2026年7月10日(金)

 あの北朝鮮でも電子ウォーレットが普及! ATMからスマートフォン決済まで

2023年北朝鮮軽工業発展展示会に設置されていたスマートフォンコーナー(朝鮮中央通信から)

 先月初旬、「ニューヨーク・タイムズ(NYT)」や「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」など米国の有力メディアが相次いで北朝鮮経済の好況を取り上げていたが、韓国の経済紙「アジア経済」は昨日、「わずか2年で3倍に急増――北朝鮮にも『サムスン』がある?…『スマホ決済がちゃんと使えるね』」と題する記事で、スマートフォンを利用した電子ウォレットの普及が北朝鮮で急速に進んでいることを伝えていた。

(参考資料:北朝鮮は本当に疲弊しているのか?)

 北朝鮮でも以前からスマートフォンが普及していることはすでによく知られている。その数は一説では約750万〜800万台と推定されており、人口を約2400万人とすると、およそ3人に1人が利用している計算になる。

 北朝鮮製スマートフォンのブランドには「アリラン」「ピョンヤン」「チンダルレ」「チョルマ」などの種類がある。その多くは中国製の部品を輸入して組み立てた製品と言われている。

 中でも最新の「アリラン171」や「チンダルレ3」といったモデルはタッチスクリーンやカメラ、アプリの実行機能を備えている。そのためスマートフォンを利用した電子ウォレットの普及は時間の問題だったともいえる。それでも、スマートフォン向け電子決済システムに現金をチャージできる拠点が、この約2年間で3倍以上に増加したことには正直驚かされた。

 この記事によると、北朝鮮の電子決済サービスは、2021年に制定された電子決済法に基づき、中央銀行の監督下でIT企業など銀行以外の機関も決済サービスを提供できるようになっている。ただし、チャージ拠点の中心は銀行ではなくITサービス拠点であり、銀行や郵便局がチャージ拠点となっている例は少数にとどまっている。

 例えば、北朝鮮の10大最優秀企業に選定されたソフトウエア開発会社「三興経済情報技術社」が提供する「三興電子ウォレット」では、チャージ拠点の半数以上を「情報技術交流所」が占めている。情報技術交流所とは住民が携帯電話のサポートを受けたり、新しいアプリやコンテンツをダウンロードしたりできるオフラインのサービス拠点である。

 北朝鮮のスマートフォン向け電子決済システム「三興電子ウォレット」の入金可能拠点は、2022年末の約200か所から2025年初めには700か所以上へと増加したと報じられている。平壌市内では、2022年末の149か所から2025年初めには576か所へと増加し、平壌以外でも、ほとんどの郡に少なくとも1か所は入金可能拠点が設置されるほどネットワークが拡大したという。

 米国の北朝鮮専門メディア「38ノース」によると、北朝鮮には電子決済プラットフォームとして、「三興」のほか、「ヒンヌン」「セビョル」「マンブルサン」など少なくとも7種類が存在する。

 北朝鮮の電子決済プラットフォームの特徴の一つは、北朝鮮ウォンだけでなく外貨も電子ウォレット内に保有できる点である。預け入れた外貨現金は、外貨を表示する仮想単位である「外貨ウォン」に換算される。「38ノース」によると、その価値は1米ドル当たり約110外貨ウォンとなっている。外貨ウォンと一般の北朝鮮ウォンである「内貨ウォン」は相互に交換できず、商品の価格はいずれか一方の単位で表示される。外貨ウォンの為替レートは北朝鮮当局が決定している。

 住民がドルなどの現金を電子ウォレットに預けると、国家は実際の外貨を回収でき、利用者は後日買い物に利用できる電子残高を受け取る。この仕組みは、市場に流通する外貨を国家が回収するルートとなり得るという。

 「38ノース」は、電子決済の普及によって「北朝鮮当局は国内経済の動向を把握し、物価を監視・統制するとともに、税金を徴収するために必要なデータを得られる」と報じている。また、電子ウォレットへの外貨入金機能は、市中に流通する外貨現金を国家が吸収するルートとなり得るとも分析している。

北朝鮮のATM(中国人観光客撮影)

 ATMの普及も、電子決済サービスの拡大とともに進んでいるようだ。「ファウォン電子銀行」が運営する「ファウォンATM」は、2024年末時点で15か所に設置されている。また、「テソン銀行」の名称が付いたATMも登場している。実際に北朝鮮でATMを利用した中国人観光客によると、これらのATMにはカード挿入口、QRコード(二次元コード)スキャナー、レシートプリンター、テンキーが備えられているという。

 さらに、北朝鮮でも早くもQRコード決済に対応した販売店も増えているようだ。「38ノース」によると、屋台や市場の露店では特定の決済プラットフォームのQRコードが一つだけ設置されている場合もあるが、規模の大きい店舗では複数の電子決済プラットフォームに対応しているという。

 北朝鮮の経済成長を伝えた米国メディアに対し、統一研究院のチョ・ハンボム主任研究員をはじめ、多くの北朝鮮専門家や脱北者団体は「米国は実態を理解していない」と異議を唱えていた。その理由として、成長したのは工業、建設業、製造業に限られ、国民生活に直結する農業や漁業は前年比1.0%減から1.9%減と落ち込み、さらに電気・水道・ガスなどのインフラ部門の成長率も0.9%、住民向けサービス部門も1.3%にとどまるなど、生活関連分野の伸びが極めて低かったことを挙げている。

 良くなっているのか、それとも依然として疲弊しているのか、正直、北朝鮮の経済実態は掴みどころがない。