2026年7月26日(日)

 北朝鮮はロシアに3万人の兵力を投入するのか ウクライナへの越境は「露朝条約」違反

訪朝した崔善姫外相と握手を交わすプーチン大統領(朝鮮中央テレビ)

 ウクライナのゼレンスキー大統領は7月25日(現地時間)、自身のX(旧ツイッター)に投稿した夜の演説で「ロシアは北朝鮮に対してさらに3万人の追加派兵を求めている」と明らかにした。また、「ロシアは6月から南西部のボロネジ地域で北朝鮮軍部隊を受け入れる準備を進めている」とも述べた。

2025年6月に平壌で行われたロシア文化相歓迎北朝鮮芸術人公演でのワンシーン(朝鮮中央テレビ)

 ボロネジ州はロシア国内で20位以内に入る人口規模の都市圏で、南部はウクライナのルハーンシク州と接している。同州ではウクライナによるドローン攻撃がたびたび発生しており、先月22日には州内の半導体関連工場がウクライナからの巡航ミサイル攻撃を受け、火災が発生していた。

 さらにゼレンスキー大統領は「北朝鮮は追加の弾道ミサイル発射機(ランチャー)をロシアへ移送する準備も進めている」と述べていた。これに先立ち、ウクライナ国防省情報総局(HUR)は、北朝鮮がロシア軍の砲弾供給の25〜40%を担っているほか、ロシアの「イスカンデル」に類似した戦術誘導ミサイル「KN−23」、米国の「ATACMS」に類似した「KN−24」戦術地対地ミサイル100発以上と移動式発射機を提供したと発表している。このうち80発以上がウクライナ戦争で使用されたとしている。

 思えば、先週(7月18日)、北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外相がロシアを公式訪問し、19日にクレムリンでプーチン大統領と会談していた。韓国では、崔外相の訪露について金正恩(キム・ジョンウン)総書記のモスクワ訪問に向けた地ならしではないかとの報道もあった。しかし、ゼレンスキー大統領の発言が事実であれば、プーチン大統領が追加派兵を要請するため、崔外相の訪露を急きょ要請したとの見方が成り立つ。

 ロシア側の報道によれば、プーチン大統領は崔外相に対し、「特別軍事作戦の遂行に貢献した北朝鮮指導部に改めて感謝の意を表する」と述べ、ウクライナ戦争における北朝鮮の軍事支援に謝意を示した。

 北朝鮮は、プーチン大統領と金正恩総書記の間で締結された「包括的戦略的パートナーシップに関する条約」に基づき、2024年10月の第1次派兵を皮切りに、計4回にわたり戦闘部隊(特殊部隊)や工兵部隊など約2万人をクルスク地域へ派遣したとされる。これらの部隊は推定で約6000〜7000人の死傷者を出しながら、ロシアによるクルスク奪還作戦に寄与したとされている。

 ウクライナ情報当局の報告書によれば、今年1月時点でロシアにはなお約1万4000人の北朝鮮軍が駐留している。仮に追加で3万人が派遣されれば、ロシア国内に駐留する北朝鮮兵力は総勢約4万4000人規模となる。

 ただし、ゼレンスキー大統領は今回の発言について、情報源や具体的な根拠を示していない。注目されるのは、同大統領が「これはウクライナだけに対する脅威ではない。ロシアは北朝鮮が戦争遂行の方法を学び、兵器を改良し、実戦で運用する経験を積むことを支援している。これらすべては、北朝鮮のミサイル射程圏内にあるアジアのすべての国々にとって脅威である」と警告した点である。

 この発言は、北朝鮮のミサイル脅威にさらされている韓国や日本の警戒感を高め、対ロシア戦への関与を促すための情報発信、あるいは宣伝戦の一環と見ることもできる。

 というのも、ウクライナではこれまで、キリーロ・ブダノフ国防省情報総局長が「北朝鮮はウクライナ戦争への軍隊派遣の見返りとして、ロシアから兵器システムや軍事技術を受け取っている」「ロシアは北朝鮮の核兵器運搬手段の近代化を支援している」といった、韓国の関心を引く発言を繰り返してきたからだ。

 また、ゼレンスキー大統領も昨年1月9日のUDCG(ウクライナ防衛コンタクトグループ)会議で、「この戦争で経験を積んだ北朝鮮軍がインド太平洋地域の安全保障を脅かす可能性がある」と発言していた。

 さらに、仮に追加派兵が行われるとしても、戦闘部隊ではなく、破壊された施設の復旧に従事する工兵部隊である可能性も排除できない。金総書記は7月17日、社会主義建設の主要戦域で功績を挙げた建設・工兵部隊の指揮官や兵士らと記念撮影を行っており、これらの部隊が派遣対象となる可能性も指摘できる。

 プーチン大統領としては、ドローンや長距離ミサイルによってロシア領内の軍需工場、製油所、物流施設などへの攻撃を拡大するウクライナからの前線・後方双方への圧力に対抗するため、北朝鮮による追加支援を期待しているとみられる。しかし、実際に派兵を決定するかどうかは、最終的には金総書記の判断に委ねられている。

 金総書記にとって、ロシアがこの戦争で敗北することは重大な打撃となる可能性がある。北朝鮮の核保有を事実上容認してきたロシアが敗北すれば、北朝鮮は重要な後ろ盾を失い、国際的孤立がさらに深まる恐れがあるためだ。

 北朝鮮は約110万人規模の正規軍を擁しており、金総書記が出兵を命じれば、一定規模の兵力投入は可能とみられる。

 金総書記はこれまで「平壌はモスクワと共にある」と繰り返し表明してきた。また、派兵後の2024年11月に訪露した崔善姫外相はラブロフ外相との会談で「ロシアが勝利する日までロシアを支援する」と表明していた。

 ロシアはボロネジ州だけでなく、自国が占領しているザポリージャ地域でも、海辺のリゾート施設がウクライナ軍の攻撃を受けるなど、苦戦を強いられている。

 一方で、露朝条約の枠組みに基づけば、北朝鮮地上部隊の戦闘地域はロシア領内に限定されており、国境を越えたウクライナ侵攻への参加が認められるかどうかは別問題となる。

 したがって、仮に追加派兵が実施された場合、最大の焦点は北朝鮮軍がウクライナ領内で戦闘に参加するかどうかである。すなわち、ロシアが占領しているドネツク州やルハーンシク州などの戦線に投入されるのかが、今後の最大の注目点となる。

(参考資料:ウクライナに敵視されている金正恩総書記は身の安全上、モスクワには行けない!