2026年7月2日(木)

 幻に終わった「北朝鮮を同盟国に」の5年前の米韓連合軍高官らの驚くべき提案

ブルックス元在韓米軍司令官(左)と任浩永元米韓連合軍副司令官(出展:在韓米軍司令部)

 北朝鮮では、朝鮮戦争が勃発した6月25日から停戦協定が締結された7月27日までを「反米月間」と定めている。

 今年も街頭には「打倒米国」のポスターが掲げられ、テレビでは朝鮮戦争関連の映画やアニメが放送されるなど、全国各地で「反米・復讐決意集会」が開催され、米国への人民の憎悪を煽っている。

 朝鮮民主女性同盟や朝鮮青年同盟をはじめとする各界各層の団体は、24日から25日にかけて開かれた復讐決意集会で拳を振り上げ、「米帝国主義の数え切れない罪悪を全国の母親と女性たちの名において厳しく糾弾する」「宿敵である米帝を打倒しよう」とシュプレヒコールを叫んでいた。

 労働新聞は25日付の1面に社説を掲載し、「米帝と階級的な敵に対する激しい憎悪と殲滅の意志で満たされた革命の守護者、階級の前衛闘士として力強く備え、反帝・反米決戦で決定的勝利を収め、我々式の社会主義を限りなく輝かせよう」と訴え、住民に対し徹底した反米闘争意識で武装するよう呼びかけていた。

 一方、シンガポールで史上初の米朝首脳会談が開催された2018年は北朝鮮はトランプ政権に配慮して反米キャンペーンを中断していた。当時、ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のスポークスマンは、北朝鮮が反米キャンペーンを自制したことについて「肯定的な変化は大きな原動力になる」と歓迎の意向を表明していた。それが現在では復活し、以前にも増して激しさを増していることは、米国にとっても決して好ましい状況ではない。

 実は、ハノイ米朝首脳会談が決裂してから2年後の2021年7月、米国の権威ある外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」に「北朝鮮を同盟国にしよう」と呼びかけた寄稿文が掲載されたことがあった。

 提唱者は意外なことに、ブルックス元在韓米軍司令官(2016年4月30日〜2018年11月8日)と、相棒の任浩永(イム・ホヨン)元米韓連合軍副司令官のコンビだった。二人は共同で「北朝鮮との包括的妥結」と題する6ページにわたる論文を執筆した。米軍退役大将と韓国軍退役大将が共同で米外交専門誌に寄稿するのは初めてのことであった。

 寄稿文では、これまでの「軍事的圧力と制裁中心のアプローチには限界があり、北朝鮮が最も望んでいる経済的・政治的困難の緩和を優先すべき」と説明したうえで、米韓両国は北朝鮮との「新しい関係」の構築を進める必要があると主張していた。さらに、戦争終結宣言を通じて在韓米軍と米韓同盟の役割を再定義することや、北朝鮮のインフラ開発のために米国が財政支援を行うことまで提案していた。

 後に任浩永元副司令官(陸軍退役大将)は韓国メディアのインタビューで、寄稿した理由について「私とブルックス司令官は任期終了後、韓米同盟の歴史と本質について、一つの指針となる本を書こうと決めていた」と語っている。また、寄稿文の核心については、「中国から北朝鮮を切り離し、我々側へ引き寄せることにあった」と説明していた。

 二人は、おそらくマイク・ポンペオ元米国務長官の回顧録から着想を得たものと思われる。ポンペオ氏は、2018年3月に平壌を訪問した際、金正恩(キム・ジョンウン)総書記から「中国の脅威から自分を守るには在韓米軍が必要だ」と聞かされたことを回顧録で明らかにしている。

 後にポンペオ氏は「私はこの問題が彼(金正恩)にとってどれほど重要なのかを過小評価していた」と述懐している。しかし、米国ではポンペオ氏に限らず、歴代政権高官の多くが北朝鮮に無知で、北朝鮮指導者らの対中発言には懐疑的だった。

 北朝鮮は初代の金日成(キム・イルソン)主席の時代から、中国に対して強い警戒感と反感を抱いていた。そのことは2016年に公開された韓国の外交文書からも明らかである。1980年代初頭、金主席は北朝鮮に亡命していたカンボジアのノロドム・シハヌーク元国王に対し「ソ連は頼れない。中国も信用していない」と語っていた。

 さらに金主席は、1992年1月に国際担当の金容淳(キム・ヨンスン)書記を特使としてニューヨークへ派遣し、アーノルド・カンター米国務次官に対し、「米朝が国交を正常化してくれるなら、米軍撤退は要求しない。むしろ在韓米軍には地位と役割を変え、平和維持軍のような役割を果たしてほしい」との意思を伝えていた。しかし、米国は「北朝鮮は近いうちに崩壊する」と判断し、この提案を取り合わなかった。

 後継者の金正日(キム・ジョンイル)国防委員長もまた、訪朝した韓国政府関係者に対し、「中国は絶対に信用してはならない。一つの心の中にいくつもの腹を持っている」と対中不信を口にしていた。

 特に金委員長は2000年10月に初めて訪朝したオルブライト米国務長官との会談で、「クリントン大統領が我が国を訪問し、我々との間で平和協定を結び、国交を正常化するならば、その日をもって反米の旗を降ろし、親米に転じる。韓国以上に親米になる」とまで述べていた。

 しかし、皮肉にもこうした可能性ももはや手遅れとなった。中国の習近平主席が6月に訪朝して北朝鮮との関係を強化したことで、中朝関係に楔を打ち込むことは容易ではなくなった。

 米朝首脳会談決裂のツケは実に重いと言わざるを得ない。北朝鮮をロシアへ接近させただけでなく、中朝関係の再接近をも招いてしまったからである。

(参考資料:もしも米朝首脳会談が決裂していなかったならば 破綻による「7つの負の産物」)