2026年1月7日(水)

 米特殊部隊のベネズエラへ侵攻もマドゥロ大統領の連行も国民に知らせない北朝鮮

潜水艇で浸透訓練を行っている米海軍特殊部隊ネイビーシールズの「チーム6」(出所:米海軍)

 世界中がベネズエラの事態を固唾をのんで見守っているが、北朝鮮は7日午後1時現在、米特殊部隊がウクライナに侵攻し、マドゥロ大統領夫妻を逮捕し、米国に護送したことを一切伝えていない。

 対外向けの「朝鮮中央通信」は4日に「ベネズエラで強行された米国の覇権行為を最も重大な形態の主権侵害及び主権尊重と内政不干渉、領土保全を基本目的とする国連憲章と国際法に対する乱暴な違反である」との外務省報道官のコメントを載せているが、人民が日常目にする「労働新聞」には一言も触れられていない。

 国際ニュースは6面に掲載されるが、5日付は米国の銃犯罪に関する記事と「日本軍国主義者らの戦争犯罪には時効がない」とするロシア外務省の1日の声明が掲載され、また6日付はイスラエルのガザでの殺戮行為とガザ住民の悲惨な生活状況を取り上げていた。

 今朝(7日付)も国際ニュースは「高まる米国に対するEUの不信感」の見出し記事と「世界的に年々増える軍事費支出」と、それにインドネシアやボスニア・ヘルツェゴヴィナ、ロシアなど世界各地で「自然災害が起きている」と題する記事の3本のみだった。

 北朝鮮は2015年に首都カラカスに大使館を開設しており、翌年の2016年9月には当時国家元首だった故金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長が訪朝し、マドゥロ大統領と固い握手を交わしていた。ベネズエラも北朝鮮との関係を強化するため2019年に平壌に大使館を設置し、昨年北朝鮮の労働党創建80周年の記念式典には政権与党のベネズエラ統一社会党の代表団(団長:タニア・ディアス・ゴンザレス副委員長)を派遣している。

 キューバに次ぐ友好国でもあり、反米同志であるマドゥロ大統領が二重三重の警護下にある安全な場所で就寝中に米特殊部隊に踏み込まれ、僅から3時間で夫人と共に米国に連れ去られるのは金正恩総書記にとっては信じ難い出来事であろう。衝撃的であるが故に人民に知らせるわけにはいかないのであろう。

 そもそも北朝鮮は昔から自国にとって都合の悪いことは一切伝えない。古くは1979年10月に起きた朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の暗殺事件である。

 朴大統領が殺害され、政権が崩壊したことまでは伝えたが、死因、即ち朴大統領が中央情報部(KCIA)部長に射殺されたことは伏せていた。国家元首が最側近に殺害されるのは北朝鮮においては信じ難いことで絶対にあってはならないことだからだ。

 また、1989年12月にルーマニアのチャウシェスク政権が群衆デモによって倒された時は2日後に労働新聞は政権が崩壊したことを短く伝えたものの金日成(キム・イルソン)主席の最も親しい友人だったチャウシェスク大統領が夫人と共に公開処刑されたことは報道規制し、人民にこのショッキングなニュースを伝えなかった。

 最近では一昨年(2024年)12月のシリアのアサド政権の崩壊である。

 金日成主席と先代のハーフィズ・アサド大統領は義兄弟のような関係を結び、二代目の金正日(キム・ジョンイル)前総書記とバッシャール・アサド大統領も同じく世襲で権力を継承したこともあって強い絆、連帯感で結ばれていた。

 しかし、アサド政権が反体制派に倒された時、北朝鮮外務省も「労働新聞」もアサド政権の崩壊について一切触れず、国を追われたアサド大統領がロシアに亡命したことも伏せていた。シリアの政変は金正恩政権にとっては青天の霹靂だったからだ。

 前出の外務省報道官は「今まで国際社会が長い間数多く目撃してきた米国のならず者としての、野獣的な本性を今一度はっきり確認させる事例である」と述べ、米国を批判していたが、北朝鮮は今後、今以上にトランプ政権への警戒心を高めるであろう。

 というのも、昨年9月に米紙「ニューヨーク・タイムズ」(5日付電子版)が「米軍特殊部隊が金総書記の電話などの通信を盗聴する装置を設置するため海岸から北朝鮮に浸透した」と暴露していたからである。

 同紙によると、「盗聴作戦」はトランプ大統領の承認の下、ビン・ラディンを殺害した前歴のある最尖鋭特殊部隊、ネイビーシールズの「チーム6」に下され、ハノイでの2度目の米朝首脳会談が開かれる2019年2月前、即ち1月8日の金総書記の誕生日に「親愛なる貴方が幸福であることを祈願している。貴方の国は間もなく歴史的で、繁栄の道を歩むであろう」との内容のバースデーカードを贈った後に決行されていた。

 「盗聴作戦」は米特殊部隊が乗った2隻の小型潜水艇が北朝鮮の沿岸に上陸する直前に北朝鮮の漁船に遭遇したため作戦を打ち切り、潜水艦を撤収させ、未遂に終わったが、北朝鮮はこの記事が出るまでお粗末にも領海を侵犯されたことも漁民を殺害されたことも知らなかった。仮に、この作戦が「盗聴」ではなく、金総書記の「連行」もしくは「暗殺」だったとすれば、金総書記は震え上がったに違いない。

 金総書記が今後、身辺の警護、特に上空と海岸の厳戒態勢を強めるのは必至である。

(参考資料:衝撃的な米海軍特殊部隊の「金正恩盗聴極秘作戦」「暗殺作戦」ならば北朝鮮はどうする!)