2026年2月11日(水)
北朝鮮はいつまでロシアに派兵し続けるのか?
ウクライナ戦争で戦死した兵士らの遺影の前で黙祷する金正恩総書記(労働新聞から)
ウクライナとロシアの戦争に正規軍を派遣しているのは、広い世界でも北朝鮮だけである。ウクライナを支援するNATO(北大西洋条約機構)諸国も、ベラルーシやキューバ、イランなどロシアの友好国も、武器は送っていても兵士は派遣していない。
北朝鮮の対露派兵は、「一方に対する武力侵略行為が強行されうる直接的な脅威が生じる場合、遅滞なく自国が保有するすべての手段で軍事的およびその他の援助を提供する」ことを定めた「露朝包括的戦略パートナーシップ条約」によるものだと、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は繰り返し強調している。
北朝鮮がロシアに兵士を派遣したのは、ウクライナ軍が国境を越え、ロシア領クルスクに侵攻してから2か月後の2024年10月である。すでに1年4か月が経過した。
北朝鮮が「参戦」した結果、劣勢に立たされたウクライナ軍は2025年4月間でにクルスクからほぼ撤退している。この時点で「クルスク解放」という北朝鮮の海外軍事作戦は終了したといえる。それにもかかわらず、北朝鮮軍は依然としてクルスクに駐屯している。
ウクライナ軍情報当局が一昨日(9日)に公表したデータによると、今年1月時点でクルスクには約8000人規模の北朝鮮兵士が駐屯し、ロシア軍の指揮下でウクライナとの戦闘作戦に動員されているという。北朝鮮軍は、ウクライナが同地域を再奪還できないよう防衛の役割を担っているとされる。
北朝鮮の対露派兵を報じた今朝の韓国紙『中央日報』は、ウクライナ情報当局者の話として、「北朝鮮兵士らはウクライナ国境地域への砲撃だけでなく、空中・砲兵偵察や多連装ロケットシステム(MLRS)の射撃調整(アジャストメント)にも参加している」と伝えている。
北朝鮮は、金正恩総書記自らが2024年10月からロシアに特殊部隊を派遣し、2025年9月からは地雷撤去のため工兵部隊をクルスク州に派遣していることを認めているが、正確な人数については公言せず、秘密扱いとしている。
しかし、ウクライナ軍情報総局(GUR)によると、北朝鮮は第1次派兵として「暴風軍団」と呼ばれる第11軍団偵察総局傘下の部隊など約1万1000人を、第2次として1000〜3000人を、第3次として工兵部隊6000人を派遣し、計1万7000〜2万人を派兵しているという。死傷者については、最大で2000人が死亡し、4000〜5000人が負傷していると分析している。
死傷者数を最少の6000人と見積もったとしても、派兵兵力が仮に1万7000人だとすれば、約3人に1人が死傷した計算になる。甚大な犠牲である。
ただし、北朝鮮は公式には、昨年8月に行われた戦死者追悼式典で101枚の遺影を掲げ、昨年12月の地雷除去任務に従事した工兵戦闘部隊の帰国歓迎式典では9枚の遺影を掲げていた。これはウクライナ軍当局の発表とは大きな隔たりがある。戦場で回収できなかった、あるいは遺体が確認できなかった兵士は含まれていない可能性がある。式典には腕や足を負傷した兵士の姿も見られたが、出席できず病床にある重傷者も相当数いると推察される。
それでも金総書記は、戦死者の追悼施設(海外軍事作戦戦闘偉勲記念館)の建設現場を1月25日に視察し、「我が軍は、精神力の強者は百戦必勝であるという力の法則、不変の哲理を証明した。これは世界のいかなる国の軍隊も持ち得ない、我が軍だけの絶対的な力である」と胸を張った。
また、人民軍創建日の2月8日に国防省を訪問した際も、ロシアに派兵された兵士について触れ、「遠い異国の戦闘陣地で英雄軍隊の名誉を懸けて祖国の命令を遂行している海外特殊作戦部隊の指揮官、戦闘員たちに、建軍節を迎え熱い激励と祝賀のあいさつを送る」と述べ、激励した。引き下がる気配は見られない。
北朝鮮は初代の金日成(キム・イルソン)主席の時代から、非同盟諸国首脳会議のメンバーとして、相手がどの国であれ大国による主権国家への武力行使に反対する立場を貫いてきた。具体的には、@外部勢力の介入や干渉に反対し、A独立・主権・領土保全を尊重し、B弱者の現状変革の試みに対する強者の妨害に反対し、C弱小国に対する大国の経済的・政治的圧力に反対してきた。
「非同盟」の旗を掲げていたからこそ、中越戦争では国境を越えてベトナムに侵攻した中国を「覇権主義」と批判し、その後ベトナムがカンボジアに攻め入った際の国境紛争では今度はベトナムを批判し、小国カンボジアの側に立った。いずれも「大国主義の横暴」を問題視し、小国を擁護していた。
ところが、三代目の金正恩政権はそれとは正反対の行動を取っている。今月末に開催される労働党第9回大会で、金総書記は対露派兵をどのように総括するのだろうか。ウクライナ戦争の終結にも影響を及ぼしかねないだけに、注視せざるを得ない。
(参考資料:ウクライナ軍が恐れる北朝鮮兵の特攻、自爆精神 直ぐに捕虜になるロシア兵と違い北朝鮮兵は自爆を選ぶ)