日本列島を飛び越え、太平洋の銚子沖に着弾したものの、射程距離は3600km程度にとどまった。

 発射されるまでは「テポドン2号」の射程距離は6000kmと推定されていた。しかし、実際には5500kmに満たなかった。米ロ戦略兵器削減協定(START T)に基づけば、ICBMは射程距離5500km以上のミサイルを指す。したがって、射程距離を倍近く伸ばさなければICBMとは認められなかった。

 ところが、奇妙なことに北朝鮮は発射直後、「国連安保理が制裁決議を採択すれば、自衛的措置としてICBMを発射する」と警告していた。実に不思議な話である。

 3年後の2012年4月15日、金日成主席生誕記念の軍事パレードでは、それまで一度も発射実験が確認されていない、全長18m、直径1.8m、重量60トンとみられる三段式弾道ミサイルが登場した。北大西洋条約機構(NATO)はこれに「KN−08」というコードネームを付けていた。

 西側諸国は射程を6000kmと推定したが、事実であればグアムだけでなくアラスカ州への攻撃も可能となるが、これもまた本当にICBMなのか疑わしかった。

 ところが翌年2013年3月、軍総参謀部は「我々の大陸間弾道ミサイルには、ホワイトハウスや国防総省、ハワイやグアムをはじめとする米国の拠点が攻撃対象として入力されている」と威嚇した。

 さらに2014年、朝鮮戦争停戦日の7月27日、錦繍山太陽宮殿前で開かれた決意大会において人民軍総政治局長の黄炳瑞(ファン・ビョンソ)次帥「もし米帝が核空母や核攻撃手段で我々の自主権と生存権を脅かすなら、我が人民軍はホワイトハウスやペンタゴン、太平洋上の米軍基地および米国の大都市に向けて核弾頭ロケットを発射するだろう」と米国を脅して見せた。しかし、北朝鮮は2017年までは米国本土を攻撃できるICBMを保有してなかった。

 北朝鮮が米国を攻撃可能な長距離ミサイルを初めて手にしたのは2017年5月である。米本土には届かないものの、グアムを射程に収める中距離弾道ミサイル「火星12型」(射程5000km)を実用化した。

 続いて同年7月には「火星14型」(推定射程約6700km)の試射を行い、金正恩総書記は「米本土全域が射程圏内にある」と主張したものの実際には、同年11月に発射された「火星15型」(推定射程10000km以上)が北朝鮮初のICBMだった。

 北朝鮮はICBMをまだ保有していないのに2013年には動画投稿サイト「YouTube」を通じてワシントンD.C.へのミサイル攻撃を想定した約4分のプロパガンダ映像を公開していた。また2016年にも「ラストチャンス」と題し、潜水艦からワシントンD.C.を核攻撃する想定の動画を公開していた。

 さらに2017年の年も「火星15型」を手にするまで外務省は9月11日に声明を発表し、「史上例のないほど米国を混乱させる」と表明し、金総書記自らも9月21日に「トランプ大統領が我が国家を否定し侮辱した以上、史上最高の超強硬対応を慎重に検討する」と発言し、米国を揺さぶった。

 極めつけとして、党機関紙「労働新聞」の11月21日付の記事で「トランプは共和国の法に従って最高刑に処すべきだ」とまで言い切っていた。

 結局のところ、こうしたハッタリが効いたのか、2018年6月トランプ大統領はシンガポールで金総書記と手打ちをしてしまった。