2026年7月11日(土)

 朝鮮人民軍内で何が起きているのか? 党・政府・軍幹部を全員招集し、「異例の人民裁判」

朝鮮労働党・政府・軍合同会議(朝鮮中央通信)

 「不敗の団結」が売り物の朝鮮人民軍で異変が起きている。

 筆者は6月29日に「党の総会で公然と粛清された人民軍少将のミステリー」と題する記事で「クーデターも画策できる政治将校のNo.2の地位にある李少将の解任には何か裏がありそうだ」と書いたが、やはりただ事ではなかった。

(参考資料:参考資料:党の総会で公然と粛清された人民軍少将のミステリー

 何よりも金総書記がこの1週間の間に重要会議を3度も開いていることだ。4日に中央委員会第9期第2回総会を、9日に党中央軍事委員会を、そして昨日(10日)は異例にも党・政・軍合同会議を開き、4日の総会で解任したはずの朴熙哲(パク・ヒチョル)軍総政治局組織副局長(少将)を再度、吊るし上げていた。

 事実上の人民裁判ともいえる朴熙哲少将の断罪は2013年12月に党中央委政治局拡大会議で反党・反革命分派行為を断罪され、会場から衛視に連行された張成沢(チャン・ソンテク)党行政部長兼国防副委員長以来、実に13年ぶりのことである。

 金正恩政権発足(2012年)以来、党や軍幹部の解任、粛清は李英鎬(リ・ヨンホ)軍総参謀長(2012年7月)や玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力相(2015年4月)、崔英健(チェ・ヨンゴン)副総理(2015年5月)を含め数多くいる。

 しかし、党、政府、軍、それに国家機関の幹部まで招集された公の場で「朴熙哲は党中央と人民の信任と期待に背き、党の規律強化路線に挑戦して組織権と人事権を悪用し、不正腐敗、不正蓄財行為を働きながら巨額の賄賂詐取と奢侈放蕩で人民軍の幹部陣容の質的強化と戦闘力向上、健全な軍紀確立に莫大な害毒を及ぼした」と指弾されたケースは極めて稀というか、異常であった。それもそのはずで、どうやら、解任理由は朴少将の単なる個人的な不正蓄財に留まらないようだ。

 昨日の連合会議では「(朴少将は)政治機関の責任ある職務に居座っていたこの4年間、あらゆる権柄と専横を極め、自分に対する特別な幻想を振りまき、周囲に集まる貪欲と職位欲の強い不健全な連中から多くの賄賂を受け取って詐取した」とか「軍隊内に売官売職、賄賂収受、政治詐欺行為を助長し、自分の腹心と追従者を重要職制に配置して党の唯一的軍指導体系の確立を阻害した」と断じ、金少将に追従した共犯者がいることを明らかにしていた。実際にそのことは「共和国最高裁判所は特大型腐敗分子らの犯罪行為を峻烈に糾弾し、被訴者らに刑罰を宣告した」ことからも明らかだ。

 また、「朴熙哲の不正腐敗は、胚胎している危険性と害毒性において想像を絶する特大型犯罪である」と指摘し、「軍事・政治指導部内に残っている毒素と廃物」を適時に除去する必要性を強調していることから事態が放置できないほど深刻であったことを裏付けている。

 金総書記も「党と人民があれほど軽蔑する不正蓄財を抑止、摘発、除去すべき重任と権限が付与された責任ある職位に就いている者が、その権限を私利私欲の武器に盗用し、不正腐敗の主謀者として登場したところに今回の事件の本質がある」と述べていることからその深刻さを図り知ることができる。

 「莫大な国家資金と物資、住宅を窃取し、それを奢侈放蕩な生活に蕩尽しながら、党の軍指導方針の貫徹をことごとく怠った」と批判していることから金少将が相当な力があったことがある程度、窺え知ることができる。

 軍総政治局は軍の最高政治機関である。日本的に言うならば、政治将校の集団である。総局長は軍参謀総長及び国防相と並ぶ軍のトップ3の一角を占めており、組織を担当する副局長の朴少将は総政治局ではナンバーツの座にある。

 北朝鮮にあって朴副局長の地位は相当に高い。

 記憶に新しいが、金総書記は軍の指南役だった玄哲海(ヒョン・チョルへ)次帥が2022年5月に死去した際、葬儀で棺を担いでいたが、玄哲海氏は少将の頃の1968年から1975年まで、また大将に進級した1995年から2003年まで軍総政治総局組織担当副局長のポストにあった。

 党の長老である金己男書記が2024年5月に死去した際、金総書記を含む葬儀委員100人の名簿を見ると、朴副局長は少将でありながら、当時軍保衛局長の趙慶普iチョ・ギョンチョル)大将や、海軍司令官だった鄭明道(チョ・ミョンド)大将よりも上位に名前が記されていた。ちなみに、金総書記の妹である金与正(キム・ヨジョン)氏は49番目で、朴副局長は12人の各市・道党責任書記に続いて62番目に名を連ねていた。

 また少将は韓国を例に取れば、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領や全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領がクーデターを引き起こした時と同じ階級である。「自分の腹心と追従者を重要職制に配置していた」ならば、派閥を作って反旗を翻すことも可能だ。

 共謀者が誰で、また今回、どのような軍の人事異動があったのか、詳細は不明だが、9日に党中央軍事委員会の出席者の顔ぶれには変動はなかった。事実上、軍トップの国防省顧問の朴正天(パク・ジョンチョン)元帥を筆頭に副委員長の鄭慶澤(チョン・ギョンテク)上将、国防相の努光哲(ノ・グァンチョル)大将、党軍需工業部部長の趙春龍(チョ・チュンリョン)大将、党軍需工業部第1副部長の金正植(キム・ジョンシク)大将、総参謀長の李栄吉(リ・ヨンギル)元帥、軍総政治局長の金成基(キム・ソンギ)大将、軍事委員の方頭燮(パン・ドゥソプ)次帥、軍事委員の柳寛愚(ユ・グァンウ)中将、軍事委員の崔春吉(チェ・チュンギル)(階級不明)の上位10人は健在だった。

(参考資料:粛清されていなかった元労働党序列No.4 金才龍前党組織指導部部長が現れる!)