2026年1月19日(月)
幻に終わった2018年の「金正恩ソウル訪問」 今明らかになった韓国の「北漢山作戦」
2018年の南北首脳会談での金正恩総書記と文在寅大統領(当時)(朝鮮中央テレビから)
朝鮮半島にとって2018年は良くも悪くも歴史的な年、運命の年として歴史に刻み込まれるだろう。
何よりも、この年は朝鮮戦争を戦った不倶戴天の敵同士、米朝が2018年6月に史上初の首脳会談を行ったことである。
前年の2017年は北朝鮮が米国を狙った大陸間弾道ミサイル「火星12」「火星14」「火星15」を開発、試射しただけでなく、核実験を強行したためトランプ大統領が激怒し、金正恩(キム・ジョンウン)総書記を「ロケットマン」と揶揄し、北朝鮮を「破壊する」と武力攻撃を示唆していた。これに対して金総書記も党の執務室から前代未聞の声明を出して「米国の老いぼれた狂人を必ず、火でしずめるだろう」と応酬し、米朝はまさに一触即発の状態だった。
それが一転、シンガポールで電撃的に首脳会談が実現し、双方は▲新たな関係を築くこと▲朝鮮半島の平和を構築するため努力すること▲朝鮮半島の完全な非核化に向け努力することで合意したのである。
「歴史にもしはない」と言われるが、仮に翌年2019年2月のハノイでの2度目の首脳会談が物別れに終わらず、合意を見ていたならば北朝鮮の核兵器が増えることも北朝鮮によるとロシアのウクライナ戦支援もなかったかもしれない。また、日朝交渉に繋がり、拉致問題も進展したかもしれない。米朝関係同様に南北関係も同じことが言える。
南北首脳もまた2018年には4月、5月、9月と3度会談している。
最初の板門店の韓国側の「板門閣」で行われた首脳会談では「朝鮮半島の平和と繁栄、統一に向けた板門店宣言」が発表され、2度目の北朝鮮側の「統一閣」で行われた首脳会談では文在寅(ムン・ジェイン)大統領が米朝首脳会談成功のため協力することを誓い、9月の3度目の会談では文大統領が4月の首脳会談で約束していた平壌訪問を実現させ、金総書記との間で「軍事対決を終息し、核の脅威のない半島にする」こと等を盛り込んだ「平壌共同宣言」を発表していた。
仮に米朝首脳会談決裂の煽りを受け、南北関係が断ち切れることがなかったならば、金総書記がソウルを訪問する予定だった。そのことは首脳会談の実務協議のため南北を往来していた文大統領の最側近、尹建永(ユン・ゴニョン)「共に民主党議員」が最近、出版した著書「板門店プロジェクト」の中に詳細に描写されている。
尹議員によると、金総書記の韓国訪問を実現させるため名付けられた作戦コードは「北漢山作戦」で、金総書記のソウル訪問は文大統領が平壌を訪問したことを受け、後続措置として推進された。
尹議員を含む南側の特使団は9月の平壌首脳会談を前に訪朝し、金総書記にソウル訪問を打診したところ、金総書記は「行けない理由はない」「ぜひ行くことにしよう」と応じたそうだ。実際に平壌首脳会談の共同宣言文には「金(国務)委員長は文大統領の招請により、近い時期にソウルを訪問することにした」との文言が盛り込まれていた。
「北漢山作戦」によると、金総書記一行の宿泊先は警護上の適合性を考慮し、南山(ナムサン)麓のバンヤンツリーホテルに決定された。金剛山観光開発など北朝鮮事業を推進していた現代グループの玄貞恩(ヒョン・ジョンウン)会長が同ホテルを所有していた点が考慮された。また、産業施設の訪問先はサムスン電子の工場(京畿道水原市・龍仁市、忠清南道天安市所在のいずれか)に決まった。金総書記が首脳会談などで高く評価していたKTXで移動できる点が考慮されたとのことである。
韓国側は当初、済州島訪問を含む2泊3日の訪韓を提案していたが、北朝鮮側は済州島を除いた1泊2日を要求し、その結果、金総書記が同年12月13〜14日の日程で訪韓することで調整された。
韓国側は訪韓したその日に青瓦台で公式歓迎式と第1回首脳会談を行い、2日目は第2回首脳会談、ソウル永登浦(ヨンドゥンポ)タイムスクエア内の韓定食店での昼食、サムスン電子工場訪問、ソウル南山タワーでの送別晩餐、高尺ドームでの芸術団公演観覧を計画していた。
北朝鮮との間で最終的に日程の調整を終えた文政権は11月26日に金総書記の訪問日程を公式発表する予定だった。しかし北朝鮮が発表前日になって訪問中止を通告したため流れてしまった。
尹議員によると、2日前に開かれた朝鮮労働党政治局会議で、政治局員たちが強硬に反対したことや金総書記の身辺の安全保障が危惧されたことが主な原因とされている。
文大統領が訪朝した際には街頭パレードが行われ、十数万人の平壌市民に熱烈歓迎されていたが、金総書記の訪韓の場合、ソウルは歓迎一色とはならないであろう。
韓国は反共国家である。共産主義、社会主義の標榜は法律で禁じられている。韓国内には「滅共統一」「勝共統一」を叫ぶ反共主義者や反北主義者らはごまんといる。朝鮮戦争の犠牲者や退役軍人、その遺族の中には「復讐心」を抱いている者も相当数いる。北朝鮮に風船ビラを飛ばしている団体にみられるように「打倒金正恩体制」を叫ぶ北朝鮮から逃げてきた脱北者らは3万人以上もいる。その中には元軍人や工作員らもいる。警護上の問題から周囲が反対する理由はわからないわけではない。
また、9月の平壌南北首脳会談直後10月1日の国軍の日記念式典に人民武力相を団長にした北朝鮮の高官級軍事代表団を招請する県も直前まで進んでいたが、これも流れてしまった。尹議員は「北朝鮮の高官級軍事代表団が大韓民国の国軍の日記念式典に出席すれば、平壌共同宣言の付属合意書として採択された『9・19軍事合意』の履行に対する南北双方の信頼を全世界に示す象徴的な出来事になると判断した」と記述している。
南北首脳の訪問はいずれも韓国大統領の一方通行で終わっている。
先代の金正日(キム・ジョンイル)総書記は2000年に訪朝した金大中(キム・デジュン)大統領に「適切な時期に(韓国を)訪問する」と約束したものの実現しなかった。また、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が2007年に平壌を訪れ、二度目の南北首脳会談を行ったが、金正日総書記は死去する2011年12月まで韓国を一度も訪問することはなかった。
2度あることは3度あるではないが、南北統一を放棄し、韓国との関係を断絶したため金正恩総書記が韓国を訪れることは永遠にないかもしれない。