2026年1月28日(水)
未成年の娘を頻繁にミサイル発射に立ち会わせる奇々怪々
ミサイルの発射に立ち会った金正恩総書記と娘(朝鮮中央通信から)
「ジュエ」と呼ばれている金正恩(キム・ジョンウン)総書記の娘が、ミサイル(新型大口径ロケット砲)の試射に父親に連れられて立ち会っていた。ミサイル担当の金正植(キム・ジョンシク)第1副部長、ミサイル総局の張昌河(チャン・チャンハ)総局長らも同行していた。
ミサイルの発射を見守る金総書記と娘(朝鮮中央通信から)
娘がミサイル発射に立ち会ったのは2024年10月31日の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星19型」の試射以来である。
娘が2022年11月18日に初めて公の場に姿を現した時も新型大陸間弾道ミサイル「火星17型」が初めて試射された時だった。
それ以後、娘は2023年に、新型小型弾道ミサイルの試射(3月9日)、「火星17型」の試射(3月16日)、戦術核運用部隊による飛距離800キロの弾道ミサイル発射訓練(3月18日)、ICBM「火星18型」の試射(4月13日)、同(7月12日)、同(12月16日)、同(12月20日)と、計7回にわたりミサイル発射に立ち会っていた。
また2024年は、2023年に比べ回数こそ2回に減ったものの5月30日には短距離弾道ミサイル18発の一斉発射に、さらに10月31日には再び「火星19型」の発射に立ち会っていた。
一方、昨年は1月6日の新型極超音速中・長距離弾道ミサイル(IRBM)を皮切りに、12月28日の長距離射程戦略巡航ミサイルまで、北朝鮮は延べ12回ミサイルを発射していたが、娘が立ち会うことは一度もなかった。その代わり、駆逐艦の進水式(4月25日)や原子力戦略誘導弾潜水艦の建造現場視察(12月24日)などに姿を見せていた。
娘の軍関連の視察は、建軍75周年閲兵式への出席(2023年2月8日)、海軍司令部訪問(2023年8月28日)、第1空軍師団飛行連隊訪問(2023年11月30日)、国防省訪問(2024年2月8日)、人民軍各航空陸戦兵(空挺)部隊の訓練視察(2024年3月15日)、重要軍需工場視察(2025年6月13日)、人民軍空軍創設80周年記念行事(2025年11月28日)などがあり、デビュー以来54回の公式活動のうち、今回のミサイルの試射を含め延べ31回が軍関連である。
今年13歳になる娘が、女性が立ち入ることのないミサイル発射場に頻繁に足を踏み入れていることは、単に「最高指導者の娘」であるという理由だけでは説明がつかない。花火の打ち上げを観戦するのとはわけが違うからだ。ミサイルの発射そのものに立ち会わせているのは、軍内部でも後継者として認知されているからにほかならない。
金正恩氏には、労働党総書記のほか、国務委員会委員長、党軍事委員会委員長、最高司令官という4つの肩書がある。
金正恩氏の場合、父・金正日(キム・ジョンイル)氏の存命中の2010年9月にまず党軍事委員会副委員長員長のポストに就いた。金正日氏もまた、金日成(キム・イルソン)主席が生存していた1990年5月に国防委員会第一副委員長に、1991年12月に最高司令官に、さらに1993年4月には国務委員会の前身である国防委員会委員長に推戴され、軍の統帥権を掌握していった。
仮に娘が後継者に内定しているのであれば、先代の例に倣い、最初に継承するのは軍事分野であろう。
未成年で党籍もなく、氏名すら公表されていない娘が、来月開催予定の第9回党大会で役職に就くことは考えにくい。党員資格年齢は18歳からであり、順当であれば5年後の第10回党大会でポストが与えられることになるだろう。
それでも早くから後継者として扱われ、第8回党大会で新たに「党第一書記」というポストが新設されたのは、この娘のために用意された布石であった可能性が高い。
金正恩氏は現在健在であるが、これまで何度も「健康不安説」が取り沙汰されてきた。実際、「コロナ」期間中には高熱に苦しんでいたことを、妹の金与正(キム・ヨジョン)党副部長が、2022年8月10日の全国非常防疫総括会議で明らかにしている。
初代の金日成主席、二代目の金正日前総書記はいずれも病死ではなく、心臓発作による急死であった。それでも事前に後継者を定めていたことで大きな混乱は避けられ、金体制は維持された。
しかし金正恩氏の場合、権力を継承した2012年には軍ナンバー1であった李英鎬(リ・ヨンホ)党軍事委員会副委員長、翌2013年には叔父の張成沢(チャン・ソンテク)党行政部長兼国防委員会副委員長から、権力基盤を脅かされる事態を経験している。
こうした教訓から金正恩氏は、早い段階で軍に娘への忠誠を誓わせると同時に、軍内部における娘の基盤を強化するため、意図的に軍関連行事に同行させているものと推察される。