2026年7月19日(日)
ウクライナに敵視されている金正恩総書記は身の安全上、モスクワには行けない!
昨年10月に訪露した崔善姫外相と握手を交わすプーチン大統領(朝鮮中央通信から)
北朝鮮の外交司令塔である崔善姫(チェ・ソンヒ)外相が18日、ロシアを急きょ訪問した。崔外相の訪ロは昨年10月以来、9か月ぶりである。
前回は出発前日に予告があった。しかし今回は、ロシア外務省が前日に「崔善姫外相が7月18日から公式訪問のためロシアを訪れる予定だ」と公表したにもかかわらず、北朝鮮は翌日になって国営通信を通じ、「崔善姫外相一行がロシア連邦を訪問するため18日に専用機で平壌を出発した」と伝えた。同時発表ではなく、1日遅れでの発表となった。
今回も急を要するためか、前回同様に特別機が使用されている。ちなみに、2024年9月にサンクトペテルブルクで開催された「ユーラシア女性フォーラム」に出席するため訪ロした際には、高麗航空の定期便を利用し、ウラジオストークで乗り換えて現地入りしていた。
崔外相の訪問の具体的な目的や詳細な日程についてはロシア、北朝鮮双方とも明らかにしておらず、極秘扱いとなっている。
韓国メディアや北朝鮮専門家の間では、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の訪ロに向けた事前調整を行うためとの見方が広がっている。その根拠として、プーチン大統領が2024年6月の訪朝時や、昨年9月の中国戦勝記念式典で会談した際に、金総書記に対し訪ロを再三直接招請していたことを挙げている。韓国の斗鎮浩(トゥ・ジンホ)韓国国家戦略研究院ユーラシア研究センター長にいたっては「今回の動きがこの時期に行われたこと自体が極めて異例だ」と述べ、「金正恩氏のモスクワ答礼訪問が間近に迫っていることを示す明確な兆候だ」と分析していた。
金総書記の訪ロは2012年に政権の座に就いてからこれまで2019年4月と2023年9月の2回しかない。いずれも北朝鮮国境に近いウラジオストークを列車で訪れ、プーチン大統領と首脳会談を行っている。しかし、ロシアの首都モスクワを訪問したことは一度もない。
これまでにも、モスクワ訪問説は何度か取り沙汰された。
1度目は、政権継承2年目の2014年8月である。ラブロフ外相が「現在のところ、そうした計画はない」と否定したにもかかわらず、根拠のない訪ロ説が広まった。
2度目は2015年で、5月9日の対独戦勝70周年記念式典への出席が取り沙汰された。プーチン大統領補佐官やラブロフ外相、さらには韓国駐在ロシア大使までが口をそろえて「出席することになった」と公言していた。しかし、金総書記は訪ロしなかった。正確に言えば、訪問は見送られた。
祖父の金日成(キム・イルソン)主席も父の金正日(キム・ジョンイル)国防委員長もモスクワを訪問していることから、金総書記がいつ訪れても不思議ではない。しかし、身の安全や警備上の問題から、モスクワ訪問は容易ではないだろう。
本来であれば、金総書記は昨年6月19日の「包括的戦略パートナーシップ条約」締結1周年に合わせてモスクワを訪問する計画だった。3月に訪朝した前国防相セルゲイ・ショイグ安全保障会議書記がプーチン大統領の親書を伝達した際、金総書記は訪ロを快諾していたからである。実際、そのための下準備も進められていた。情報、防諜、秘密警察機能を担う国家保衛部の李昌大(リ・チャンデ)保衛相の訪ロがその布石だった。
しかし、6月1日にウクライナ軍特殊部隊と保安庁がドローンを使ってロシア領内を一斉攻撃したことは、北朝鮮に大きな衝撃を与えた。中でも、ドローンを事前にロシア領内へ持ち込み、国境から約4500キロ離れたシベリア南部のイルクーツク州やアムール州の基地を攻撃したことは深刻な脅威として受け止められた。
平壌からモスクワまで列車で向かうには、往復で約3週間に及ぶ長旅となる。国境都市ハサン駅から、ハバロフスク、チタ、イルクーツク、クラスノヤルスク、オムスクを経て、モスクワのヤロスラブリ駅まで約9208キロにわたるロシア国土を横断しなければならない。ウラル山脈を越える必要があるほか、途中の複数の駅では車両点検のため20〜30分程度停車する。訪問先がモスクワでなく、ウラジオストークだとしてもウラジオストークまで鉄道で移動する場合、台車交換に要する時間を含めると20時間以上はかかる。
線路に爆発物が仕掛けられる可能性もあるほか、ドローンや長距離ミサイルによる攻撃を受ける恐れもある。飛行機の場合でも迎撃の不安が付きまとう。
ウクライナは、国際社会で唯一、兵士をロシアに派遣してロシアのウクライナ侵攻に加担した北朝鮮を「戦犯国」と位置付け、強く敵視している。報復の機会をうかがっているとみることも十分可能である。
ウクライナ戦争が継続している限り、命を狙われている限り、御身大事の金総書記がロシアを訪問することはないであろう。