2026年7月20日(月)

 米国の敵視政策が不変ならば北朝鮮はイランに「核輸出」する!?

イランを訪問した故金永南最高人民会議常任委員長とロウハニ大統領(当時)(労働新聞)

 北朝鮮はトランプ大統領を名指しこそしていないものの、対米批判を日増しに強めている。

 2日前にも国防省報道官が談話を発表し、「米国が日本、韓国と軍事的に共謀・結託して朝鮮半島とアジア太平洋地域の平和と安定を破壊しようとしている」と批判した。これはワシントンで開催された日米韓3か国統合参謀本部議長会議を念頭に置いたものだ。おそらく、この会議で日米韓3か国の制服組トップが「北朝鮮の完全な非核化」に向け、引き続き緊密に協力していくことを確認したことへの反発であろう。

 北朝鮮は、いつまで待ってもトランプ政権が自国の核保有を容認しないことに苛立ちを募らせているともいえる。仮にトランプ大統領が任期中に核保有を前提とした対話に応じなければ、時間切れとなる可能性が高い。当然、北朝鮮も持久戦を想定し、トランプ政権後も視野に入れながら核開発を進めているものとみられる。

 北朝鮮は第1次トランプ政権下で行われたシンガポール及びハノイでの米朝首脳会談で、▲寧辺にある核施設を廃棄すること▲核実験を全面的に中止すること▲大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を中止し、発射台を解体すること――を約束した。しかし、米国が求めていた地下のウラン濃縮施設の廃棄までは約束しなかったため、会談は決裂に終わった。

 北朝鮮が米国に提示した譲歩案を換言すれば、▲これ以上核兵器を増やさない▲核能力を改良しない▲米国を威嚇しない――というものだった。当然、核兵器や核技術を第三国へ移転しないことも約束したはずである。というのも、金総書記はシンガポール会談に先立つ2018年4月21日に開催された朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会で、「我が国に対する核脅威と核挑発がない限り、核兵器を絶対に使用せず、いかなる場合も核兵器と核技術を移転させない」と公約していたからだ。

 しかし、会談決裂後も米国の対北朝鮮封じ込め政策に変化が見られなかったことから、北朝鮮もこの公約に縛られることはなくなった。核実験こそ自制しているものの、寧辺でのプルトニウム生産と地下施設でのウラン濃縮を再開しただけでなく「火星17号」「火星18号」「火星19号」と立て続けにICBMを開発し、その発射実験を継続している。現状のままであれば、「いかなる場合も核兵器と核技術を移転させない」との公約が今後も守られる保証はない。

 米国は現在、イランに対して軍事攻撃を仕掛け、核放棄を迫っている。仮に米国の狙いどおり、核爆弾約10発分に相当する高濃縮ウラン440キログラムを確保し、核施設を破壊したとしても、革命防衛隊を核としたイラン指導部が核兵器を体制存続の究極的な担保とみなしている限り、核開発を断念させるのは容易ではない。皮肉なことに、イランの核開発を阻止するために始められた戦争が逆に核開発を加速させるという結果を招く恐れがある。

 そのことは米国も早くから危惧していた。ピート・ヘグセス国防長官は4月29日に開かれた米下院軍事委員会の公聴会で、イランの核開発アプローチを「北朝鮮型モデル」と位置付け、「イランは決して核開発への野心を放棄していない」と証言している。

 イランが、すでに核兵器を完成・保有している北朝鮮を羨望し、モデルとして見ていることは十分に想像できる。ヘグセス長官の証言前日、英国紙「タイムズ」(4月28日付)はコラムで「北朝鮮はイランが切実に必要とする核武装の友である」と題して、今後のイランと北朝鮮の核コネクションの可能性を指摘していた。両国の間には長年にわたり蓄積されてきた弾道ミサイル技術協力の基盤が存在し、それは単なる技術移転の域を超え、核武装を加速させる経路へと直結し得るというのである。

北朝鮮の濃縮ウラン施設を見て回る金正恩総書記(朝鮮中央通信)

 現実に北朝鮮は十分な高濃縮ウランを保有しており、その気になれば、いつでも秘密裏にイランへ移転できる。加えて、小型核弾頭の製造とサイルへの搭載技術、地下核施設の生存性を高めるためのエンジニアリング・ノウハウなど、様々な核関連能力を共有している。従って、イランに発見されやすい大規模なウラン濃縮施設の建設段階を省略し、より短期間で核武装に近づくことのできる「核開発への近道」を提供することもできる。

 北朝鮮にとってイランは、1980年に勃発したイラン・イラク戦争で武器を提供するなど支援を行った、伝統的な友好国である。両国は今なお緊密な関係を維持しており、イランも昨年10月の朝鮮労働党創建80周年行事にも政府代表団を派遣している。

 また、イランと北朝鮮は反米で利害を共有する同盟的関係にある。金正恩政権が発足した2012年9月、当時序列2位だった故・金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長がイランを訪問した際、ハメネイ師は「我々には共通の敵がいる」と語っていた。

 今年2月の朝鮮労働党第9回大会で、「米国の覇権政策によって多国間体制を根幹とする現存の国際秩序と国際関係の構図には深刻な変化が起きている」として米国の覇権主義に挑戦状を突き付けた北朝鮮が、中東で唯一生き残っている友好国のイランの国防再建に乗り出すことになれば、かつてシリアのアサド政権に対して行った「核輸出」が再び現実味を帯びる可能性も否定できない。それもこれもイランへの軍事支援は「ウクライナ特需」と同様に新たな「イラン特需」を生み出す可能性があるからだ。