2026年7月12日(日)

 粛清された北朝鮮軍幹部の顔写真はなぜ一枚もないのか?

朝鮮労働党軍事委員会第9期第1回拡大会議(朝鮮中央テレビから)

 北朝鮮が10日の党・政府・軍合同会議で朴熙哲(パク・フィチョル)軍総政治局組織担当副局長(少将)を公開粛清したとのニュースは、韓国でも大々的に報じられた。

 それぞれの記事には「北朝鮮、党・政・軍合同会議で朴熙哲・軍組織部副部長の『特大型腐敗』を処罰」(東亜日報)、「北朝鮮、党・政・軍会議を招集し『特大型腐敗』に警鐘…『金正恩式の恐怖政治と清廉』」(中央日報)、「北朝鮮・金正恩氏が激怒…『権力を私物化』した軍実力者・朴熙哲を処罰」(ソウル新聞)の見出しが掲げられていた。

 テレビも「SBS」が「北朝鮮、『不正腐敗』事件を公開…『軍組織部副部長が不正蓄財・収賄』」、「TV朝鮮」が「北朝鮮、軍中枢の実力者を公開粛清…金正恩氏、異例の『党・政・軍合同会議』を招集」と速報で伝えていた。

 ところが、「聯合ニュース」の「北朝鮮、異例の党・政・軍会議で『特大型腐敗』に警鐘…金正恩氏が出席」を含め、今回焦点となっている粛清された朴熙哲少将については、写真はおろか詳しい経歴を伝えたメディアは一紙もなかった。どの報道も内容は似たり寄ったりだった。

 「北朝鮮消息筋」の話として内部情報を伝えている脱北者団体のメディアやYouTube放送も同様で、顔写真を掲載したところはなかった。北朝鮮問題を専門に扱う「自由北韓放送」に至っては「権力粛清レポート」として「朴熙哲粛清で明らかになった北朝鮮軍部の実態…金正恩氏、『腐敗との全面戦争』で体制の緩みを遮断」の字幕を付け、取り上げていたものの、これも肩透かしに終わった。

 韓国メディアは北朝鮮情報について情報機関の国家情報院(国情院)や所管の統一部に依存している。しかし今回に限っては、「国情院」も統一部も北朝鮮が「朝鮮中央テレビ」や「労働新聞」を通じて発信した情報以外、何一つ持ち合わせていなかったのか、口を閉ざしたままである。

 国情院はこれまで、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が「うつ状態にある」など、側近しか知り得ないような情報をたびたび流してきた。それにもかかわらず、軍最高幹部の一人である総政治局組織担当副局長の顔さえ把握していないというのは、摩訶不思議と言わざるを得ない。

 筆者は昨年11月7日付のこの欄で、金総書記の代弁者ともいわれる妹の金与正(キム・ヨジョン)党部長について、「韓国の情報機関はなぜ『金与正の夫』を割り出せないのか」と題する記事を書いた。

 「国情院」が4日前に国会情報委員会の国政監査で金総書記の健康状態について、脈拍や血圧まで、まるで主治医のように詳細な報告を行っていたからである。それほど北朝鮮内部に食い込んでいるはずの情報機関が、39歳の金与正氏と同じ年の夫については、現在どこで何をしているのか、何一つ明らかにしていないことに疑問を持ったのである。

 ちなみに、義父が金総書記の統治資金を調達・管理する朝鮮労働党39号室の全日春(チョン・イルチュン)前室長である劉炳宇(リュ・ヒョンウ)元駐クウェート代理大使(2019年9月亡命)によれば、金与正氏の夫は12年前には軍総政治局に在職し、肩書は副部長だったという。現在も在職しているのであれば、朴熙哲副局長の配下にいたはずである。

 軍総政治局組織担当副局長は、軍総政治局内ではナンバー2であり、軍全体の序列でも4位に位置する。そのことは、党長老の金己男(キム・ギナム)書記が2024年5月に死去した際の葬儀委員(100人)の名簿からも窺い知ることができる。少将でありながら、当時の軍保衛局長・趙慶普iチョ・ギョンチョル)大将や海軍司令官だった鄭明道(チョ・ミョンド)大将より上位の62番目に名を連ねていた。ちなみに、金与正氏は49番目だった。

 また、金総書記が葬儀の際に異例にも棺を担いだ軍の指南役・玄哲海(ヒョン・チョルヘ)次帥は少将時代の1968年から1975年まで、さらに大将昇進後の1995年から2003年まで、軍総政治局組織担当副局長を務めていた。

 統一部傘下の統一研究院の資料によると、金総書記の軍事関連活動は2024年に49回、2025年に43回、そして今年も上半期だけで30回に達している。昨年2月8日には軍総政治局本部が置かれている国防省も直接訪問している。

 人民軍創建77周年に合わせて国防省を祝賀訪問した金総書記を努光鉄(ノ・グァンチョル)国防相、李永吉(リ・ヨンギル)軍総参謀長と並び、今年2月の党中央委員会総会で党中央軍事委員会副委員長に異動した鄭京擇(チョン・ギョンテク)軍総政治局長も出迎えていた。

 「朝鮮中央通信」によれば、金総書記は「国防省と朝鮮人民軍の各級軍事・政治指揮官に会い、建軍節を記念して意義深い演説を行った」ようだ。当時、軍服姿の将校らが整列する写真が配信され、映像も放映されていた。当然、軍総政治局のナンバー2の朴熙哲副局長もその場にいたはずだ。

 結局のところ、韓国の情報機関もメディアも朴熙哲少将を割り出せない、顔を特定できていないため今回、「これが朴熙哲」との写真を掲載できないのであろう。

 韓国の北朝鮮関連情報収集能力がこの程度かと思うと、残念でならない。