2026年8月9日(日)
北朝鮮に対抗し日本と韓国をウクライナ戦争に引き込みたいゼレンスキー大統領
ウクライナを2023年7月に電撃訪問した尹錫悦大統領(当時)に軍事支援を要請したゼレンスキー大統領(出展:大統領室)
ウクライナはロシアのミサイルやドローンによって連日、首都キーウを攻撃されているが、迎撃する手段にこと欠いているようだ。
そうした最中、ゼレンスキー大統領は昨日(8月8日)、自国のテレビ番組で「北朝鮮が3万〜5万人の兵士をロシアに派遣することが決まった」と、沈痛な表情で国際社会に訴えていた。
ゼレンスキー大統領は確か7月25日に自身のX(旧ツイッター)でロシアが北朝鮮に3万人の派遣を求めていることを明かしていた。5万人ならば、僅2週間の間に2万人も増加したことになる。
北朝鮮が一昨年(2024年)、ウクライナに占領されたロシア・クルスク州の奪還のために派遣した第1陣は約1万1000人と、師団規模だった。3万人ならば、軍団規模になるが、これにさらに2万人が上乗せされるわけだから、ウクライナにとっては深刻な問題である。
それも、これまでのように特殊部隊所属の単なる歩兵や特攻隊だけではない。ウクライナ情報機関の情報によれば、ミサイル部隊も含まれている。ロシア南部のボロネジ州にはすでに「KN―23」や「KN―24」などの短距離弾道ミサイルのほか、発射台も持ち込まれている。
「KN―23」や「KN―24」はすでにウクライナ戦争で使用されているが、北朝鮮がこの2年間、改良に改良を重ねた結果、射程距離は伸び、性能と破壊力も向上している。今年6月にも金正恩(キム・ジョンウン)総書記の立ち合いの下「敵の飛行場、港湾、電力施設をはじめ重要標的の致命的な破壊を目的とした」実験が行われたばかりだ。
ゼレンスキー大統領は7月の時も「北朝鮮がロシアで実戦経験を積み、兵器を改良すれば、北朝鮮のミサイルの射程圏内に入るアジアのすべての人々にとって脅威となる」と警告し、今回も北朝鮮がロシア軍との協力を通じて現代戦の経験を積むことで「アジア諸国にとっても脅威になる可能性がある」と警告を発していた。何が何でも北朝鮮と対峙している韓国や日本から、防空システムなど軍事分野での支援を得たいようだ。
特に韓国に対してはこれまでもゼレンスキー大統領自らが公に軍事支援を求めてきた。2022年4月11日にはオンラインによる韓国国会演説で、「ロシアの艦船、ロシアのミサイルを防ぐさまざまな軍事装備が韓国にはある。ロシアに立ち向かえるよう韓国が我々を助けてもらえればありがたい」と直訴していた。
しかし、韓国は、外貨や食糧欲しさに武器や兵隊をロシアに送った北朝鮮とは異なり、外交支援と人道支援にとどめている。ウクライナとは他国に攻撃された場合、一方が他方を助ける「包括的戦略的パートナーシップ条約」を結んでいないことに加え、地政学的な観点やエネルギー戦略上、ロシアと事を構えるのは得策でないとの考えに基づいている。
特に、軍事支援には前向きだった尹錫悦(ユン・ソクヨル)前政権とは異なり、李在明(イ・ジェミョン)政権はイラン戦争で困難化しているエネルギー供給路の多元化のため、「北極航路」を切り開く必要性に迫られている。そのためには、ロシアとの経済協力を復元しなければならない。
そのロシアはバイデン政権の要請で2022年に米国に送った155ミリ砲弾がウクライナに流れただけで反発した経緯がある。当時、韓国はプーチン大統領から「韓国がウクライナに殺傷武器を支援すれば、大変なミスになる。そのようなことになれば、我々は相応の決定を下す」と脅されていた。
李在明大統領は7月、トルコで行われたNATO首脳会議でゼレンスキー大統領と会談し、ウクライナへの支援を表明したと伝えられているが、人道支援や戦後の復興支援にとどまり、軍事支援については何一つ約束しなかった。
ウクライナが必死になるのは言うまでもない。策を講じるのも当然だ。
例えば、ウクライナは、ウクライナ軍が2025年1月にクルスク州で生け捕りにした2人の北朝鮮兵捕虜の韓国への引き渡しに原則同意しているもののいまだに実現していない。
北朝鮮捕虜らは「韓国行きたい」との希望を表明しているにもかかわらず、「捕虜が帰還を望まず、他の解決手段がない場合、問題解決まで必要な限り収容し続ける」(ウクライナ戦争捕虜処遇調整本部のボグダン・オフリメンコ事務局長)と言ったり、6月末に訪韓したシビハ外相にいたっては「ロシアが抑留中の数千人のウクライナ国民の釈放を交換条件に2人の引き渡しを申し出ている」などと述べたりするなど韓国からすれば煮え切らない態度を取り続けている。
こうしたことから、一部では、ウクライナが韓国から兵器支援などを引き出すため、捕虜問題を取引材料にしているのではないかとの見方が出ている。実際、シビハ外相は訪韓期間中、防空システムなどの軍事的支援を促していた。
韓国がダメならば、日本を頼るほかないと思っているのか定かではないが、ゼレンスキー大統領は今月3日、各国大使らとの会合で日本への失望感を露わにしたと伝えられている。
高市政権が武器の輸出を解禁したと言っても、日本にも限界がある。殺傷能力のある武器の輸出は原則として不可能である。
従って、ゼレンスキー大統領の一連の発言はミサイルを発射し、日本の安全保障を脅かしている北朝鮮の「脅威」を強調することで、日本や韓国の世論に訴え、政策変更を求めようとしているようだ。