2026年8月31日(月)
14時間で330ミリ以上の豪雨が降っても北朝鮮は被害はないのか
北朝鮮の平安北道新義州で2024年7月に発生した大雨被害(朝鮮中央通信)
日本では、富山、石川、福井などの北陸地方や、関東の千葉県などで大雨や洪水による被害が発生し、至るところで甚大な被害が出ている。
北朝鮮でも平安北道の新義州では、24日に14時間で330ミリ以上の豪雨が降っていたはずだ。ところが、一週間経っても北朝鮮当局は被害状況について沈黙している。
韓国の「KBSテレビ」は、「(北朝鮮の)一部の農地や低地で大規模な浸水が発生していたことが衛星画像で確認された」として、その模様をすでに29日に伝えていた。
衛星画像には、記録的な豪雨が降った翌日(25日)の状況が映し出されていた。鴨緑江は水位が川岸まで達し、川の水が黄色く変色していた。また、低地の農地や威化島(ウィファド)の一部の温室農場も水没し、精油施設である被賢郡の化学工場では、周辺の農地にまで泥水が流れ込んでいた。浸水した温室農場では、3〜4日が経過しても水が引かず、付近の空軍飛行場も泥沼のような状態となっていた。
「KBSテレビ」のレポーターの説明によると、電波を利用して天候の影響を受けにくいSAR衛星で確認したところ、豪雨が降った直後の24日午後6時頃には、新義州や平安北道の各地で、濃い紫色で示された浸水区域が確認されたという。こうしたことから、浸水被害の面積は少なくとも680ヘクタール、サッカー場約950面分に相当すると推定ていた。
筆者は日課として毎日、朝鮮中央テレビを見ているが、確か北朝鮮の天気予報士は25日に豪雨警報を発令していた。しかし、その後の状況については、朝鮮中央テレビも労働新聞も触れていなかった。
北朝鮮は一昨年7月、豪雨によって鴨緑江が氾濫し、甚大な被害を受けた後、洪水防止対策に総力を挙げていた。「KBS」の報道通りならば、どうやら今回も豪雨による被害を防ぐことができなかったようだ。
水害地をボートで視察した金正恩総書記(左)と金徳訓首相(右)(朝鮮中央通信)
振り返ると、2024年は7月25日から29日にかけて台風の影響により鴨緑江流域で、2016年の豆満江流域の大洪水以来、8年ぶりとなる大規模な洪水が発生し、新義州だけでなく、中国との国境に近い慈江道や両江道でも大きな被害が出た。
北朝鮮側の発表では、鴨緑江沿岸一帯が氾濫し、約4100世帯の家屋と3000ヘクタールの耕地、公共施設、道路、鉄道が浸水した。公式数値だけでも約1万5400人の被災者が発生した。また、孤立した約5000人を救助するため、10回以上にわたってヘリコプターが往復飛行し、約4200人が救出された。
死亡者及び行方不明者については一切明らかにされていなかったが、韓国のメディアは新義州を中心とする平安北道では約1100〜1500人、慈江道では約2500人が死亡または行方不明になったと報じていた。いずれにしても、北朝鮮が発表した公式数値だけでも、約1万5400人の被災者が発生した。
当時、北朝鮮の気象水文局によると、7月25日午前0時から28日午後8時までの降水量は、平安北道では天摩郡635ミリ、雲山郡642ミリ、大館郡487ミリを記録した。また、慈江道では松原郡554ミリ、満浦市472ミリの雨が降った。
洪水被害に激怒した金正恩総書記は7月29〜30日、新義州で開いた党政治局非常拡大会議で「豪雨と洪水、台風による被害を防ぐための危機対応対策をしっかり立てるように何度も強調していたのに、また7月22日には国家非常危機対策委員会会議まで招集していたのに」と憤慨し、対策を講じなかったとして平安北道の党の責任者を、また「災害危険地域の住民数さえまともに掌握していなかった」として社会安全相を交代させていた。
その後、金総書記は平安北道新義州の被災地を専用列車で訪れ、車両に設置された演壇から野外に集まった被災者らに向けて謝罪し、被災者の救済と早期復旧を約束した。8月中旬には十数万の青年から成る「白頭山英雄青年突撃隊」を組織し、人海戦術による復旧に乗り出し、12月には被災地域で15階建てのアパート建設など、住宅の完成式が行われた。
金総書記は完成式での演説で、「130余日にわたる厳しい被害復旧建設を通じて水害地域に恒久的な防護の壁を築き、地域住民の生活の場を蘇らせた。これは建設上、奇跡的なことである」と豪語し、「鴨緑江下流の島々と新義州市、義州郡の護岸堤防をさらに強固に補強し、この地域が二度と被害を受けることのないよう完全に要塞化した」と胸を張ってみせた。
自ら陣頭指揮を執って、二度と被害を発生させないための防災措置を取ったにもかかわらず、同じことが繰り返されたことを公にしたくないのか。それとも、地元の党幹部らが叱責を恐れ、被害を隠蔽しているのかは分からない。しかし、8月31日午前12時現在、北朝鮮から「水害被害が発生した」との報告は聞かれない。
何とも奇妙な現象だ。