2026年1月9日(金)

 北朝鮮で「金正日暗殺計画」映画が放映された衝撃

映画「対立の昼と夜」のワンシーン(出典:「NKニュース」)

 北朝鮮で最高指導者の暗殺計画を題材にした映画が国営テレビで放映されていたとは驚いた。

 この衝撃的なニュースを伝えたのは米国の北朝鮮専門媒体「NKュース」で、8日(現地時間)朝鮮中央テレビ(KCTV)が最近、映画「対立の昼と夜」を放送したと報じていた。

 この映画は「4・25映画製作所」が2022年に制作した「一日一夜」の言わば続編にあたり、前作では金日成(キム・イルソン)主席の暗殺未遂が扱われていたのに対して本作は金正日(キム・ジョンイル)前総書記の暗殺計画を描いている。

 映画は列車上での戦い、カーチェイス、爆発シーンなどハリウッド映画を彷彿させる激しいアクションシーンが挿入されているようだ。

 また、珍しく社会の弊害や犯罪が比較的露骨に描かれており、さらに北朝鮮で禁止されている韓国語の表現が意図的に取り入れられているとのことである。例えば主人公が妻を「オッパ」と呼ぶシーンなど北朝鮮が問題にしている「イデオロギー汚染」を示唆する場面も登場しているようだ。

 「NKュース」によると、物語は金日成暗殺未遂犯(イ・テウル)の息子が金正日殺害を企てた人物であるとの設定で、イ・テウルは暗殺未遂の後に国外へ逃亡し、その子孫が再び、北朝鮮に舞い戻り、2024年に平壌前衛街の開業式に出席する場面で終わっている。

 この映画をみた米国の北朝鮮専門家らは暗殺の脅威が世代を超えて存在し続けることを知らしめることが体制結束を強化するためのプロパガンダメッセージになると分析しているようだ。

 映画の中の列車爆破シーンは実際に2004年4月22日に平安北道の龍川駅で起きた列車爆発事故を彷彿させている。当時「事故」と処理されていたこの爆破は金総書記専用列車が駅を通過した9時間後に起きている。

 現場は中国に近い新義州から平壌方面に50km離れた龍川駅構内で石油とLPガスを積んだ貨物列車が衝突し、当時3千人の死者が出たと報道されていた。龍川では学校や産業施設など建物30件が崩壊し、延べ8100世帯が家を失い、その経済的損失は日本円で390億円に上った。

 事故発生から2日後に朝鮮中央放送は硝酸アンモニウムを搭載した貨物車と油を積んだ車両が軌道で交差する際に不注意により接触し、爆破したと発表していたが、当時から金正日総書記一行を狙ったテロの可能性が指摘されていた。

 この時期の映画の公開は「最高尊厳」と称されている金正恩(キム・ジョンウン)総書記を「決死護衛」するキャンペーンと関係がありそうだ。

 北朝鮮は2024年7月に起きたトランプ前大統領の暗殺未遂事件とほぼ同じ時期に発覚したウクライナによるプーチン大統領の暗殺計画に衝撃を受けたのか、金正恩総書記の身辺警護を一段と強化している。

 北朝鮮のSPは2022年7月に起きた安倍晋三襲撃事件以後、金総書記に密着して警戒にあたり、また日本のSPを真似し、銃撃や投石などを防ぐため黒いカバンを手にしているが、最近ではSPの数の急増が目につく。それも外遊先ではなく、最近は国内での視察でも随行するSPの多さが際立っている。金総書記の車を前後3台が護衛して到着する場面も数多く見受けられる。

 先導者には金哲圭(キム・チョルギュ)総局長が乗車し、後方2台には計8人のSPが乗り込み、そのうち6人が窓の外に身を乗り出し、いつでも飛び出せるような厳戒態勢を敷いている。

 地方の集会では群衆が金総書記に近づかないよう柵を儲け、SPらが1メートル間隔でずらっと並んで四方八方から群衆らに目を光らせている上、金総書記を6人のSPが取り囲んでいる。

 北朝鮮のスパイ摘発組織「国家安全保衛部」の発表では2008年12月に前総書記への「韓国スパイ」によるテロ未遂事件が、また、2017年5月に「米CIAと韓国国家情報院の指令による最高首脳部への国家テロ未遂事件」があったとされているが、この映画によって2004年4月22日に訪中の帰途発生した列車爆破も事故でなく、暗殺未遂であったことが明らかとなった。